セイヨウオトギリ

セイヨウオトギリソウ（セント・ジョーンズ・ワート）の詳細解説

植物としての特徴

セイヨウオトギリソウ（学名: Hypericum perforatum）は、オトギリソウ科に属する多年草です。一般的にセント・ジョーンズ・ワート（St. John's wort）として知られ、ヨーロッパ原産ですが、現在は北米を含む多くの地域で野生化しています。この植物は、黄色い花を咲かせ、根茎で繁殖します。特徴的なのは、葉に油点と呼ばれる小さな透明の点があることで、光にかざすと穴のように見えることから、種小名の「perforatum」（穴のあいた）が付けられました。また、聖ヨハネの日（6月24日）頃に開花することから、この名がついたとされています。

ハーブとしての利用

セイヨウオトギリソウは、古くから薬草として利用されてきました。古代ギリシャ時代から記録があり、ネイティブアメリカンも様々な用途で使用してきました。現代では、特にうつ病や不安障害の治療に用いられることが多く、ハーブティーやサプリメントとして広く流通しています。ただし、日本では薬事法上、薬効を謳わない限りは「食品」として扱われます。

臨床的効果に関する研究

セイヨウオトギリソウの臨床研究は、主にうつ病に対する効果を調査したものが中心です。研究結果は一定していませんが、軽度から中等度のうつ病に対して、従来の抗うつ薬と同等か、より少ない副作用で効果があるとする報告がある一方で、偽薬と変わらないとする研究結果も存在します。

英国国立医療技術評価機構（NICE）は、軽度から中等度のうつ病に対し、抗うつ薬の使用を推奨しない一方で、セント・ジョーンズ・ワートには効果がある可能性を示唆しています。

コクランレビューによる2008年の報告では、うつ病患者に対して偽薬群よりも優れ、標準的な抗うつ薬と同等の効果があり、副作用も少ないという結論を出しています。しかし、これらの結果は、臨床試験の質や研究が行われた地域によって解釈が異なることが指摘されています。

一方、米国国立衛生研究所（NIH）は、大規模な臨床試験の結果から、うつ病に対してセント・ジョーンズ・ワートは偽薬と比較して効果がない、または非常に小さい効果しか示さないとしています。これらの研究結果は、臨床試験の設計や対象患者の違いによって、結論が異なる可能性を示唆しています。

成分と薬理学

セイヨウオトギリソウには、フラボノイド、フェノール酸、ナフトジアントロン類、フロログルシノール類など、さまざまな有効成分が含まれています。特にヒペリシンとヒペルフォリンは、主要な活性成分として考えられており、これらの成分が、セロトニン、ドーパミン、ノルアドレナリンなどの神経伝達物質の再吸収を阻害することで、抗うつ効果を発揮すると考えられています。しかし、正確な作用機序はまだ完全には解明されていません。また、ヒペルフォリンを含まない抽出物にも抗うつ作用が報告されており、他の成分の関与も示唆されています。

投与と処方

セント・ジョーンズ・ワートの投与量は、製品や抽出方法によって大きく異なります。一般的な投与量は、1日あたり350mgから1800mg程度とされています。乾燥ハーブ、液体抽出物、チンキなど、様々な形態で利用されていますが、成分含有量が一定でないため、標準化された抽出物を選ぶことが推奨されます。効果を実感するためには、最低4週間は継続して摂取する必要があるとされています。

副作用

セイヨウオトギリソウは、一般的に安全性が高いとされていますが、まれに胃腸症状、めまい、意識混濁、倦怠感、鎮静などの副作用が報告されています。また、ヒペリシンは光線過敏症を引き起こす可能性があり、通常よりも日光に敏感になることがあります。統合失調症の患者では症状を悪化させる可能性も指摘されています。

薬物相互作用

セント・ジョーンズ・ワートは、多くの薬物と相互作用を起こすことが知られています。特にCYP3A4酵素を誘導することで、ジゴキシン、シクロスポリン、テオフィリン、インジナビル、ワルファリンなど、様々な薬物の効果を減弱させる可能性があります。また、他の抗うつ薬、避妊薬、高脂血症治療薬などとも相互作用を起こす可能性があるため、医師や薬剤師に相談することが重要です。

まとめ

セイヨウオトギリソウは、古くから薬草として利用されてきた植物であり、特にうつ病に対する効果が注目されています。しかし、その効果や安全性についてはまだ不明な点が多く、研究結果も一致していません。使用する際には、医師や薬剤師に相談し、適切な用法・用量を守ることが重要です。また、他の薬物との相互作用にも注意が必要です。

参考文献

セイヨウオトギリソウ(セントジョーンズワート) - 素材情報データベース＜有効性情報＞（国立健康・栄養研究所）
健康食品に用いられるセントジョーンズワートの栽培と鑑別について 東京都健康安全研究センター 東京都薬用植物園
St. John's Wort - 米国国立補完代替医療センター (NCCAM)
セントジョンズワート（セイヨウオトギリソウ）メルクマニュアル家庭版

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