サンワーキン川

サンワーキン川：カリフォルニアの大動脈

サンワーキン川は、カリフォルニア州中部を流れる最長の川であり、その全長は589キロメートルに及びます。シエラネバダ山脈を源流とし、肥沃なサンホアキン・バレーを貫き、サスーン湾、サンフランシスコ湾を経て太平洋へと注ぎます。

川の変遷

サンワーキン川は、灌漑用水源として非常に重要な役割を担っています。しかし、その一方で、多くのダムや流路変更が行われてきた歴史も持っています。この川は、かつては豊かな生態系を育んでいましたが、水路や運河への過剰な取水により、流量が激減し、環境問題も深刻化しています。

先住民の生活

サンホアキン・バレーには、8000年以上前から人々が定住しており、先コロンブス期のカリフォルニアでは、最も人口が集中していた地域の一つでした。18世紀後半以降、スペイン人やアメリカ人の探検家や開拓者が押し寄せ、先住民は搾取され、排斥されてきました。彼らは流域の豊富な資源を独占し、農業や都市開発に利用しましたが、その結果、洪水や干ばつにも悩まされるようになりました。

名前の由来

サンワーキン川は、時代とともに様々な名前で呼ばれてきました。現在の名前は、1805年から1808年にかけて、スペインの探検家ガブリエル・モラガが、聖ヨアキムにちなんで名付けたものとされています。また、先住民のグループは「Peticutry」と呼んでいたという記録もあり、モノ語では「重要な、または偉大な川」を意味する「typici h huu'」と呼ばれていました。

流路の詳細

川の源流はアンセル・アダムス原野にあり、シエラネバダ山脈の中部から南部にかけて、3つの主要な支流が合流しています。山地から丘陵部を流れる間に、4つの水力発電用ダムがあり、フライアントダムによってミラートン湖が形成されています。フライアントダムより下流では、サンホアキン・バレーを流れ、フレズノの北を通過します。この地域では、水路への取水により、川がしばしば水無川となることもあります。メンドータ付近で、デルタ・メンドータ運河やフレズノ沼地からの水によって再び満たされます。その後、北西に流れ、多くの天然、人工の水路を通過し、サクラメント・サンワーキン川デルタへとつながります。

主要な支流

サンワーキン川には、フレズノ川、チャウチラ川、マーセド川、トゥオルミ川など、多くの支流が流れ込んでいます。これらの支流は、シエラネバダ山脈を源流とし、沖積平野を自由に流れています。支流の多くは、鳥類やエビ、蛇などの生息地としても重要です。下流では、モデストの西でトゥオルミ川、ヴァーナリス付近でスタニスラウス川といった大きな支流と合流します。

河口付近の様子

河口付近では、ストックトンの西縁部を通り、航行維持事業のために浚渫が行われています。満潮汀線より下流では三角州が形成され、多くの島々を縫うように流れて、最終的にはサスーン湾に注ぎ、カルキネス海峡を経てサンフランシスコ湾から太平洋へと流れ込みます。

流量について

農業開発以前のサンワーキン川の年間平均流量は、74億～97億立方メートルと推定されていますが、現在は約56億立方メートルに減少しています。これは、ダムの建設や灌漑用水への転用が主な原因です。川の流量は季節によって大きく変動し、冬から春にかけては雪解け水や雨水で増え、夏から秋にかけては少なくなります。

地質

サンワーキン川は、地質学的に大きく2つの部分に分けられます。フライアントダムより上流は、シエラネバダ山脈の急斜面を下る急流で、中生代の花崗岩や変成岩で構成されています。一方、下流は新生代の沖積層を曲がりくねって流れ、極めて平坦なセントラルバレーを形成しています。この地域には、厚さ9.7～15.3キロメートルの堆積層があり、アメリカ西部でも最大級の帯水層が広がっています。この帯水層は、年間20億立方メートルの水が流入しており、貴重な水源となっています。

歴史

先住民の歴史

サンホアキン・バレーには、ミウォク族とヨクート族という2つの大きな部族が居住していました。彼らは狩猟採集民で、豊かな自然の中で自給自足の生活を営んでいました。18世紀には、サンホアキン・バレーには69,000人以上の先住民が暮らしており、北アメリカでも有数の人口集中地域でした。

スペイン、メキシコの影響

1772年、ペドロ・ファヘスは、サンワーキン川を最初に見た非先住民として記録されています。その後、スペイン人による探検が始まり、伝道所を建設する場所が探されました。1806年には、ガブリレル・モラガがサンホアキン・バレーを訪れ、現在の川の名前を命名しました。初期には友好的だったスペイン人と先住民の関係も、時間が経つにつれて対立へと変わっていきました。19世紀初頭には、スペイン軍が先住民を伝道所へ連行し、サンワーキン・バレーの先住民はほぼ絶滅に近い状態になりました。

アメリカの時代

1826年、ジェデッドアイア・スミスが、アメリカ人として初めてサンワーキン川を訪れた可能性があります。その後、1830年代には、天然痘やマラリアなどの伝染病が蔓延し、先住民の人口は激減しました。1846年にカリフォルニアがアメリカの一部となると、多くの移民がバレーに流入し、町が形成されました。カリフォルニア・ゴールドラッシュの影響で、サンワーキン・バレーの人口は急速に増加し、ストックトンは重要な交易の中心地へと発展しました。しかし、その一方で、川は商業的な航行には適さなくなり、1911年には完全に消滅しました。

灌漑の拡大

19世紀後半には、灌漑農業が導入され、サンワーキン川流域は大きく変化しました。灌漑地区が組織され、水路が建設されるようになりました。しかし、その結果、川は下流に到達する前に干上がってしまうようになり、水利権をめぐる対立が激化しました。20世紀初頭には、サンワーキン川から多くの水が流用されたため、川は航行に適さなくなりました。また、川をめぐる訴訟は、アメリカで最も訴訟が多い川と呼ばれるほどでした。

ダムと放水路の建設

20世紀初頭には、水力発電の発展に伴い、多くのダムが建設されました。ビッグ・クリーク水力発電プロジェクトをはじめ、サンワーキン川や支流には多くの発電所やダムが建設されました。また、ストックトン港の浚渫事業が行われ、川の航行能力が回復しましたが、環境への悪影響も生じました。連邦政府や州政府によって、セントラルバレーに水を輸送する大規模な計画が実行され、フライアントダムをはじめとするダムや運河が建設されました。これにより、農業用水の供給は安定しましたが、河川環境は大きく変化しました。

環境と生態系

かつての生態系

かつて、サンワーキン川流域は、草地と湿地が広がる豊かな地域でした。太平洋渡り鳥飛来経路に沿って、数百万羽もの鳥が飛来していました。しかし、農業開発や都市化が進んだ結果、湿地の95％が失われ、大型の草食動物や肉食動物も数を減らしました。

現在の生態系

現在、サンワーキン川流域では、外来種の魚が多く生息しており、固有種は減少傾向にあります。サクラメント・サンワーキン淡水生態系地域は、約40種の淡水魚を保護していますが、侵入した他の種に捕食されたり、ダムの建設によって、生息数を減らしている種が多くいます。

汚染問題

サンワーキン川は、アメリカで最も汚染された川の一つでもあります。農薬や肥料、都市からの排水によって、セレン、フッ化物、硝酸塩などの化学物質濃度が高くなっています。また、高い塩分濃度も慢性的な問題となっており、放棄された鉱山からは有毒な排水が流れ込んでいます。

サーモンの減少

かつて、サンワーキン川には多くのサーモンが遡上していましたが、ダムの建設や環境の変化によって、その数は激減しました。産卵に適した場所が減少し、水温の上昇や外来種の捕食も、サーモンの生息数を減少させる原因となっています。近年、サーモンの数を増やすための取り組みが行われていますが、道のりは険しいと言えます。

地下水の過剰揚水

農業用水の需要が増えた結果、サンホアキン・バレーでは地下水の過剰な汲み上げが行われてきました。その結果、地盤沈下が進行し、インフラに大きな影響を与えています。1960年代には年間約99億立方メートルもの地下水が汲み上げられ、その結果、地盤が最大で8.5メートルも沈下した場所もあります。地下水位も大きく低下しており、地下水の汲み上げがもたらす問題は深刻です。

復元への取り組み

近年、サンワーキン川の復元に向けた取り組みが始められています。2009年には、河川流量を増やすための放水が開始され、乾燥した環境が回復しつつあります。また、サーモンの遡上を復活させるための活動も行われています。湿地の復元も進められており、地域全体の生態系の回復が期待されています。サンワーキン川の復元は、アメリカでも最大規模のプロジェクトの一つであり、多額の費用と時間が費やされています。

流域について

サンワーキン川の流域は、約82,000平方キロメートルに及び、カリフォルニア州内では最も流域面積が広い川です。流域の大部分はサンホアキン・バレーであり、農業が盛んです。アメリカ国内でも最も農業生産性が高い地域の一つで、アメリカで農業生産額の多い郡の多くが、サンワーキン川の流域に位置しています。流域には、ベーカーズフィールド、フレズノ、ストックトン、モデストといった主要な都市があります。人口増加率も高く、今後の発展が見込まれる地域です。

支流

サンワーキン川には、多くの支流が流れ込んでおり、その中でも特にトゥオルミ川が最も長く、流域面積、流量ともに大きいです。その他の支流として、マーセド川、Mokelumne川などがあります。これらの支流も、サンワーキン川の生態系を支える重要な役割を果たしています。

サンワーキン川は、その長い歴史の中で、多くの変遷を経験してきました。今後は、環境への負荷を軽減し、持続可能な水資源管理を目指した取り組みが求められています。

付録

本記事は、下記参考文献に基づき作成しました。

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