シェール・シャー

シェール・シャー：スール朝の創始者、その生涯と業績

シェール・シャー（1486年 - 1545年）は、16世紀にスール朝を創始した、北インドの歴史において重要な人物です。卓越した軍事力と行政手腕でムガル帝国を一時的に崩壊させ、広大な領土を支配しました。「トラの王」としても知られ、その統治は後世のムガル帝国にも影響を与えました。

生い立ちと初期のキャリア

シェール・シャーは、現在のビハール州サーサーラームで、パシュトゥーン人の家系に生まれました。彼の家は、ローディー朝に仕えた探検家の一族でした。幼少期から才能を発揮し、15歳でジャウンプルに渡り、アラビア語やペルシャ語を学びました。

その行政能力から、父親の領地を任されるようになりましたが、継母との不仲からビハールへと移り、ムガル皇帝バーブルに仕えました。1522年、ビハールを統治するバハール・ハーンに認められ、家庭教師兼行政官として頭角を現しました。

スール朝の建国

シェール・シャーは、その才能に対する妬みや領地を奪われたことをきっかけに、1531年にムガル帝国からの独立を宣言しました。ベンガル・スルターン朝と同盟した勢力を破り、ベンガルを制圧。1539年には、ムガル皇帝フマーユーンをチャウサの戦いとカナウジの戦いで破り、デリーとアーグラを占領、スール朝を建国しました。この時、シェール・シャーは54歳でした。

フマーユーンはペルシャへ逃亡し、北インドにはスール朝の支配が確立しました。シェール・シャーは、パンジャーブ地方の豪族を攻撃し、また、中央アジアからの侵入を防ぐためにロータス・フォートを建設しました。

ラージプート族との戦い

シェール・シャーは、ラージプート族のマールデーヴと激戦を繰り広げました。彼は、マールデーヴの軍隊内に混乱を招くために策略を弄し、サメールの戦いで勝利を収めましたが、自軍も大きな損害を受けました。

領域の拡大と最期

シェール・シャーは、ベンガル、マールワー、ラーイセーン、シンド、ムルターンへと勢力を拡大しました。ラーイセーン攻略では、偽計を用いて勝利しました。しかし、ウッタル・プラデーシュ州のカーリンジャルを攻囲中、1545年に砲弾の事故により命を落としました。彼の死後、息子のイスラーム・シャーが跡を継ぎました。

行政手腕と改革

シェール・シャーの治世はわずか5年でしたが、彼は重要な行政改革を実施しました。北インドをサルカールと呼ばれる州に分割し、さらにパルガナという小単位に分け、各地域に行政、軍事、財務、司法を司る官僚を配置しました。これらの官僚は定期的に異動させ、特定の地域への地縁を防ぎました。

また、経済面においても改革を行い、自由な貿易を妨げる税金を撤廃し、道路網を整備しました。アトックとダッカを結ぶ主要道路をはじめ、今日のインド・パキスタンの主要道路である大幹線道は彼の時代に建設されました。さらに、ルピー硬貨を発行し、貨幣制度を改革しました。このルピーは、現在でも多くの国で使用されています。

シェール・シャーは情報収集のためにスパイを使い、犯罪に対しては厳しく対処しました。自らが率いる軍隊が損害を与えた場合には必ず弁償するなど、公正な統治を心掛けました。その統治は、後世にムガル帝国の行政にも影響を与えるほどの模範となりました。

シェール・シャーの死後、息子イスラームは、父を弔うためにサーサーラームにシェール・シャー廟を建立しました。彼の短いながらも輝かしい業績は、インド史において高く評価されています。

脚注

参考文献

サティーシュ・チャンドラ 著、小名康之、長島弘 訳『中世インドの歴史』山川出版社、2001年。
フランシス・ロビンソン 著、月森左知 訳『ムガル皇帝歴代誌 インド、イラン、中央アジアのイスラーム諸王国の興亡（1206年 - 1925年）』創元社、2009年。

外部リンク

Sher Shah Suri
Sher Shah Suri and early Mughal period
Sher Shah brief biography as ruler
Columbia Encyclopedia - Sher Khan

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