ジャブラ

ジャブラ：歴史と現代が交錯するシリアの都市

地中海に面したシリア・ラタキア県に位置するジャブラ（アラビア語: جبلة‎、英語: Jableh）は、古代から現代まで、数々の歴史的出来事と文化遺産を育んできた都市です。紀元前3000年頃から人々が定住し、古代ローマ時代にはガバラ（Gabala）として栄え、約7,000人を収容できる円形闘技場などの遺跡が現在も残されています。海岸周辺には、鉄器時代やフェニキア時代頃の遺跡も発見されており、その歴史の深さを物語っています。

ジャブラは、1189年の第3回十字軍の際にサラーフッディーンによって奪還されるまで、アンティオキア公国の一部として西洋人にはギベルム（Gibellum）として知られていました。この時代の出来事として、街の主教がエデッサ伯国の陥落や伝説上のプレスター・ジョンの存在をローマ教皇エウゲニウス3世に伝えたという記録が残されています。

中世から近現代にかけても、ジャブラは重要な役割を果たしました。イスラム神秘主義のスーフィズムにおける禁欲主義者として名高いスルターン・イブラーヒーム・イブン・アドハムの出身地であり、彼の墓とモスクは現在もジャブラに存在します。また、20世紀を代表する現代アラビア語詩人であるアドニスもジャブラ出身です。さらに、長距離水泳の世界記録を樹立したFiras Moualaや、フランス委任統治領シリアにおける抵抗運動、そしてパレスチナにおけるイギリス統治への抵抗運動で知られるイッズッディーン・アル＝カッサームもこの地を故郷としています。アル＝カッサームは「黒い手」という武装組織を率い、パレスチナ解放運動において重要な役割を果たした人物であり、現代のイスラム原理主義組織ハマースの軍事部門であるイッズッディーン・アル＝カッサーム旅団の名前の由来となっています。

2011年から続くシリア内戦においても、ジャブラは大きな影響を受けました。反体制派によるデモが頻発し、治安部隊による発砲事件も発生しています。

経済面では、ジャブラの住民の多くは農業に従事し、オレンジやレモン、オリーブなどの果樹園や様々な野菜農園が広がっています。市街地では、貿易やオレンジジュース、綿などの加工産業も盛んです。Al-Kurnishと呼ばれるビーチは観光客にも人気があります。スポーツ面では、サッカークラブのジャブラSCがシリアリーグ2部に所属し、10,000人収容のアル・バアス・スタジアムを本拠地としています。

ジャブラは、古代遺跡から現代のスポーツ施設まで、多様な要素を併せ持つ都市です。小説家、ジャーナリストであるサマル・ヤズベクなど、多くの著名人を輩出してきたジャブラの歴史と文化は、シリアの歴史と深く結びついています。歴史と現代が複雑に交錯するこの都市は、これからもその独自の道を歩んでいくことでしょう。

もう一度検索