袋果

袋果：1枚の心皮からなる果実とその多様な形態

袋果とは、1枚の心皮（雌しべを構成する葉のような部分）から形成される果実の一種です。成熟すると、果皮が通常乾燥し、1本の線に沿って裂開することで、種子を外部に放出します。この裂開する線は、心皮の両縁が合着した腹縫線である場合が多く、中には心皮の中肋にあたる背縫線で裂開するもの（モクレン属など）もあります。

袋果の大きさは様々で、中には1つの種子しか含まないもの（シキミなど）もあれば、複数の種子を含むものもあります。果皮の質感も、膜質で乾燥しているものが一般的ですが、ボタン属のようにやや厚く肉質のものも見られます。

多様な植物における袋果

袋果は、様々な植物で観察されます。代表的な例としては、シキミ（シキミ科）、モクレン（モクレン科）、オダマキ、シャクヤク（キンポウゲ科）、シモツケ（バラ科）、ガガイモ（キョウチクトウ科）などがあります。これらの植物では、袋果は単独で形成されることもあれば、複数の袋果が集まって集合果を形成することもあります。特にモクレン属では、多数の袋果が花軸上にらせん状に密集した独特の集合果を形成することで知られています。

また、カツラ（カツラ科）のように、複数の袋果が集まってつく場合がありますが、これは必ずしも1つの花からの複数個の雌しべに由来するとは限りません。カツラの場合、1個の雌しべからなる複数の花に由来する可能性も指摘されています。バンクシア属（ヤマモガシ科）のように、多数の花が穂状花序を形成し、それぞれの花が袋果となることで複合果を形成するものもあります。

アオギリ（アオイ科）は興味深い例です。5枚の心皮からなる雌しべを持ちますが、花後に心皮ごとに分離し、それぞれが袋果となります。ただし、この袋果はすぐに裂開し、縁に種子をつけた状態で成熟するという特徴があります。

種子散布：多様な戦略

袋果は裂開することで種子を放出し、種子が散布単位となります。種子散布の方法は植物によって様々です。

シキミは放射状に配列した複数の袋果を形成し、各袋果は大きな種子を1つ含みます。袋果が裂開し、乾燥することで種子をはじき飛ばす自動散布が行われます。同時に、ヤマガラやヒメネズミによる貯食散布も確認されています。

キョウチクトウ科植物（キョウチクトウ、テイカカズラ、ガガイモなど）では、多数の毛が生えた種子が風散布されます。カツラでは、扁平な翼を持つ種子が風によって散布されます。

モクレン属では、裂開した袋果から放出される種子は、珠柄に由来する糸で果実に繋がった状態です。この種子は鳥類に食べられ、消化されずに排出されることで種子散布（被食散布）が行われます。

ボタン属では、袋果が裂開して黒い種子と赤い不稔種子が露出します。この2色のコントラストが、種子散布者であるげっ歯類への視認性を高めていると考えられています。ゴンズイも同様の2色効果で鳥類に種子を認識させますが、種子自体の可食部が少ないため、鳥を騙している可能性も指摘されています。

袋果は、その形態や種子散布のメカニズムにおいて多様な戦略を示す、興味深い果実タイプといえます。それぞれの植物種がそれぞれの環境に適応した結果として、これほど多様な袋果の姿が見られるのでしょう。

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