サナト・クマーラ

サナト・クマーラとは

サナト・クマーラ（サナートクマラ、サナット・クマラ、Sanat Kumāra）は、ヒンドゥー教の神話に登場する賢者であり、ブラフマー神の精神から生まれた四人のクマーラ（チャトゥルサナ）の一人です。サンスクリット語で「永遠の若者」を意味し、その名が示す通り、不老不死の存在として描かれています。

近代神智学においては、サナト・クマラは1850万年前に金星から地球にやってきた霊的指導者、マハトマであるとされています。地球のロゴス（創造主）の代理人として、物質界における活動を司り、人類を含む全ての生命体の進化を統括する「世界君主」として、マハトマの頂点に位置づけられています。

ヒンドゥー教とジャイナ教におけるサナト・クマーラ

ヒンドゥー教の聖典『チャーンドーギヤ・ウパニシャッド』には、リシ・ナーラダとの対話が記述されており、サナト・クマーラの知恵と洞察力が示唆されています。『ラーマーヤナ』にもその名が登場し、重要な役割を担っていることが窺えます。『シヴァ・プラーナ』には「サナト・クマーラ・サンヒター」という章があり、彼の教えが詳述されています。

ジャイナ教においても、サナト・クマラは神として崇められています。また、神智学的観点の影響を受けた人々は、サナト・クマラを崇拝するための神殿が、スリランカのカタラガマにある聖地に存在すると主張しています。

近代神智学におけるサナト・クマラ

近代神智学の創始者であるヘレナ・P・ブラヴァツキーは、サナト・クマラを「炎の主方」の一人として言及しましたが、その説明は簡潔でした。その後、アリス・ベイリーやベンジャミン・クレームといった神智学の分派が、より詳細な設定を付け加えました。これによれば、サナト・クマラは地球の惑星ロゴスの物質界における反映を司るために、1850万年前に金星からやって来たとされています。

サナト・クマラは104人のクマラと共に地球に到来し、彼らは「炎の天主方」とも呼ばれています。現在、地球に留まっているのは、サナト・クマラと、活動の仏陀と呼ばれる3人のクマラのみです。サナト・クマラは、グレート・ホワイト・ブラザーフッドを創設し、そのリーダーとして、モンゴルのゴビ砂漠上空のエーテル界に「シャンバラ」を発生させ、そこを本拠地としています。

サナト・クマラが地球にやって来た当時、人類は動物としては完成していましたが、まだ人間としての魂が宿る器を持っていませんでした。サナト・クマラは炎の主方と共に、動物的な存在であった人類に魂を宿し、人間としての進化を促したとされています。これにより、人類は真の意味で人間になったとされています。

サナト・クマラは、第三段階以上のイニシエーション（霊的覚醒）を司るとされており、第二段階まではマイトレーヤが担当します。

日本におけるサナト・クマーラ

日本では、「サナト・クマラ」や「サナート・クマラ」と表記され、ニューエイジの文脈やファンタジー作品において、護法魔王尊と同一視されることがあります。京都の鞍馬山にある鞍馬寺は、元々毘沙門天を祀っていましたが、現在は毘沙門天、千手観世音、護法魔王尊の三尊を祀る新宗教・鞍馬弘教の総本山となっています。鞍馬はクマラの転訛であるとも言われており、護法魔王尊が650万年前に金星からやってきたという説は、近代神智学の影響が見られます。

近代神智学を日本に紹介した三浦関造は、サナト・クマラを法華経に登場する上行菩薩と同一視しています。

脚注

大田俊寛『現代オカルトの根源 - 霊性進化論の光と闇』筑摩書房〈ちくま新書〉、2013年。
アリス・ベイリー『トランス・ヒマラヤ密教入門 全4巻』アート・ユーリアンス・編、土方三洋・訳、アルテ、2002年。

関連項目

* ドクター・ストレンジ：グラフィックノベル『Dr. Strange: Into Shambhala』では、主人公ストレンジがサナト・クマーラをはじめとする大師たちに会うために、シャンバラへの旅を準備する様子が描かれています。

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