ザ・サン、ムーン&ハーブス

ザ・サン、ムーン&ハーブス (The Sun, Moon & Herbs)

『ザ・サン、ムーン&ハーブス』は、アメリカ合衆国出身のミュージシャン、ドクター・ジョンにより1971年に発表された通算4作目にあたるスタジオ・アルバムです。

制作背景

本作のレコーディングは、ドクター・ジョンの主な活動拠点であるニューオーリンズから離れたロンドンで行われました。この地での制作は、彼の音楽に新たな広がりをもたらす要因の一つとなった可能性があります。アルバム収録曲のうち、「ファミリア・リアリティ」を除く全ての楽曲に、当時の英国ロックシーンやソウルミュージック界で活躍していた著名なミュージシャンたちがゲストとして参加しています。特に注目すべきは、エリック・クラプトン、ローリング・ストーンズのミック・ジャガー、そしてソウルシンガーのP.P.アーノルドらが名を連ねている点です。さらに、「ホエア・ヤ・アット・ムール」と「ズ・ズ・マモウ」の2曲では、クラプトンに加えてデレク・アンド・ザ・ドミノスの全メンバーがレコーディングに参加しており、このアルバムが非常に豪華なセッションによって支えられていることを示しています。ちなみに、ドクター・ジョン自身は、当初このアルバムをより野心的な3枚組LPとしてリリースすることを構想していましたが、残念ながらその計画は実現には至りませんでした。

音楽性と評価

ロンドンでのセッションを通じて、ドクター・ジョンの根底にあるニューオーリンズの神秘的で土着的なヴードゥーサウンドと、英国のプレイヤーたちのロックやブルースの感覚が融合した独特の音楽性が生まれています。音楽評論家ジェームス・クリスペルはオールミュージックでのレビューにおいて、本作に5点満点中3.5点の評価を与え、「まるで遠くで雷鳴がジャングル・ドラムのように響く、蒸し暑い夜に耳を傾けるのが最もふさわしい」とその独特の世界観を表現しています。一方で、『ローリング・ストーン』誌の1971年10月28日号に掲載されたティム・クラウスの評論では、ドクター・ジョンが才能あるセッションミュージシャンたちを従えるリーダー的存在に近づいているとしながらも、彼らを牽引するに足るほど強力な楽曲が不足しているという指摘がなされました。クラウスは、もしドクター・ジョンが次の作品でニューオーリンズの伝統を損なうことなく、よりコンパクトで魅力的な「3分間の宝物」を12曲生み出すことができれば、それは理想的であり、世間が彼に期待するヴードゥー的な色彩もより濃くなるだろうとの見解を示しています。これらの批評は、本作がドクター・ジョンのキャリアにおける多様な音楽的要素が混在し、今後の方向性を模索する時期の作品であったことを示唆していると言えるでしょう。

商業的成果と影響

『ザ・サン、ムーン&ハーブス』は、ドクター・ジョンにとって初めてアメリカの主要アルバムチャートであるBillboard 200にランクインした記念碑的な作品となりました。最高順位は184位でしたが、これは彼の音楽がより広い聴衆に届き始めたことを意味します。また、アルバムに収録されている「ズ・ズ・マモウ」は、本作の発表から時を経て1987年に公開されたアラン・パーカー監督のサスペンス映画『エンゼル・ハート』のサウンドトラックに使用されました。これは、この楽曲が持つ独特の神秘的で妖しい雰囲気が、映画の世界観と見事に合致した結果であり、アルバム発表から長い時間が経過した後も作品が持つ魅力が再認識される機会となりました。

収録曲

特に記載のない楽曲は、ドクター・ジョン（マック・レベナック）によるものです。

1. ブラック・ジョン・ザ・コンクエラー (Black John the Conqueror) - 6:23
2. ホエア・ヤ・アット・ムール (Where Ya at Mule) - 4:58
3. クラニー・クロウ (Craney Crow) - 6:43
4. ファミリア・リアリティ - オープニング (Familiar Reality-Opening) (Mac Rebennack, Jessie Hill) - 5:29
5. ポッツ・オン・フィオ/フー・アイ・ゴット・トゥ・フォール・オン (Pots on Fiyo (Filé Gumbo) / Who I Got to Fall On (If the Pot Get Heavy)) - 5:52
6. ズ・ズ・マモウ (Zu Zu Mamou) - 7:59
7. ファミリア・リアリティ - リプリーズ (Familiar Reality-Reprise) (M. Rebennack, J. Hill) - 1:50

主な参加ミュージシャン

• - ドクター・ジョン - ボーカル、ピアノ、ハモンドオルガン、ギター、ヴィブラフォン、パーカッション
• - エリック・クラプトン - スライドギター
• - トミー・フェローン - リズムギター
• - ヴィクター・ブロックス - オルガン、ポケット・トランペット
• - Fred Staehle - ドラムス
• - レイ・ドレイパー - チューバ、パーカッション
• - ミック・ジャガー - バックグラウンド・ボーカル
• - P.P.アーノルド - バックグラウンド・ボーカル
• - シャーリー・グッドマン - バックグラウンド・ボーカル
• - タミー・リン - バックグラウンド・ボーカル
• - ジョニ・ジョンズ - バックグラウンド・ボーカル
• - グレアム・ボンド - アルト・サックス
• - クリス・マーサー - サックス
• - ドリス・トロイ - バックグラウンド・ボーカル
• - ボビー・ウィットロック – バックグラウンド・ボーカル
• - ボビー・キーズ - テナー・サックス
• - カール・レイドル - ベース
• - ジム・ゴードン - コンガ
• - ジム・プライス - トランペット
• - カルヴィン・サミュエルズ - コンガ
• - スティーヴ・ヨーク - アコースティック・ベース
• - Ken Terroade - フルート
• - ウォルター・デイヴィス - ピアノ
• - ジェシ・ボイス - ベース、パーカッション
• - フリーマン・ブラウン - パーカッション
• - メンフィス・ホーンズ - ホーン・セクション (ウェイン・ジャクソン、ロジャー・ホップス、ジャック・ヘイル、アンドリュー・ラヴ、エド・ローガン、ジェイムス・ミッチェル)
• - ジョン・ブードロー - ドラムス
• - ロン・ジョンソン - ベース
• - ロニー・バロン - オルガン
• - エド・ホーナー - トランペット
• - ジェリー・ジュモンヴィル - サックス

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