シャンニー民族軍

シャンニー民族軍（SNA）

シャンニー民族軍（SNA）は、ミャンマー北部、特にザガイン地方域北部とカチン州において活動を展開する武装組織です。正式名称はビルマ語でရှမ်းနီ အမျိုးသားများ တပ်မတော်、英語ではShanni Nationalities Armyと表記されます。その設立は1989年とされていますが、武装勢力として本格的に活動を開始したのは2016年1月であり、この際にカチン独立軍（KIA）から離反したシャンニー族の元兵士らの協力を得て武装しました。SNAが掲げる主な目的は、シャンニー族独自の州を獲得すること、麻薬問題の根絶、連邦制国家の実現、シャン諸民族間の結束強化、そして生態系の保全です。

組織の背景

シャンニー族は、自らを「タイ・レン」（赤いシャン）と呼び、シャン族に近縁な民族集団です。人口はおよそ30万と推定され、主にザガイン地方域北部とカチン州に居住しています。彼らは長年にわたり、民族的アイデンティティが抑圧されていると感じており、特に多くのSNA構成員は、独立前のパンロン協定によって居住地域がカチン族主体の州に統合されたことにその不満の根源を求めています。さらに、一部の構成員は、カムティ・ロンやモンヤンといった中世の国家に遡る自地域の歴史的な連続性を強く意識しています。SNAが要求するシャンニー族の州の範囲がカチン州と重なることや、カチン独立軍（KIA）がシャンニー族を抑圧しているという認識は、両組織間の深刻な対立構造を生み出しました。同時に、新たな州創設という要求は、ミャンマー軍事政権からの反発も招いています。

こうしたシャンニー族の積年の不満は、武装による抵抗へと向かいました。1977年には、サイカムロイとコー・アウントゥンという若者たちが率いるグループが、シャンニー民族の軍を立ち上げるべく、軍事訓練や武器調達の支援を模索しました。当初、彼らはシャン州進歩党（SSPP/SSA）に接触しましたが、その後、ビルマ共産党（CPB）と連携することを選択しました。CPBの北部軍管区の傘下に入り、「シャンニー民族軍7710部隊」として組織化されたこの部隊は、1977年10月の結成にちなんでこの番号が付けられました。しかし、CPB傘下での活動では、ミャンマー軍への攻撃が優先され、民族運動の目標達成が難しく、またカチン独立軍（KIA）への対抗も許されなかったため、方針の相違から最終的に解散へと至りました。

組織の歩み

成立から2016年まで

SNA自身の主張によれば、組織は1989年7月に設立されたとされています。International Crisis Groupのインタビューに対し、幹部の一人は、1989年6月21日にシャン州の州都タウンジーで結成されたと具体的に述べています。本部については、2009年にインド・ミャンマー国境沿いのNwe Imphaに設置されたとされますが、カチン州やザガイン地方域に拠点を移したのは2012年頃だと幹部は証言しています。International Crisis Groupは、政府が新たな武装組織の和平プロセス参加を認めない政策をとっていたことから、SNAがこの政策を回避するために、実際よりも古い1989年という設立時期を主張している可能性を示唆しています。

2016年から2020年

SNAが武装組織としての活動を公に開始したのは、2016年1月でした。この武装化の背景には、シャンニー族が国内の政治対話においてより強い立場を得ること、そして自らの居住地域を自力で守ることへの強い願いがありました。全国停戦合意が発効した後にSNAが武装を決意したのは、民族独自の武装組織を持つことが、将来の停戦協議においてシャンニー族の要求を効果的に表明するために不可欠だと考えたからです。2016年には、SNAとシャンニー族の活動家たちが国民民主連盟（NLD）政権に対し、SNAの全国停戦合意への参加を認めよう求めましたが、政府の新しい武装組織を受け入れない方針により、これは実現しませんでした。

2019年までには、SNAはカチン州とザガイン地方域の複数の戦略的な地域に基地を確立していました。2020年4月中旬には、ホマリン郡区におけるミャンマー軍の影響力拡大に伴い、SNAとミャンマー軍の間で緊張が高まりましたが、その後鎮静化しました。しかし、同年7月には、カチン独立軍（KIA）の兵士5人によってシャンニー族の少年2人が拘束され、殺害されるという痛ましい事件が発生しました。この事件に対し、SNAからの強い抗議を受けたKIAは正式に謝罪し、関与した兵士を処罰しました。

ミャンマー内戦（2021年-現在）

2021年の軍事クーデター後、ミャンマー各地で民族紛争が再び激化する中、シャンニー民族軍（SNA）の指導部の一部は、ミャンマー軍との良好な関係を維持することを優先する動きを見せました。これは、シャンニー族の諸共同体が歴史的にミャンマー軍と協力し、カチン独立軍（KIA）に対抗してきた背景とも関連しています。しかし、このような状況下で、2021年5月26日には副指導者のサオ・クン・チョー氏がミャンマー軍によって暗殺されるという出来事も起きました。

KIAとの対立が深まるにつれて、SNAは2022年までにはミャンマー軍事政権と事実上の同盟関係を構築するに至りました。同年9月、SNAは、KIAが国民防衛隊（PDF）を組織・訓練し、国民統一政府（NUG）の同意を得て「シャンニー族に対するジェノサイド計画を加速している」と非難しました。これに対し、ある現地住民は、SNAが初期にはPDFを支援していたものの、多くのシャンニー族出身のPDF隊員が資金や装備の面で支援を行ったKIAの指揮下に入った現状を指摘し、SNAがその主張する支配地域におけるKIAの活動増加がSNAの立場を変化させたのではないかと推測しています。

2022年8月には、SNAはミャンマー軍と共同でパカン地域のある村を攻撃し、数百軒の住宅に放火してKIAを同地から撤退させました。同年9月には、バンマウッ郡区とホマリン郡区にあるSNAの二つの基地が、KIAとPDFの連合部隊による砲撃を受けました。2024年2月には、ホマリン郡区において、SNAが民族間の憎悪を煽り、強制的な徴兵を行っているとの報告が上がっています。

指導部

SNAの現在の指導部は以下の通りです。

議長: サオ・タンミン
副議長: ウー・クンアウン
書記: サオ・タンファー
最高司令官: セーサイトゥン准将
広報: サイアウンミン大佐

経済活動

SNAの活動地域には、豊富な天然資源が存在します。バンモーッ、ホマリン、ウユ川渓谷地域には金鉱が、カムティ地域には翡翠鉱山が確認されています。特に金鉱からの税金徴収を巡っては、ホマリン、モーライ、カムティ、タムーといった地域でKIAとSNAの間で継続的な対立が生じています。また、モーニン郡区インドージーでは、2024年6月以降、SNAによる大規模な金採掘活動が行われており、これに伴い周辺の農地が深刻な破壊にさらされています。

旅団構成

SNAは現在、5個の旅団（第891旅団、第972旅団、第753旅団、第614旅団、第565旅団）で構成されています。第614旅団と第565旅団は比較的新設された部隊です。各旅団のおおまかな管轄地域は以下の通りです。

第891旅団: カムティ郡区、インド国境付近
第972旅団: ウユ川流域、パッカラーグウィン、セジン村周辺
第753旅団: ホマリン郡区、パウンビン郡区、ピンレブ郡区、シュエピエ町周辺
第614旅団: ザガイン地方域インドー郡区、バンモーッ郡区などチンドウィン川流域で活動
第565旅団: カチン州モーニン郡区

これらの情報から、シャンニー民族軍（SNA）は、シャンニー族の民族的な権利と自治権確立を目指す中で、複雑な歴史的経緯を経て成立し、現在も地域の多様な勢力との対立や協力を繰り返しながら活動を続けていることが分かります。その活動は、民族間の関係性、中央政府との関わり、そして地域の経済活動にも深く関わっています。

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