シャフルバラーズ

シャフルバラーズ：サーサーン朝の将軍から簒奪者へ

シャフルバラーズ（Shahrbaraz, 630年没）は、サーサーン朝の将軍であり、簒奪によって短期間王位に就いた人物です。彼の名前は「帝国のイノシシ」を意味する名誉称号であり、勝利の象徴でした。彼はホスロー2世の配下で軍司令官として活躍し、東ローマ帝国との戦争で重要な役割を果たしましたが、後に反逆者として歴史に名を残しました。

名前と称号

シャフルワラーズ（Shahrwarāz）という名前は、中世ペルシア語の「土地、国土」を意味するshahrと、「イノシシ」を意味するwarāzから作られています。イノシシはペルシア神話において勝利を象徴する動物でした。アルメニア語の史料では、彼はしばしばKhoream（Farrukhānに対応）という名で言及され、Razmyozanという称号を持っていました。

生い立ち

シャフルバラーズは、サーサーン朝で大きな影響力を持ったミフラーン家に属していました。彼は軍隊に入り高い地位に上り詰め、南のスパーフベド（軍司令官）に任命されました。彼はホスロー2世の姉妹Mirhranと結婚し、シャープールという息子をもうけました。また、ニケタスという息子もいましたが、シャープールと同じ母親から生まれたかは不明です。

ビザンツ帝国との戦争

ホスロー2世は、ビザンツ皇帝マウリキウスの支援を受けた見返りとして、591年にアルメニアの大部分などをビザンツ帝国に譲渡しました。マウリキウスが殺害されると、ホスロー2世はその報復を名目に602年にビザンツ帝国との戦いを始めました。シャフルバラーズは、この戦争で初めて記録に登場します。彼はシャーヒーン・ヴァフマンザーデーガンなどの将軍と共にダラとエデッサを征服し、ビザンツ帝国を後退させました。610年、ヘラクレイオスがビザンツ皇帝フォカスを殺害し帝位に就くと、613年にアンティオキア近郊で反撃を試みましたが、シャフルバラーズに打ち破られ、都市を占領されました。

その後もシャフルバラーズはビザンツ軍を各地で破り、ダマスカスを包囲占領し、多数の捕虜を得ました。彼の経歴の中で最も重要な出来事の一つは、パレスチナへ軍を進め、エルサレムを占領したことです。彼は聖十字架（真の十字架）を戦利品として運び去りました。618年にはホスロー2世からエジプト攻略を命じられ、619年にアレクサンドリアを占領し、サーサーン朝の支配下に置きました。

622年、ヘラクレイオスはアナトリアで反撃を開始しました。シャフルバラーズはこれに対抗するために派遣されましたが、最終的に敗退しました。ヘラクレイオスはシャーヒーンおよびShahraplakanと共に派遣されたサーサーン朝軍を破り、625年にはシャフルバラーズの本陣を夜襲し、彼を逃亡させました。

コンスタンティノープル包囲

シャフルバラーズは少数の軍と共にヘラクレイオスの側面をすり抜け、ボスポラス海峡を挟んでコンスタンティノープルの対岸にあるカルケドンへ進みました。ホスロー2世はアヴァール人のハーンと共同でコンスタンティノープルを攻撃することを計画しました。シャフルバラーズの軍はカルケドンに駐留し、アヴァール人はコンスタンティノープルのヨーロッパ側に展開しましたが、ビザンツ海軍がボスポラス海峡の制海権を握っていたため、サーサーン朝はヨーロッパ側の同盟軍を支援できませんでした。また、アヴァール人との連携も困難でした。

ビザンツ艦隊はサーサーン朝のいかだの艦隊を破壊し、アヴァール人の攻撃も失敗に終わりました。テオドロスがシャーヒーンに勝利したという知らせが届くと、アヴァール人は撤退し、コンスタンティノープルへの脅威は過ぎ去りました。ホスロー2世はシャフルバラーズの失敗に失望し、彼を殺害するよう命じましたが、この命令を伝える使者がビザンツ軍に捕らえられ、ヘラクレイオスの手に渡りました。ヘラクレイオスはシャフルバラーズにこの手紙を見せ、彼を味方に引き入れました。シャフルバラーズはその後、ホスロー2世に対する陰謀に加担しました。

ホスロー2世廃位

627年、ホスロー2世はシャフルバラーズに軍隊をクテシフォンへ送るよう求めましたが、シャフルバラーズは従わず、アスーリスターンに移動しました。628年、ビザンツ帝国との戦争とホスロー2世の圧政に疲弊したサーサーン朝の貴族たちは、カワード2世を解放し、ホスロー2世を投獄しました。カワード2世は貴族たちの支持を得て王位に就き、ヘラクレイオスと講和を結びました。講和の条件として、ビザンツ帝国が喪失した領土の返還、捕虜の返還、賠償金の支払い、そして聖十字架の返還が定められました。

講和後、貴族たちが独立的な王国を形成する動きが激しくなり、国力を分散させました。カワード2世の死後、アルダシール3世が王位を継承しました。

王位簒奪

630年4月27日、シャフルバラーズは6,000人の兵を率いてクテシフォンを包囲し、ペーローズ・ホスローやNamdar Jushnasと同盟を結びました。彼はクテシフォンを占領し、アルダシール3世を処刑し、サーサーン朝の新たな王となりました。しかし、即位から40日後の630年6月9日、ファッルフ・ホルミズドによって殺害されました。

その後の影響

シャフルバラーズはビザンツ帝国とサーサーン朝の戦争とその戦後の事件において重要な役割を果たしました。彼の反乱はビザンツ帝国に勝利をもたらし、サーサーン朝の内戦の原因となりました。彼の死後、息子のシャープールが一時的に王位に就きましたが、すぐに退位させられました。また、息子のニケタスはビザンツ帝国の臣下となり、後のヤルムークの戦いでビザンツの将軍として登場しました。

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