サイリーン (競走馬)

サイリーン：クラシック出走なき名馬の物語

1890年代末、イギリスで活躍した競走馬サイリーン。その名は、母馬アルカディアにちなみ、ギリシャ神話に登場するキュレーネー山から取られました。日本では「サイレン」や「シリーン」と表記されることもあります。サイリーンは、遅生まれで成長が遅かったため、オーナーブリーダーはクラシック登録を見送りました。のちにこの決断を後悔したと伝えられています。

しかし、サイリーンの競走成績は輝かしいものでした。2歳、3歳時にそれぞれ1度ずつ敗戦を喫したものの、その後はめざましい活躍を見せました。特に注目すべきは、ダービーステークス優勝馬ジェダーを破ったニューマーケットステークスでの勝利と、ジョッキークラブステークスでの圧勝です。翌年には、アスコットゴールドカップで8馬身差という圧倒的な強さで優勝。このレースを最後に、華々しい現役生活に幕を閉じました。

競走馬としての成功は、種牡馬としての成功へとつながりました。種牡馬入りしたサイリーンには、多くの種付け申し込みが殺到し、初年度の種付け料は150ギニーにまで高騰しました。しかし、初年度産駒の活躍は芳しくありませんでした。1905年にはキケロがダービーステークスを制覇するも、サイリーン自身は失敗種牡馬という評価を覆すことができず、1909年には2万5000ギニーでアルゼンチンに輸出されました。

運命の転換点は、アルゼンチンでの活躍でした。サイリーンは、アルゼンチンでその真価を発揮します。残してきた産駒の中から、3年連続でエプソムダービー馬を輩出し、1909年と1910年にはリーディングサイアーに輝きました。さらに、その産駒であるポリメラスは、後に種牡馬として大成功を収め、サイリーンのサイアーラインを大きく発展させました。アルゼンチンでもナシオナル大賞（アルゼンチンダービー）馬を3頭送り出すなど、その成功は留まるところを知りませんでした。

サイリーンは穏やかな気性で知られており、常に人を気遣うほどであったと伝えられています。1924年、アルゼンチンのオホデアグア牧場で倒れて寝たきりとなりましたが、30歳まで生き抜きました。

サイリーンの競走成績は華麗で、数々の栄光を手にしました。主な勝利には、ナショナルブリーダーズプロデュースステークス、1000ソヴリンウォースステークス、トリエニアルステークス、セフトンパークプレート（1897年）、ジョッキークラブステークス、ニューマーケットステークス、サンダウンフォールステークス（1898年）、アスコットゴールドカップ、トリエニアルステークス（1899年）などがあります。

その産駒にも、数々の名馬が名を連ねています。ミノル（エプソムダービー、2000ギニー）、ポリメラス（チャンピオンステークス、イギリスリーディングサイアー6回）、タガリー（エプソムダービー、1000ギニー）、キケロ（エプソムダービー）、レンバーグ（エプソムダービー）、セントエミリオン、パラグリン、ガウロイ（ナシオナル大賞）、メイドオブザミスト（ナッソーステークス、チェヴァリーパークステークス）など、数多くの競走馬が活躍し、サイリーンの血統は現代まで受け継がれています。メイドオブザミストは繁殖牝馬としても成功し、その子孫にはスピードシンボリやワシントンカラーといった名馬も含まれています。

サイリーンは、クラシック競走には出走できませんでしたが、その類まれな能力と穏やかな気性で、競走馬、種牡馬として大きな成功を収めた、まさに伝説的な名馬と言えるでしょう。その血統は、現代競馬にまで大きな影響を与え続けています。サイリーンの物語は、競走馬の運命と、血統の偉大さを改めて感じさせてくれます。

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