ドリス・トロイ

ドリス・トロイ：ママ・ソウルの軌跡

ドリス・トロイ（1937年1月6日-2004年2月16日）は、アメリカ合衆国を代表するR＆Bシンガーであり、才能溢れるソングライターでした。多くのファンから「ママ・ソウル」の愛称で親しまれ、そのパワフルな歌声と類まれな音楽性は、今もなお多くの音楽愛好家から称賛されています。本名はドリス・エレイン・ヒギンセン。ニューヨーク市ブロンクス区で、バルバドス出身のペンテコステ派牧師の父のもとに生まれました。幼少期は祖母の姓であるペインを名乗り、両親の反対を押し切り、後にR＆Bの世界へと足を踏み入れます。

彼女の音楽人生は、アポロシアターでの案内係としての仕事から始まりました。そこで、後に彼女の才能を見出し、大きく飛躍するきっかけを掴む人物、ジェームス・ブラウンと出会います。16歳の若さで作曲を始め、ディー・クラークのヒット曲「How About That」に楽曲提供し、最初の収入を得ます。その後、アトランティック・レコードで、バックアップボーカリストとして、ディオンヌ・ワーウィックや妹のディー・ディー・ワーウィックらと共演。才能を開花させていきます。

1963年、シシー・ヒューストンやワーウィック姉妹と共に、スウィート・インスピレイションズのオリジナルメンバーとして活動します。この頃、ソロ活動も開始。「トロイのヘレネー」から取った芸名、ドリス・トロイとして、ソロモン・バーク、ドリフターズ、ヒューストン、そしてディオンヌ・ワーウィックら、数々の著名アーティストのバックボーカルを務めました。

そして、彼女のキャリアを決定づけたのが、1963年の大ヒット曲「ジャスト・ワン・ルック」です。ドリス・ペイン名義で作曲されたこの曲は、10分足らずで録音されたデモテープでしたが、アトランティックレコードの目に留まり、そのままシングルとしてリリースされました。この曲はBillboard Hot 100で10位を記録し、彼女をトップアーティストの仲間入りへと導きます。この曲はアメリカにおける彼女の唯一のトップ10ヒットとなりましたが、その後もホリーズ、リンダ・ロンシュタット、アン・マレーなど、多くのアーティストによってカバーされ、その名曲は時代を超えて愛され続けています。

1969年にはロンドンへ移住し、ビートルズのアップルレコードと契約。ジョージ・ハリソンと共同プロデュースしたアルバム『ドリス・トロイ』をリリースしました。その後アメリカに戻り、カジノやナイトクラブで演奏する傍ら、数々のアーティストのバックボーカルとして活躍し続けます。ローリング・ストーンズの「無情の世界」、ピンク・フロイドの『狂気』、カーリー・サイモンの「うつろな愛」など、名だたるアーティストの作品に参加し、その卓越した歌唱力で楽曲に深みと彩りを与えました。他にも、ハンブル・パイ、ケヴィン・エアーズ、エドガー・ブロートン、ジョージ・ハリスン、ジョニー・アリディ、ヴィヴィアン・スタンシャル、ダスティ・スプリングフィールド、ニック・ドレイク、ジュニア・キャンベルなど、多様なアーティストとのコラボレーションを通して、音楽シーンに多大な貢献を果たしました。

さらに、彼女の人生に基づいたミュージカル『ママ、アイ・ウォント・トゥ・シング』が1983年に制作されました。これは彼女の妹であるヴァイ・ヒギンセンによって手がけられ、ニューヨークのヘクシャー劇場で1500回以上も上演される大ヒット作となりました。ドリス・トロイ自身も母親役として出演し、大きな成功を収めました。このミュージカルは後に映画化され、2012年にはDVDとしてリリースされました。

2004年、ネバダ州ラスベガスにて、肺気腫のため67歳でこの世を去りました。しかし、彼女の音楽は、今もなお世界中で愛され、多くの人々の心に響き続けています。ドリス・トロイが残した数々の楽曲と、その類まれな音楽性は、後世のアーティストたちに多大な影響を与え続け、R＆B史に燦然と輝く永遠の輝きを放ち続けるでしょう。

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