シナノキ属

シナノキ属（Tilia）について

シナノキ属は、アオイ科（以前はシナノキ科として分類されていた）に属する落葉高木のグループです。学名は Tilia で、日本では「科の木属」や「級の木属」とも表記されます。英語圏ではライム（lime）とは異なるものの、lime treeと呼ばれたり、リンデン(linden)、北米の種はバスウッド(basswood)といった名称で親しまれています。

特徴

シナノキ属の植物は、落葉性の高木であり、葉は互い違いに生えます（互生）。葉の先は細く尖り、基部は非対称で、縁には細かい鋸歯があります。葉や茎には星状の毛が生えていることもあります。特徴的なのは、膜状の托葉が早く落ちることや、葉柄が明確に区別できることです。花は葉の付け根から集散花序を伸ばして咲き、細長い楕円形の総苞葉が目立ちます。この総苞葉は花序の軸と合着しており、果実が熟して落下する際には、プロペラのように風に乗って種子散布を助ける役割を果たします。

花は両性花で、萼片と花弁はそれぞれ5枚、雄しべは多数あり離れており、花弁の内側には仮雄しべがあるのが特徴です。子房は5室に分かれており、それぞれに2つの胚珠があります。花柱は細長く伸び、柱頭は浅く5つに裂けています。果実は球形または楕円形の堅果で、中に1～2個の種子を含んでいます。

分布と種

シナノキ属は、北半球の温帯に約30種が分布しており、日本にはシナノキ、ボダイジュなど数種が自生しています。

日本に分布する主な種は以下の通りです。

ブンゴボダイジュ (Tilia chinensis var. intonsa): 大分県の山地にまれに生育します。
シナノキ (Tilia japonica): 日本固有種で、北海道、本州、九州の山地に分布します。
シコクシナノキ (Tilia japonica var. leiocarpa): 四国の山地に生育します。
ヘラノキ (Tilia kiusiana): 本州の紀伊半島、中国地方、四国、九州の山地に分布します。
マンシュウボダイジュ (Tilia mandshurica var. mandshurica): 環境省の絶滅危惧IA類に指定されており、岡山県、広島県、山口県の高地の谷間など冷涼地に生育します。朝鮮半島や中国北部にも分布します。
ツクシボダイジュ (Tilia mandshurica var. rufovillosa): 環境省の絶滅危惧IB類に指定されており、大分県の九重山周辺にまれに生育します。朝鮮半島にも生育します。
エチゴボダイジュ (Tilia mandshurica var. toriiana)
オオバボダイジュ (Tilia maximowicziana): 北海道、本州の東北地方、北陸地方、関東地方北部の山地に分布します。
モイワボダイジュ (Tilia maximowicziana var. yesoana): 北海道、本州の東北地方に分布し、中部地方北部にも見られることがあります。
ボダイジュ (Tilia miqueliana): 中国原産で、日本では寺院などに植栽されています。
ノジリボダイジュ (Tilia × noziricola): シナノキとオオバボダイジュの交雑種と考えられ、長野県と新潟県に見られます。

その他の主な種としては、アメリカシナノキ、アムールシナノキ、フユボダイジュ、タケシマシナノキ、モウコシナノキ、ナツボダイジュ（ヨウシュボダイジュ、セイヨウボダイジュ）、セイヨウシナノキ（リンデン）などが挙げられます。

名前の由来

属名の Tilia は、ボダイジュのラテン語古名に由来し、翼状の総苞葉が花序軸と合着している様子から、「翼」を意味するギリシャ語 ptilon が語源とする説と、繊維を意味するギリシア語 tilos に由来するとする説があります。ボダイジュ（菩提樹）は中国原産のシナノキ属の樹種で、日本に伝わった際、寺院に植えられたことから「菩提樹」と呼ばれるようになりました。

シナノキの「シナ」は、アイヌ語の「結ぶ、縛る」を意味する言葉に由来するとされています。また、アイヌ民族がロープの材料として重宝したシナノキの内皮・繊維を nipes や si-nipes と呼び、最も優れた繊維素材であることを示す言葉として使われていたという説もあります。

逸話

古代ローマの詩人オウィディウスの「変身物語」には、バウキスとピレモン夫妻の逸話に菩提樹（linden）が登場します。互いを深く愛する夫婦が、死を共にしたいと願ったところ、菩提樹とオークの木に変身し、相思相愛の象徴とされています。

用途

ヨーロッパでは、街路樹や公園樹として広く利用されており、ベルリンの目抜き通り「ウンター・デン・リンデン」は、街路樹の名がそのまま通り名になっています。

蜂蜜

シナノキは香りの良い蜂蜜の蜜源として知られています。北海道では、シナノキがニセアカシアと並ぶ主要な蜜源となっています。

木材

シナノキの材は、合板、彫刻材、箱材などに利用されます。特にヨーロッパでは、フユボダイジュ、ナツボダイジュ、セイヨウシナノキが「リンデン材」として重宝されており、楽器や盾、匙などの家事道具、彫刻などに利用されています。柔らかく加工しやすいことから、聖人の彫像にも多用され、「lignum sacrum」（聖なる木）とも呼ばれていました。

薬用

セイヨウシナノキの乾燥させた花は、ハーブティーとして飲まれます。花にはフラボノイドや揮発性オイルが含まれており、抗酸化作用や収れん作用があります。風邪、咳、発熱、感染症、炎症、高血圧、頭痛などの症状緩和、利尿作用、鎮痙作用、鎮静作用などがあるとされています。木材は、肝臓や胆嚢の疾患に、木炭は腸障害や皮膚の感染症の治療に用いられます。また、花には肝臓保護作用がある可能性も示唆されています。

食用

リンデンの若葉と芽は食用になります。

関連項目

ティルマン・リーメンシュナイダー：木材の彫刻家
* ホワイトパイン：リンデン材と同様に彫刻向きの木材

この情報を参考に、シナノキ属への理解を深めていただければ幸いです。

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