ザルツカンマーグート地方のハルシュタットとダッハシュタインの文化的景観

「ザルツカンマーグート地方のハルシュタットとダッハシュタインの文化的景観」は、オーストリアが誇る世界遺産の一つであり、その登録IDは806です。風光明媚なザルツカンマーグート地方の中でも、ハルシュタット湖とダッハシュタイン山塊に抱かれるように発展したハルシュタットは、「世界の湖岸で最も美しい街」と称されるほどの景観美を誇ります。映画『サウンド・オブ・ミュージック』のロケ地としても知られています。

ザルツカンマーグート

ザルツカンマーグート地方は、オーバーエスターライヒ州、ザルツブルク州、シュタイアーマルク州にまたがる広大な地域です。「塩の御料地」を意味するその名の通り、岩塩採掘と深く結びついて発展し、かつてはオーストリア帝国の直轄地でした。

この地域には76もの湖と雄大なダッハシュタイン山塊が織りなす、息をのむような美しい景観が広がっています。また、ミネラル豊富な鉱泉は古くから湯治に利用されており、地方の中心都市であるバート・イシュルは、オーストリア大公妃ゾフィーや音楽家ヨハネス・ブラームスなど、多くの著名人が訪れた湯治場として有名です。

ハルシュタット

ハルシュタットは、ハルシュタット湖畔に位置する魅力的な町です。ダッハシュタイン山塊の急峻な山裾に沿って、伝統的な建物が軒を連ねています。15世紀末に建てられた教区教会や、ゴシック様式の聖ミカエル礼拝堂など、歴史的な建造物が当時の面影を残しており、街全体の景観は、厳しい建築規制によって守られています。

納骨堂: ハルシュタットは湖畔の狭い斜面に発達したため、墓地を確保することが困難でした。そのため、伝統的に納骨堂が利用されており、納められた頭蓋骨には故人の名前や装飾が施されています。これは、ハルシュタット独特の文化を象徴するものです。

ハルシュタットと塩: ハルシュタットの地名である「ハル」は、ケルト語で「塩」を意味し、「ハルシュタット」は「塩の街」を意味します。19世紀以降、ハルシュタット近郊の塩坑から数々の遺跡が発見され、5000年も前から岩塩採掘が行われていたことが明らかになりました。ハルシュタット近郊の塩坑の中には、紀元前6世紀に遡るものもあり、現在も操業中の塩坑としては世界最古です。

ハルシュタットの鉱業と製塩業に必要な大量の木材は、周辺の高山地帯の森林から供給されていました。そのため、これらの森林は16世紀以降、オーストリア君主による直接管理下に置かれました。

また、出土品に含まれていた鉄器には、中央ヨーロッパにおける初期鉄器時代のものが多く、紀元前1200年頃から紀元前450年頃の初期鉄器時代を「ハルシュタット文化」と呼ぶようになりました。

ダッハシュタイン

ダッハシュタイン山塊は、オーバーエスターライヒ州、ザルツブルク州、シュタイアーマルク州にまたがる山塊で、最高峰の標高は2,995mです。東アルプスの北部石灰岩アルプスに属し、氷河や氷河によって形成された多くの洞窟が存在します。特に、「ダッハシュタインの氷の洞窟」には、聖堂洞窟や氷の礼拝堂など、氷が作り出す幻想的な景観が広がっています。

ハルシュタットは、ダッハシュタイン山塊の北側の斜面に位置しています。クリッペンシュタインからは、ハルシュタットとその周辺を一望でき、山塊頂上部に広がるハルシュタット氷河などの氷河を眺めることができます。これらの氷河は規模は大きくないものの、アルプスに存在する氷河の中では最も東に位置しています。

また、この地域では先史時代から移牧が行われており、谷の住民は夏の間、羊や牛を高山の牧草地へ移動させ、放牧を行っています。

世界遺産としての価値

この文化的景観は、建造物群と文化的サイトとしての価値が認められ、世界遺産に登録されました。登録名が示すように、特に文化的景観としての価値が重視されています。

登録範囲はザルツカンマーグート地方の一部であり、中核地域はオーバーエスターライヒ州内に限定されていますが、緩衝地域は3つの州にまたがっています。

登録基準としては、以下の点が評価されました。

(3) 現存する、または消滅した文化的伝統や文明の、唯一または稀な証拠であること。
(4) 人類の歴史上重要な時代を例証する建築様式、建築物群、技術の集積、または景観の優れた例であること。

この地は、自然と文化が調和した比類なき景観を誇り、人類の歴史と文化を今に伝える貴重な遺産です。

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