シナノキ

シナノキ（科の木）

シナノキ（学名: Tilia japonica）は、アオイ科シナノキ属に属する落葉高木であり、日本固有種です。別名として、ヘラノキ、サドシナノキとも呼ばれています。

名称の由来

和名「シナノキ」は、長野県の古名である「科布が多くとれた国」を意味する信濃に由来すると言われています。「信濃の木」が転訛したという説が有力です。

一方、牧野富太郎は、シナの語源をアイヌ語の「結ぶ」「縛る」という意味の言葉であるとしています。これは、アイヌ民族がシナノキの樹皮から繊維を採って、縄や糸を作ったことに由来すると説明しています。しかし、辻井達一は、この説に異議を唱えています。知里真志保によれば、アイヌ民族はシナノキの内皮またはその繊維をニペシ（nipes）あるいはシニペシ（si-nipes）と呼んでおり、「ニ」は木、「ペシ」は裂片、「シ」は本当のという意味があるとしています。辻井は、シナノキが優れた繊維素材であることをアイヌ語で示していると解釈しています。

漢字では、木偏に品と書いて「榀」と表記されることもありますが、これは当て字と考えられています。

シナノキの花言葉は「夫婦愛」です。

特徴

シナノキは、落葉広葉樹であり、最大で樹高20-30m、胸高直径2mに達する高木です。樹皮は暗褐色から茶褐色で、若木では滑らかですが、成木になると薄い鱗片状になり、縦に浅く裂けます。小枝は無毛で、縦長の皮目が目立ちます。

葉は互生し、長さ6 - 10cm、幅5 - 6cmで、葉先が尖った左右非対称のハート形をしています。葉縁には鋭い鋸状歯があります。カツラの葉に似ていますが、カツラの葉は対生します。春には鮮やかな緑色をしていますが、秋には黄色に紅葉します。条件が良いと綺麗な黄色に色づきますが、褐色を帯びやすい傾向があります。

花期は初夏（6 - 7月）で、葉腋から集散花序を下向きに出し、淡黄色の小さな花をつけます。花は花序から花柄が分枝して下に垂れ下がります。花序の柄にはへら形の苞葉をつけるのが特徴です。果期は10月で、果実はほぼ球形で、直径5mmの実には灰褐色の毛が密生しています。秋に熟すと、果柄についた葉のような形をした苞が翼の役目をして、果序とともにあちこちに落ちます。

冬芽はいびつな卵形で、仮頂芽と側芽がつき、長さは7 - 10mm、無毛の芽鱗2枚に包まれています。外側の芽鱗1枚は小さいです。葉痕は半円形から楕円形で冬芽のそばにつき、維管束痕が3個あります。

根系は中大径の斜出根、垂下根型です。水平根からも垂下根をよく分岐させます。

分布と生育地

シナノキは日本固有種で、北海道、本州、四国、九州に分布し、山地の尾根筋から渓流にかけて見られます。寒い地方のブナ林などに生える樹木です。公園や街路などにも植栽されています。

利用

シナノキの材は、ベニヤ板の材料として利用されます。樹皮の繊維は、布や和紙の原料になります。花からは良質な蜂蜜が採れます。北海道などでは、街路樹や公園樹としても利用されています。

道管の配置は散孔材で、心材は淡黄褐色、辺材は黄白色です。両者の境界はやや不明瞭で、年輪も不明瞭です。気乾比重は0.5程度で、強度はあまりありませんが、曲げには比較的強いです。

樹皮は「シナ皮」と呼ばれ、繊維が強く、主にロープ、かご、編み袋の材料とされてきました。近年では合成繊維の普及により、あまり使われなくなりましたが、大型船舶の一部では未だに使用されています。1990年代頃から、地球環境を見直す意味で麻などと共にロープなどへの利用が見直されています。木綿が普及する以前には、樹皮を剥ぎ、煮て取り出した繊維で布を織り、榀布（しなぬの・しなふ）と呼び、衣服なども作られました。アイヌは衣類など織物アットゥシを作るため、オヒョウの樹皮の内皮を主に使いましたが、シナノキの繊維も利用しました。山形県鶴岡市関川や新潟県村上市で作られる伝統織物である羽越しな布は、シナノキのほか同属のオオバボダイジュの内皮から採った繊維から布が織られるもので、経済産業大臣指定伝統的工芸品に指定されています。現在でもインテリア小物などの材料に使われる事もあります。

木部は白く年輪が不明瞭で、柔らかく加工しやすいですが、耐久性に劣ります。材は建築材や器具材に使われ、合板や割り箸、マッチの軸、鉛筆材、アイスクリームのへら、木彫りの民芸品などに利用されます。年輪が目立たず白いことから、ラワンを芯材としたシナ合板の化粧面（表面）に多く利用され、芯材もシナとしたものは区別してシナ共芯合板またはシナ合板共芯（ともしん）と呼びます。北海道の民芸品である木彫りの熊は、シナノキから彫られていることが多いです。

シナノキは蜜源植物としても重要で、花からは良質の蜜が採取できます。花の時期には養蜂家がシナノキの多い森で採蜜を行い、菩提樹の蜂蜜として製品化するところもあります。

シンボルなど

長野市の「市の木」に指定されています。

近縁種

シナノキは日本特産種ですが、シナノキ属はヨーロッパからアジア、アメリカ大陸にかけての冷温帯に広く分布しています。シナノキ属の樹木で「菩提樹」と称している木は、インドボダイジュとはまったくの別種です。葉の形が似ていたことから寺院で植えられて同じように呼ばれ、これが日本にもたらされたものです。

ヨーロッパではセイヨウシナノキがあります。シューベルトの歌曲『リンデンバウム』（歌曲集『冬の旅』、邦題『菩提樹』）で有名です。

スウェーデン国王アドルフ・フレデリックが1757年に、「分類学の父」と呼ばれる植物学者カール・フォン・リンネを貴族に叙した際に、姓としてフォン・リンネを与えましたが、リンネとはセイヨウシナノキのことであり、これは家族が育てていたことに由来するものです。

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