サミュエル・コーネリアス・フィリップス(通称サム・フィリップス)は、
1923年1月5日に生まれ、
2003年7月30日に亡くなったアメリカの
実業家、レコード会社重役、
音楽プロデューサー、そして
ディスクジョッキーでした。1950年代のポピュラー音楽界において、
ロックンロールの出現に重要な役割を果たしました。
生い立ちと音楽との出会い
アラバマ州の貧しい小作農家に生まれたフィリップスは、幼少期に両親や黒人労働者と共に綿花を摘んでいました。農場で労働者たちが歌う音楽は、幼いフィリップスに大きな影響を与えました。1939年、家族とメンフィスを訪れた際、ビール・ストリートの活気に魅了され、音楽への関心を深めました。高校時代は弁護士を目指していましたが、
世界恐慌の影響で父親が破産し、家計を支えるために高校を中退しました。
ラジオ業界からレコード会社設立へ
1940年代には、ラジオ局WLAYで
ディスクジョッキーとエンジニアとして働きました。このラジオ局の「オープン・フォーマット」が、後の彼の音楽活動に大きな影響を与えました。その後、WRECでアナウンサー兼音響技師として4年間勤務しました。
1950年、メンフィスに「メンフィス・レコード・サービス」を開業。アマチュアミュージシャンの演奏を録音し、
B.B.キングやハウリン・ウルフといった才能をメジャーレコード会社に売り込みました。また、結婚式や葬式などのイベント録音も手がけました。1952年からは、自身のレコードレーベル「サン・レコード」のスタジオとしても使用するようになりました。
フィリップスはジャンルにこだわらず、ブルースにも深い関心を持っていました。彼はブルースを「人生の困難さと素晴らしさを教えてくれる音楽」と捉えていました。音楽評論家ピーター・グラルニックによると、フィリップスがレコーディングしたジャッキー・ブレンストン&デルタ・キャッツの『Rocket 88』が、最初の
ロックンロールレコードとされています。1950年から1954年の間には、
ジェイムズ・コットンやルーファス・トーマスなど、数多くのアーティストの音楽をレコーディングしました。
フィリップスの最大の功績は、1954年の
エルヴィス・プレスリーの発掘です。プレスリーは当初、フィリップスの印象に残る存在ではありませんでしたが、『ザッツ・オール・ライト』のレコーディングをきっかけに、その才能が開花しました。プレスリーの成功はサン・レコードの大きな転機となり、彼はアメリカ南部を越えて人気を集めました。また、ソニー・バージェスやカール・パーキンスなど、他の多くのアーティストもサン・レコードでヒットを飛ばしました。
新人発掘への情熱と独自のレコーディング技術
フィリップスは、新しく独特なアーティストを育成することに情熱を燃やしていました。彼はミュージシャンの才能を見抜き、その可能性を最大限に引き出すことに長けていました。技術的な完璧さよりも、感覚や感情を重視したレコーディングを行い、アーティストの最高のパフォーマンスを引き出しました。
プレスリーのレコーディングでは、ボーカルの音量を抑え、伴奏とマッチさせるなど、革新的な技術を試しました。また、テープ・ディレイによるエコー効果も特徴的でした。
RCAレコードは、サン・レコードの音を再現しようと試みましたが、フィリップスの技術には及ばなかったとされています。
1954年12月4日には、
ジェリー・リー・ルイス、カール・パーキンス、
エルヴィス・プレスリー、
ジョニー・キャッシュがフィリップスのスタジオで即興セッションを行った「ミリオン・ダラー・カルテット」という歴史的な出来事がありました。
1960年代中盤になると、フィリップスはレコーディングから遠ざかるようになり、1968年にサン・レコードを売却しました。
その他のビジネスと晩年
フィリップスは、ホテルチェーン「ホリデイ・イン」の初期投資家でもあり、大きな財産を築きました。また、ラジオ局WHERを開設し、女性が主役のラジオ局として注目を集めました。
1986年には、
ロックの殿堂の最初の殿堂入り者の1人となり、その音楽への貢献が称えられました。1991年には
グラミー賞特別功労賞理事会賞を受賞しました。
2003年、呼吸器不全で亡くなりましたが、彼の功績は今もなお語り継がれています。
サム・フィリップスの遺産
サム・フィリップスは、
ロックンロールの黎明期において、重要な役割を果たしました。彼は、才能あるアーティストを発掘し、革新的なレコーディング技術で、音楽の歴史に大きな足跡を残しました。彼の情熱と先見の明は、音楽業界に多大な影響を与え続けています。