サフラー

サフラー（Sahure）

「ラー神の傍にある者」を意味する名前を持つサフラーは、古代エジプト古王国の第5王朝において、2代目の王として紀元前25世紀初頭に即位しました。およそ12年間の統治期間は、しばしばこの王朝の政治的・経済的な頂点と見なされており、彼はこの時代の最も重要なファラオの一人に数えられています。

彼の出自については長年議論がありましたが、近年のアブシールにおけるピラミッド複合体の発掘調査により、父は先代のファラオであるウセルカフ、母は王妃ネフェルヘテペスであったことがほぼ確実視されています。王位は息子であるネフェルイルカラー・カカイに継承されました。

治世と年代

サフラーの統治期間は、歴史記録や同時代の史料によって比較的明確に追うことができます。第19王朝時代のトリノ王名表には12年5ヶ月12日と記録されており、第5王朝に近い時期に作成されたパレルモ石と呼ばれる年代記には、彼の治世における様々な出来事や牛の頭数調査（通常2年ごとに行われたとされる）が記録されています。これらの記録を総合すると、少なくとも12年、あるいは13年以上にわたる治世であった可能性が示唆されており、これは紀元前3世紀にマネトが記した歴史書の記録とも一致します。サフラーの名前は、後の時代のカルナック王名表やサッカラ王名表にも確認されており、後世においても記憶されていたことがわかります。

対外活動と経済

サフラーの治世は、エジプトが積極的に海外との関係を築いた時代でもありました。特にレヴァント海岸との貿易は活発で、貴重なレバノン杉材や、おそらく奴隷を含む人々、そして珍しい品々を入手するため、現在のレバノン方面へ複数回の海上遠征を実施しています。彼のピラミッド複合体のレリーフには、100キュビット（約50メートル）級の大型船団が描かれており、一部は杉材を満載して帰還する様子が見られます。また、「アジア系」の人々を乗せた船も描かれており、これは貿易だけでなく人的交流、あるいは強制的な連行もあったことを示唆します。特に目を引くユニークなレリーフとしては、シリアヒグマを描いたものがあり、これらは貢物の一部であった可能性が指摘されています。

サフラーはまた、歴史上初めて記録として証明されているプント国（現在のエリトリアやソマリア方面と推定）への遠征を命じました。この遠征は成功を収め、大量の没薬、マラカイト、エレクトロン（金と銀の合金）といった貴重品をもたらしました。サフラーはこのプント遠征の成功を葬祭殿のレリーフで祝賀しており、「サフラーの栄光は天へと昇る」と名付けられた王宮の庭で没薬の木の手入れをする自身の姿を描かせています。これは古代エジプト美術において、王がガーデニングをする姿を描いた唯一の例として知られています。

さらに、シナイ半島にあるトルコ石や銅の鉱山への遠征隊派遣も行われ、大量の銅を持ち帰った記録があります。これらの地にはサフラーの名を刻んだレリーフが残されており、彼が「アジア人」を打ち据える伝統的な王権表現と共に、自らの偉業を誇示しています。西部砂漠では、リビア人の部族長に対する軍事行動が行われ、家畜がエジプトにもたらされたことがレリーフに描かれていますが、この場面は後世の王の神殿でも繰り返し使われているため、サフラー自身の実際の軍事行動というより、王権の定型的な表現であった可能性も指摘されています。

国内活動と宗教

サフラーは、それまでの王家の埋葬地であったサッカラやギーザを離れ、アブシールに自身のピラミッドを建造するという重要な決定を下しました。これは、先代のウセルカフがアブシールに最初の太陽神殿を築いたことに影響を受けた可能性が高いとされています。このアブシールへの移転は、その後の第5王朝における王家のネクロポリスの場所を定めました。

パレルモ石の記録によれば、サフラーの国内活動の多くは宗教的な性質を持っていました。彼はヘリオポリスにおける聖なる船の建造を命じ、様々な神殿に対して日々の供物の量や寄進を定めました。また、彼は自身の太陽神殿「ラー神の平野（セケト・ラー）」をアブシールに建造したとされますが、その正確な位置はまだ特定されていません。この神殿の石材の一部が、後にニウセルラー王の葬祭殿に再利用されていることが発見されており、神殿が未完成であったか、あるいは石材源として利用されたことを示唆しています。

ピラミッド複合体

アブシールに築かれたサフラーのピラミッド複合体は、建築史上重要な意義を持っています。主ピラミッド自体は先行する第4王朝の巨大ピラミッドに比べると規模は小さく（当初の高さ約47メートル）、内部構造も粗い石材と泥モルタルで構成されており、建造技術の質的な変化を示しています。そのため、現代では大きく損壊し、瓦礫の山のようになっています。

しかし、付属する葬祭殿とその装飾は、それまでの王墓建築を凌駕する洗練されたものでした。推定10,000平方メートル以上に及ぶ壁面は精緻なレリーフで全面的に飾られており、その質の高さと多様な主題で知られています。前述のガーデニングやシリアヒグマ、レヴァントからの船団、外国人計数といったユニークな場面のほか、主ピラミッドにピラミディオンを運ぶ儀式や、施設の完成を祝う式典、葬儀のための経済システムを示す行列などが描かれています。また、葬祭殿と河岸神殿を結ぶ参道もレリーフで彩られていました。

建築的な特徴として、サフラーの葬祭殿ではヤシの葉を模した柱頭を持つ「ヤシ柱」が初めて導入され、これはその後のエジプト建築の定番となりました。さらに、黒い玄武岩の床や花崗岩の腰羽目、銅で覆われた巨大なアーキトレーブなど、豪華な装飾材が使用されました。

サフラーのピラミッド複合体の全体的な配置や構造は、その後の古王国時代の王墓建築の規範（テンプレート）となり、300年以上にわたって踏襲されました。

宮廷の役人たち

サフラーの治世下では、多くの高官や役人が活躍しました。彼のピラミッド複合体のレリーフや、同時代の墓碑銘からその存在が知られています。特筆すべき人物としては、王の主治医ニアンクセクメト（王が彼の墓に精緻な偽扉を作ることを許可した）、ウセルカフとサフラーに仕え後に宰相となったペヘネウカイ、サフラーの母の葬儀司祭ペルセン、プタハ大司祭で後に宰相となったプタハシェプセスなどがいます。また、セケムカラーのような王子出身の宰相がいた一方で、ウェルバウバのような非王族出身の宰相もおり、これはウセルカフ時代から続く非王族の能力ある人物を高官に登用する方針がサフラーによっても引き継がれたことを示しています。

後世への遺産

サフラーの遺産は多岐にわたります。彼の死後も、彼の葬祭儀式は古王国が終焉を迎えるまでの300年以上継続され、これを支えるために22もの農場が設立されました。この儀式や彼の太陽神殿に仕えた多くの神官たちの名前が、アブシールやサッカラの墓碑銘に残されています。

また、前述のように彼のピラミッド複合体のレイアウトや建築様式は、その後の王墓建築のモデルとなりました。ヤシ柱のような建築要素は、エジプト美術・建築の普遍的な特徴の一つとなっていきます。

古王国時代が終わり、中王国時代に入ってもサフラーは忘れられませんでした。第12王朝のファラオ、センウセルト1世はカルナック神殿にサフラーの像を建立させており、これは現存しカイロのエジプト考古学博物館に収蔵されています。また、第12王朝時代の文学作品であるウェストカー・パピルスにも、第5王朝の起源を語る神話的な物語の中で、ウセルカフやネフェルイルカラーと共にサフラーが登場しています。

さらに後の新王国時代においても、サフラーは祖先崇拝の対象であり続けました。第18王朝のトトメス3世のカルナック王名表にその名が記されていることや、第19王朝のラムセス2世の王子カエムワセトがサフラーのピラミッドを修復したことが碑文からわかっています。サフラーの葬祭殿は、遅くとも第18王朝中期からはセクメト女神の聖域となり、その後の時代も多くの訪問者が碑文や像を残しており、彼の地が長い間特別な場所として認識され続けたことを示しています。

もう一度検索