シメオン・ソロモン

シメオン・ソロモン：栄光と転落の生涯

シメオン・ソロモン (1840-1905) は、19世紀イギリスを代表する画家の1人であり、ラファエル前派の重要なメンバーとして活躍しました。しかし、彼の生涯は華々しい成功と悲劇的な転落、そして長い間の忘れられという、ドラマチックなものでした。ユダヤ教徒の帽子職人である父と美術家の母のもと、8人兄弟の末っ子としてロンドンに生まれたソロモンは、幼い頃に父を亡くし、画家であった兄から絵画の手ほどきを受けました。

才能溢れるソロモンは、名門美術学校を経て、1855年にロイヤル・アカデミーに入学。在学中には仲間の学生たちと写生クラブを結成し、研鑽を積みました。彼の才能は早くから開花し、初期の作品『捧げ出すイサク』はアカデミーに展示されました。しかし、真に注目を集めたのは1860年に発表された『母の腕に抱かれるモーセ』です。この作品は新聞で酷評されましたが、著名な作家ウィリアム・メイクピース・サッカレーの擁護により、広く知られるようになりました。この作品は、当時のイギリス社会で主流だったキリスト教文化とは異なる、旧約聖書を題材にしたものでした。

ソロモンは、ダンテ・ゲイブリエル・ロセッティ、ジョン・エヴァレット・ミレー、ウィリアム・ホルマン・ハントといったラファエル前派の巨匠たちと交流を持ちました。特に、ロセッティの紹介で知り合ったエドワード・バーン＝ジョーンズとの関係は深く、バーン＝ジョーンズの工房に頻繁に出入りし、そこで多くの影響を受けました。また、詩人アルジャーノン・チャールズ・スウィンバーンとの出会いは、ソロモンの人生に大きな転機をもたらしました。スウィンバーンはソロモンを魅了し、2人は親密な関係を築きました。この関係は、ソロモンの作品にも影響を与え、ギリシャ神話や男性美をテーマにした作品が増えていきました。

1862年には自身のアトリエを構え、ロイヤル・アカデミーやダドリー・ギャラリーに積極的に作品を出展。モリス商会や出版社のデザインにも携わるなど、多方面で活躍しました。唯美主義の評論家ウォルター・ペイターや、オスカー・ワイルドとも交流を持ち、享楽的な生活を送るようになりました。1871年には詩集『夢で見た愛の幻視』を発表し、高い評価を受けました。しかし、この詩集は、ラファエル前派に対する激しい批判を招くことになります。

転落の始まりは1873年、同性愛行為で逮捕されたことからでした。この逮捕はソロモンの社会的地位を完全に奪い、彼は友人や家族に見捨てられ、貧困とアルコール依存症に苦しむようになりました。スウィンバーンとの関係も破綻し、ソロモンはかつての輝きを失い、セント・ジャイルズ救貧院に身を置くまでに落ちぶれました。

しかし、ソロモンの芸術への情熱は失われることはありませんでした。逮捕後も絵を描き続け、新たな顧客を見つけることで、活動を続けました。写真家フレデリック・ホリーアー、詩人ライオネル・ジョンソン、そしてW・B・イェイツなど、新たな支援者を得て、再び注目を集めるようになりました。スウェーデンの詩人でパトロンであったエリック・ステンボックの援助のもと、ソロモンは晩年まで創作活動を続けました。

1905年、セント・ジャイルズ救貧院で心臓発作により64歳で亡くなりました。長い間忘れられていたソロモンですが、近年になってその作品が見直され、再評価されています。彼の生涯は、才能と苦悩、栄光と転落が複雑に絡み合った、ドラマチックな物語として、今なお人々の心を捉えています。彼の作品は、当時の社会規範や性に対する偏見、そして芸術家の葛藤を映し出す貴重なものです。

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