プラーナ文献

プラーナ文献：ヒンドゥー教の百科全書的聖典

プラーナ（पुराण purāṇa）とは、「古き物語」を意味するサンスクリット語に由来する、ヒンドゥー教の聖典群の総称です。神々の神話や伝説、賛歌、祭祀、カースト制度、哲学、医学、音楽など、ヒンドゥー教のあらゆる側面を網羅する膨大な内容を誇り、百科全書と呼ぶにふさわしい広がりを持っています。しばしば「第五のヴェーダ」とも称され、その権威の高さがうかがえます。

プラーナの起源と伝承

多くのプラーナは、伝説上の聖仙ヴィヤーサ（Vyāsa）――『マハーバーラタ』の作者としても知られています――が天の啓示を受けて著したと伝えられています。ただし、一部のプラーナはヴィヤーサの時代よりも後の出来事を扱っており、それらは予言として解釈されています。

プラーナの起源は古く、ヴェーダ時代以前のバラモン教の文献や法典にその原型を見出すことができます。古代の語源学者ヤースカもプラーナに言及しており、ヴェーダ解釈者の中にプラーナの伝承者たちが存在したことが推測されます。

初期のプラーナは、スータ（sūta）と呼ばれる吟遊詩人や弾唱詩人によって口承で伝えられていました。彼らは『ラーマーヤナ』や『マハーバーラタ』などの叙事詩の伝承者とも繋がりを持ち、ヴェーダの祭祀や法の成文化にも関与していたと考えられています。

ヒンドゥー教が発展するにつれて、寺妓や巡礼地に集まる下層の僧職がプラーナの伝承に深く関わるようになり、様々な要素が追加・改変されました。現存するプラーナの大部分は4世紀から1[[4世紀]]にかけて成立したと推定されています。

正統派のバラモンからは、女性やシュードラ（最下層カースト）のための聖典と見なされることもありましたが、プラーナはヒンドゥー教の民衆的側面を色濃く反映しており、その重要性は否定できません。むしろ、ヒンドゥー教の宗教・哲学の発展史を知る重要な手がかりとなるだけでなく、民俗学や宗教学の貴重な資料としても高く評価されています。

プラーナの構成と内容

6世紀頃の辞典『アマラコーシャ』では、プラーナは「パンチャ・ラクシャナ（pañcalakṣaṇa）」と呼ばれる五つの主題を含むとされています。

1. 創造（sarga）：宇宙の創造
2. 再創造（pratisarga）：宇宙の周期的な破壊と再生
3. 系譜（vaṃśa）：神々や聖仙の系譜
4. マヌの劫期（manvantara）：人祖マヌから始まる人類史
5. 王朝史（vaṃśānucarita）：様々な王朝の歴史

しかし、現存するプラーナは必ずしもこれらの要素をすべて含んでいるわけではなく、内容や構成は多様性に富んでいます。多くのプラーナは、16音節2行の詩型であるシュローカ（śloka）で書かれていますが、古典サンスクリット文法からは逸脱した表現も多いのが特徴です。

プラーナ文献の一覧

現存するプラーナ文献は、18種類の大プラーナ（mahāpurāṇa）の存在を共通して認めています。その内容は文献によって若干の差異がありますが、主要なものは以下の通りです。

ブラフマ・プラーナ
パドマ・プラーナ
ヴィシュヌ・プラーナ
ヴァーユ・プラーナ
バーガヴァタ・プラーナ
ブリハンナーラディーヤ・プラーナ
マールカンデーヤ・プラーナ
アグニ・プラーナ
バヴィシュヤ・プラーナ
ブラフマヴァイヴァルタ・プラーナ
リンガ・プラーナ
ヴァラーハ・プラーナ
スカンダ・プラーナ
ヴァーマナ・プラーナ
クールマ・プラーナ
マツヤ・プラーナ
ガルダ・プラーナ
ブラフマーンダ・プラーナ

これ以外にも、副プラーナ（upapurāṇa）と呼ばれる多くの聖典が存在しますが、その数は文献によって異なり、明確な定義もありません。副プラーナには、聖地の由来を記したマーハートミヤ、賛歌であるストートラ、祭儀に関するカルパ、伝説集であるアーキヤーナなどが含まれます。また、『ハリヴァンシャ』は『マハーバーラタ』の続編とみなされることもありますが、プラーナ文献の一種として扱われることもあります。

プラーナ文献は、ヒンドゥー教の理解に不可欠な資料であり、その多様な内容は現代においても研究者や信者たちを魅了し続けています。

もう一度検索