シシュナーガ朝

シシュナーガ朝

シシュナーガ朝（紀元前4世紀頃）は、古代インドのマガダ国に興った王朝です。その歴史は、伝説的な色彩が強く、史実を正確に把握することは難しいとされています。王朝の創始者とされるシシュナーガ王によって建てられ、紀元前4世紀頃にナンダ朝によって滅ぼされたと伝えられています。

歴史

シシュナーガ朝の創始者であるシシュナーガ王については、その出自や即位の経緯について、複数の文献で記述が異なっています。

プラーナ文献では、シシュナーガは釈迦と関わりの深かったビンビサーラ王やアジャータシャトル王よりも前の王として記述されており、これらの王がシシュナーガ朝の王であったことになります。しかし、『マハーヴァンサ』（『大史』）では、シシュナーガはビンビサーラ王やアジャータシャトル王より後の王であると記されています。

『マハーヴァンサ』によると、アジャータシャトルの4代後の王であるナーガダーサカ王の時代、父殺しが5代に渡って続いたため、市民たちはナーガダーサカを「父殺しの家系」として王にふさわしくないと判断し、廃位しました。その後、大臣であったシシュナーガが王として推挙され、シシュナーガ朝を開いたとされています。

現在では、王の即位順については『マハーヴァンサ』の記述がより事実に近いと考えられています。その根拠として、マガダ国の首都であったラージャグリハ（王舎城）が、ビンビサーラ王やアジャータシャトル王の時代に大規模に造営された一方で、シシュナーガ王がヴェーサーリーを復興したため、ラージャグリハが首都としての役割を失ったという記録があります。このことから、シシュナーガ王をビンビサーラ王やアジャータシャトル王より以前の王とすることは不合理であるとされています。（ただし、シシュナーガ以前にマガダ国の首都がラージャグリハからパータリプトラに遷っていた可能性も指摘されています。）

シシュナーガ王は即位後、アヴァンティ国を支配していたプラディヨータ朝を滅ぼしたと伝えられています。シシュナーガ王の跡を継いだのは、彼の息子であるカーラーショーカ（カーカヴァルナ？）でした。『マハーヴァンサ』によれば、カーラーショーカ王の治世に第二回仏典結集が行われました。

カーラーショーカ王の後継者は、彼の10人の王子たちであり、彼らは同時に統治したとされていますが、詳しい記録は残っていません。その後、紀元前4世紀頃、マハーパドマまたはウグラセーナという人物によってナンダ朝が建国され、シシュナーガ朝は滅亡しました。

ナンダ朝の時代から歴史的な性格が濃くなり始めるのに対し、シシュナーガ朝の時代は、記録が少なく、その輪郭は曖昧であり、伝説の時代と捉えることができます。

年代決定

シシュナーガ朝の成立時期は、シシュナーガ王をビンビサーラ王より以前の王とするか、後の王とするかで大きく変動します。

『マハーヴァンサ』や『ディーパヴァンサ』（『島史』）には、ビンビサーラ王が釈迦より5歳年下であったと記されています。釈迦の生没年は諸説ありますが、紀元前6世紀または紀元前5世紀頃と推定されています。したがって、シシュナーガ王をビンビサーラ王以前の王とすれば、シシュナーガ朝の創始は紀元前7世紀末か紀元前6世紀初頭となり、ビンビサーラ王以後の王とすれば、紀元前5世紀末か紀元前4世紀初頭となります。

歴代王

プラーナ文献

シシュナーガ （在位40年間）
カーカヴァルナ（カーラーショーカ？ 在位36年間）
クセマダーマン （在位20年間）
クシャトラウジャス （在位40年間）
ヴィンビサーラ （ビンビサーラ 在位28年間）
アジャータシャトル （アジャータサットゥ 在位33年間）
ダルシャカ （在位25年間）
ウダーイン （ウダヤバッダカ 在位33年間）
ナンディヴァルダナ （在位40年間）
マハーナンディン （マハーパドマの父？ 在位43年間）

マハーヴァンサ

ススナーガ（シシュナーガ 在位18年間）
カーラーショーカ 在位28年間）
カーラーショーカの10人の王子 （22年間）
バドラセーナ
コーランダヴァルナ
マングラ
サルヴァンジャハ
ジャーリカ
ウバカ
サンジャヤ
コーラヴヤ
ナンディヴァルダナ
パンチャマカ

参考文献

『中村元選集 第5巻 インド古代史 上』 （中村元 春秋社 1963年）
『中村元選集[決定版] 第5巻 インド史I』 （中村元 春秋社 1997年 ）
『古代王権の誕生2 東南アジア・南アジア・アメリカ大陸編』 （初期王権編纂委員会 角川書店 2003年）ISBN 4045230025

※ インド古代史上とインド史Iは基本的に同一の内容です。後者の方がやや詳細で、一部記述が更新されています。

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