ナンダ朝

ナンダ朝：古代インドの覇者

ナンダ朝は、紀元前4世紀頃に古代インドのマガダ国で興った王朝です。シュードラ出身とされる出自から、当時も後世においても忌避される側面がありましたが、その軍事力は圧倒的で、ガンジス川流域に広大な帝国を築き上げました。

歴史

マガダ国ではシシュナーガ朝が繁栄していましたが、出自不明のマハーパドマ（あるいはウグラセーナ）によって滅ぼされ、ナンダ朝が成立しました。伝説的な部分も多いですが、考古学的資料からもその実在が確認されています。

マハーパドマは、プラーナ文献によるとマハーナンディン王とシュードラの女性の間に生まれました。ジャイナ教の伝説では理髪師と娼婦の子、ローマ人クルティウスの記録では理髪師と王妃の子とされています。いずれにしても、初代王が低いカーストの出身であったことは、後世まで語り継がれました。『マハーボーディヴァンサ』では、初代王はウグラセーナとされています。

プラーナ文献によれば、マハーパドマは権力を握ると「すべてのクシャトリアを絶滅させ、唯一の王として統一した」とされています。これは、彼がイクシュヴァーク国、ハイハヤ国、カリンガ国、アシマカ国、シューラセーナ国などを征服したという記録と一致します。また、ギリシアの記録にも、アレクサンドロス大王の時代、インドはパータリプトラの1人の王によって統治されていたとあり、ナンダ朝の支配が広範囲に及んでいたことがわかります。正確な勢力範囲は不明ですが、カリンガ国やデカン高原西部の伝承や碑文にもナンダ王の支配に関する記述が見られます。

プラーナ文献では、最初のナンダ王（マハーパドマまたはウグラセーナ）が88年間統治し、その後8人の息子がそれぞれ12年ずつ統治したとされています。しかし、写本の研究などから、この統治期間は28年間の誤りであると考えられています。また、他の文献でも記述が異なり、その歴史は不明瞭な部分が多いです。第二代の王は初代王の長子スカルパとされていますが、歴代の王名も文献によって異なり、プラーナ文献ではマハーパドマとスカルパ以外の王名は記録されていません。『マハーボーディヴァンサ』では初代ウグラセーナを含め9人の王が、『マハーヴァンサ』には最後の王としてダナナンダの名が記されています。

紀元前317年頃、思想家カウティリヤの補佐を得たチャンドラグプタがインド北西部で挙兵しました。ダナナンダ王は将軍バッサダーラに鎮圧を命じましたが、敗れ、首都パータリプトラも陥落し、ナンダ朝は滅亡しました。その後、チャンドラグプタはマウリヤ朝を興しました。プラーナ文献では、バラモンであるカウティリヤが8人の王すべてを殺害したと記述されています。

国力

ナンダ朝の国制に関する史料は極めて限られていますが、ギリシア人などの残した間接的な記録から、その強大な軍事力と経済力が窺えます。一説には、インドの度量衡はナンダ朝の発明とされ、またナンダ朝が発行した銀貨が多数発見されており、その影響はインド経済に深く残りました。「ナンダ王は9億9千万枚の金貨を持っている」という伝説も残されています。

ギリシア人の記録には、ナンダ朝は20万の歩兵と3千～4千の戦象を有していたとされています。これらの記録の正確性は不明確ですが、当時のナンダ朝が周辺に強大な勢力として認識されていたことは確かです。

歴代王

プラーナ文献

マハーパドマ （在位28年間）
スカルパ （在位12年間）
その他7人 （それぞれ在位12年間）

『マハーボーディヴァンサ』

ウグラセーナ
パンドゥカ
パンドゥガティ
ブータパーラ
ラーストラパーラ
ゴヴィサーナカ
ダーシャシッダカ
カイヴァルタ
ダナ （ダナナンダ？ ギリシア人の記録にあるアグラッメスか。）

（合計治世22年間）

『マハーヴァンサ』

ダナナンダ （最後の王）

参考文献

『中村元選集 第5巻 インド古代史 上』 （中村元 春秋社 1963年）
『中村元選集 第6巻 インド古代史 下』 （中村元 春秋社 1966年）
『世界の歴史3 古代インドの文明と社会』（山崎元一 中央公論社 1997年）ISBN 4124034032

関連項目

インド
インドの歴史
ガンジス川
マウリヤ朝

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