サヴァンナ (原子力貨物船)

原子力貨客船サヴァンナ（NS Savannah）

NSサヴァンナは、アメリカ合衆国が建造した貨客船であり、非軍事目的の原子力船としては世界で2番目にその姿を現しました。船名はこのプロジェクト以前に大西洋を初めて横断した蒸気船、初代サヴァンナに由来しています。

この船は、当時のドワイト・アイゼンハワー大統領が提唱した「平和のための原子力（Atoms for Peace）」政策の一環として提案されました。原子力技術を平和利用する具体例として、商用船舶への応用を実証するデモンストレーション船、そして政策の象徴としての役割を担うことになったのです。1956年に連邦議会の承認を経て、原子力委員会、連邦海事局、商務省が共同で開発を進めました。船体の建造はニューヨーク造船所が担当し、心臓部である原子炉と主機はバブコック・アンド・ウィルコックス社によって製造されました。1959年7月21日にはアイゼンハワー大統領夫人のマミー・アイゼンハワーによって命名・進水し、1961年12月に完成、翌1962年5月1日に無事引き渡されました。

設計と設備

サヴァンナは、単なる輸送船ではなく、「原子力の平和利用」を世界に示すための「ショーケース」としての側面を持っていました。そのため、外観は貨物船らしからぬ、印象的で優美な流線型の船体をしており、まるで豪華なヨットのようなたたずまいでした。船内には豪華な旅客設備が設けられていました。旅客定員は60名で、空調完備のファーストクラスに相当する個室が30室用意されていました。さらに、映画鑑賞も可能な2つのラウンジ、水泳プール、ダンスフロア、図書館といったレクリエーション施設も完備されていました。船内レストランには、船名の由来となった蒸気船サヴァンナの精巧な模型が飾られていたといいます。

船体の前半部分はばら積み貨物に対応した貨物庫となっており、その積載能力は重量で8,500トン、体積で約18,000立方メートル（652,000立方フィート）でした。

運航と商業的な課題

引き渡し後の1962年から、サヴァンナは貨物輸送による収益化を目指し、1965年からはアメリカン エクスポート-イスバランテンラインズに貸し出されて運用されました。実際の航海におけるサヴァンナの安全記録は良好で、燃料効率も極めて優れていました。原子力動力のため煤煙が出ず、白く塗装された船体は常に輝きを保っていました。

就役初期は、大西洋岸からパナマ運河を経てアメリカ西海岸やハワイへの航海を行っていましたが、1964年にはニューヨーク港から西ドイツのブレーメルファーヘンへの初の国際航海を実施しました。ドイツのハンブルグ港に寄港した際には、2万人を超える人々が見学に訪れるなど大きな注目を集めましたが、肝心の商業運航は振るいませんでした。旅客は定員60名に対し約2割の14名しか集まらず、貨物も依頼が少なく、積載量は能力の約3割にあたる約300トンにとどまりました。

1967年には日本への航海が計画され、日本政府に領海立ち入り申請が行われました。アメリカ側からの安全に関する説明に加え、日本政府も独自の原子力安全審査を実施し、一定の条件付きで安全性は確保できるとの結論が出されました。しかし、万一の事故における補償や責任に関する外交上の課題が解決されず、結局日本への寄港は断念されました。東アジアへの航海自体は予定より遅れて実施され、サヴァンナは当時米国施政権下にあった沖縄に寄港し、1967年10月2日から4日まで那覇軍港に停泊しています。この沖縄への航海では旅客は乗船せず、自動車を積載した純粋な貨物船として運航されました。

早期退役の要因

当初はサヴァンナに続いて数百隻規模の原子力商船隊を建造する構想もありましたが、サヴァンナの運用を通じて明らかになった様々な問題により、その実現は困難となりました。大型の原子炉主機によるスペースの問題に加え、最も深刻だったのは経済性の低さでした。

乗員に関する問題:
サヴァンナの乗員数は、同じ規模の石油燃料船と比較して約3倍にも及び、貨客船でありながら乗客数よりも多い状態でした。乗員は通常の船舶免許に加え、原子力船特有の運用に関する専門的な訓練も必要とされました。特に深刻だったのは、乗員に求められる原子力船特有の訓練に関する賃金問題でした。機関士は特殊な訓練への対価として割増賃金を求めましたが、伝統的に機関士より高い給与を受けていた航海士たちとの間で労働争議が発生しました。仲裁の結果、訓練の必要性が低いとされる航海士側に有利な従来の賃金体系が維持されることとなり、この問題は尾を引きました。賃金問題が解決しないため、連邦海事局は当初の契約先であるステーツ・マリーン・ラインとの契約を打ち切り、新たな運行業者としてアメリカン・エクスポート・イスブランテン・ラインズを選定しました。これにより、新たな乗員の訓練が必要となり、運航開始が1年近く遅延しました。運行業者の変更により労働争議は緩和されましたが、この賃金問題への対応の失敗は、その後の原子力商船計画に暗い影を落とすことになりました。

積載量と荷役の問題:
サヴァンナは商船としての経済性よりも原子力推進技術の実証を主目的としていたため、船体設計が商業運航には不利な側面を持っていました。豪華な旅客設備に多くの空間を割いた結果、貨物積載量は同クラスの通常貨物船に比べて少量でした。さらに、見栄えを重視した流線型の船体は、船首側からの貨物積載を煩雑にし、自動化された港湾荷役設備での作業効率を低下させました。

これらの要因が重なり、サヴァンナの年間運用経費は、同規模の通常貨物船と比較して約200万ドルも余計にかかりました。コストの高さから、連邦海事局は1972年にサヴァンナを退役させる決定を下しました。この決定は当時の石油価格を基にした試算によるものでしたが、1974年の第一次石油危機により石油価格が高騰した後も、サヴァンナの運用コストは依然として割高でした。

退役後と博物館船としての現在

革新的な推進装置を備えながらも商業的には成功しなかったNSサヴァンナは、1972年の退役後、その船名と同じジョージア州サヴァンナのドックに入渠し、海上ホテルへの改装が計画されましたが、投資家が現れず頓挫しました。その後テキサス州ガルベストンに係留されました。

1981年には、サウスカロライナ州マウントプレザントにあるパトリオット海事博物館での展示のため回航され、見学者は窓越しに原子炉室を見ることができました。博物館は公開範囲の拡大を試みましたが実現しませんでした。その歴史的価値が認められ、サヴァンナは1982年11月16日にアメリカ合衆国国家歴史登録財に、1991年7月17日にはアメリカ合衆国国定歴史建造物に指定されました。

1993年、連邦海事局による定期検査で乾ドックでの修復が必要と判断され、1994年にはパトリオットポイントからメリーランド州ボルチモアへ移動しました。その後、ヴァージニア州ニューポートニューズの国防予備船隊に係留されました。退役時に核燃料は撤去されていましたが、搭載されていたシステムの一部には放射能が残存していました。連邦海事局は放射性物質の除染作業を行い、原子力関連の機材を撤去しました。

2006年からはノーフォークの造船所で大規模な修復作業が行われ、2007年にニューポートニューズ市所有の桟橋に係留されました。翌2008年には、残存放射能の除去作業のために再びボルチモアへ回航されました。現在、サヴァンナはボルチモアに係留されており、引き続き保存・管理作業が行われています。

NSサヴァンナは、技術的な挑戦と「原子力の平和利用」という理想を体現した船でしたが、商業的な現実の壁に直面し、その短い現役期間を終えました。しかし、その歴史的、技術的な意義から、現在は国定歴史建造物として後世にその姿を伝えています。

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