ムルターン

ムルターン：歴史と文化が交錯する「聖者と聖堂の街」

ムルターンは、パキスタンのパンジャーブ州に位置する都市で、同州のムルターン県の県都です。人口は約380万人（1998年国勢調査）を擁し、パキスタンで6番目に大きな都市として知られています。インダス川の支流であるチェナーブ川の東岸に位置し、カラチーから陸路で約966km、パキスタンのほぼ中心に位置するため、陸、鉄道、空路が集中する交通の要衝となっています。

「ピール（聖者）と聖堂の街」

ムルターンは、「ピール（スーフィーの聖者）と聖堂の街」として有名です。市内には、バザール、モスク、聖堂に加え、壮麗な墓廟が数多く存在し、その歴史と文化の深さを物語っています。

古代からの歴史

ムルターンは、南アジア最古の都市の一つであり、その起源は古代にまで遡ります。サンスクリット語の「Mūlasthān」が現在の都市名の由来とされています。考古学的な調査によると、ムルターンはモヘンジョ・ダロやハラッパーなどの古代都市と同時期に繁栄したと考えられています。古代インドの叙事詩『マハーバーラタ』にも「Malāva」として登場しています。

ムルターンを最初に征服した外国勢力は、アレクサンドロス3世と伝えられています。その後、グプタ朝の領土の一部となりました。

イスラーム勢力の到来

712年、シンド人に率いられたイスラーム勢力がムルターンに侵攻し、ムハンマド・ビン・カースィムによってイスラームがもたらされました。その後も、ムルターンは独立勢力として維持されてきましたが、1005年には、ガズナ朝のマフムードによって、太陽寺院や偶像が破壊されることとなりました。

スーフィズムの中心地としての中世

中世のムルターンは、スーフィズムの中心地として発展しました。現在も、街には多くの聖者廟（ダルガー）が残っています。特に有名なのは、モンゴル征服時代に殺戮を止めさせた聖者バハー・ウル・ハックのダルガー、「世界の柱」を意味するシャー・ルクネ・アーラム（14世紀のトゥグルク朝時代に建設）、シャー・シャムス・タブレーズのダルガーなどです。

グジャラート・スルターン朝からムガル帝国へ

グジャラート・スルターン朝の時代には、ムルターンからロマニ系のムルターニーがグジャラートやパンジャーブに移住しました。その後、ムガル帝国の時代が200年間続き、1735年には、ナワーブ・アブドゥル・サマド・ハーンの命によりイドガー・モスクが建設されました。1757年には、アリー・ムハンマド・ハーンによってアリー・ムハンマド・モスクが建てられ、現在ムルターンに残る建物の多くはこの時代に建設されたものです。農業生産の向上により、建設事業が可能となりました。

衰退と支配の変化

ムルターンは、アフシャール朝のナーディル・シャーの支配を受けましたが、破壊を免れました。ムガル帝国の衰退とともに、ムルターンは困難な時代を経験し、アフガン人王朝のドゥッラーニー朝が衰退すると、パシュトゥーン人の支配を受けました。

シク王国とイギリス領インド帝国

シク教徒はパシュトゥーン人を攻撃し、ムルターンを支配下に置きました。しかし、シク教徒の支配は長く続かず、イギリスが勢力を拡大し、シク戦争を経て、最終的にはイギリス領インド帝国の一部となりました。

パキスタン独立後の発展

1947年にパキスタンが独立すると、ムルターンはパンジャーブ州に所属することになりました。しかし、独立当時、産業、病院、大学などの社会インフラが不足しており、独立後、徐々に整備が進められ、経済的に発展を遂げました。

言語と交通

ムルターンでは、サライキ語が最も多く話されていますが、パンジャーブ語、ウルドゥー語も広く使用されています。また、ムルターンにはムルターン国際空港があり、国内外へのアクセスも容易です。

姉妹都市

ムルターンは、以下の都市と姉妹都市提携を結んでいます。

ローマ（イタリア）
コンヤ（トルコ）
ラシュト（イラン）
バンテン州（インドネシア）

まとめ

ムルターンは、古代から多様な文化が交錯し、様々な支配を経て、歴史的な建造物や聖者廟が数多く残る魅力的な都市です。その歴史的背景から、パキスタンの中でも重要な役割を果たしています。交通の要衝であり、経済的にも発展を続けるムルターンは、これからもパキスタンの重要な都市として発展を続けるでしょう。

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