サーサーン朝のエジプト征服

サーサーン朝のエジプト征服：古代の覇権争い

7世紀初頭、サーサーン朝ペルシアは東ローマ帝国（ビザンツ帝国）に対し、大規模な侵攻作戦を展開しました。その中で、618年から621年にかけて行われたエジプト征服は、サーサーン朝の勢力拡大を示す重要な出来事でした。この征服は、両帝国の長きにわたる抗争である東ローマ・サーサーン戦争の一局面であり、地中海世界の勢力図を大きく塗り替えることになります。

征服の背景

サーサーン朝のホスロー2世は、東ローマ帝国内で発生した混乱に乗じて、帝国の東方属州への侵攻を開始しました。フォカスによるマウリキウス帝の殺害後、東ローマ帝国は内紛状態にあり、その隙を突いたのです。615年までに、サーサーン朝軍はメソポタミア北部、シリア、パレスチナといった地域で東ローマ帝国軍を圧倒し、着実に勢力を拡大していきました。ホスロー2世は、西アジアとアフリカにおける東ローマ帝国の支配を終わらせるべく、次なる目標としてエジプトを定めました。

エジプトへの侵攻と陥落

サーサーン朝によるエジプト征服は、617年または618年に開始されました。しかし、この征服に関する詳細な記録は多くありません。エジプトが東ローマ帝国の中心地から遠く離れていたため、歴史的な資料が乏しいのです。サーサーン朝軍は、主要都市であるアレクサンドリアへ進軍しました。当時の東ローマ帝国軍の将軍であり、ヘラクレイオスの従兄弟であったニケタスは、サーサーン朝軍の前に敗北を喫し、カルケドン派のアレクサンドリア総主教ヨハネス5世エレモンと共にキプロス島へと逃れました。

『フーゼスターンの年代記』によれば、619年6月には、ペテロという人物が東ローマ帝国を裏切ったとされています。また、サーサーン朝軍はアレクサンドリアからナイルデルタ沿岸部にあるエナトンの修道院を攻撃しました。アレクサンドリア陥落後、サーサーン朝軍はナイル川沿いに南へと進軍し、支配地域を拡大しました。その後、エジプト各地で抵抗運動が発生しましたが、サーサーン朝軍はこれを鎮圧し、621年までにはエジプト全土における支配を確立しました。

征服の影響とその後

エジプトはその後10年間、シャフルバラーズの統治下でサーサーン朝の支配を受けました。しかし、東ローマ帝国のヘラクレイオス帝が反撃を開始すると、戦況は一変します。ホスロー2世は敗北し、シャフルバラーズは支配地域からの撤退を命じられました。しかし、彼はなおも抵抗を続けました。

ホスロー2世は、コンスタンティノープル包囲戦などでも敗北を重ねたシャフルバラーズに失望し、暗殺を企てます。しかし、暗殺命令を伝える使者が東ローマ帝国軍に捕らえられ、書簡がヘラクレイオス帝の手に渡ります。ヘラクレイオス帝はその書簡をシャフルバラーズに見せ、シャフルバラーズはこれを見てヘラクレイオス帝側につくことを決意します。

シャフルバラーズはヘラクレイオス帝と同盟を結び、エジプトからのサーサーン朝軍の撤退と、ホスロー2世からの王位簒奪を目指します。629年の夏、サーサーン朝軍はついにエジプトから撤退し、エジプトは再び東ローマ帝国の支配下に戻ることとなりました。

サーサーン朝によるエジプト征服は、短期間ではありましたが、東ローマ帝国に大きな打撃を与え、その後の両帝国の関係に深い影響を与えました。また、この征服は、古代世界の覇権を巡る壮大な戦いの一幕として、歴史に刻まれています。

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