シャーク土屋

日本の女子プロレス界において、 FMWの歴史を語る上で欠かせない強烈な個性を持つ選手、それがシャーク土屋である。本名・土屋恵理子として1970年 2月19日に東京都練馬区で生を受けた彼女は、元々プロレスラーを志していたわけではない。ソフトボール選手として鍛え上げた体格を生かし、デザイナーとしてFMWの団体ロゴを制作し売り込みに訪れたことが、プロレスラーへの道を開く偶然のきっかけとなった。その恵まれた体躯に目をつけられ、団体創設者である大仁田厚にスカウトされたのである。土屋のデザインした、ファイティングポーズをとる人間のシルエットが印象的な初期FMWのロゴマークは、今も語り継がれている。

1989年10月6日、FMW旗揚げ記念興行が名古屋・露橋スポーツセンターで開催され、彼女は里美和、松田久美子とトリオを組み、ウィッチ・ウォリアー組を相手にデビュー戦を飾った。持ち前の体格とパワーを武器に、 FMW女子部門の看板選手であった工藤めぐみに匹敵する大型ヒールとして、瞬く間にその存在感を示していく。当初はコンバット豊田をリーダーとする「コンバット・アーミー」の一員として、土屋、前泊よしかと共に正規軍の工藤らを相手に激しい戦いを繰り広げた。しかし、後に土屋と前泊は「コンバット・アーミー」を離れ、タッグチームとしてコンバット豊田や工藤めぐみと対峙する構図へと変化していった。

シャーク土屋とクラッシャー前泊のタッグは、間もなくして全日本女子プロレスのWWWA世界タッグチャンピオンチーム、山田敏代・豊田真奈美組との抗争を開始する。これはFMWという団体が組織的に仕掛けたものではなく、彼女たち個人の意思で始まった抗争であったが、これが後に団体間の垣根を越えた全面対抗戦時代の幕開けへと繋がる重要な一歩となった。突発的な行動であったため、FMW代表の大仁田厚が全日本女子プロレスのコミッショナーであった植田信治に謝罪する事態にもなったという。FMWにおいては、工藤めぐみと共に女子部門の双璧として活躍を続けた土屋は、その後ヒールユニット「猛毒隊」を結成。ミスター・ポーゴから火炎噴射や鎖鎌といったデスマッチアイテムの使用法を学び、より危険で過激なファイトスタイルを取り入れていった。

1997年4月29日、横浜アリーナで行われたFMWのビッグマッチにおいて、シャーク土屋は工藤めぐみの現役引退試合の相手を務めた。ノーロープ有刺鉄線電流爆破地雷デスマッチという、およそ女子プロレスの常識を覆す凄惨なリングでの一騎打ちは、二人のライバル関係の終着点であり、FMW史に残る伝説的な試合として今なお語り継がれている。

1998年にFMWを離れた後、土屋はフリーランスとして活動の場を広げた。LLPWやGAEA JAPANといった他団体を主戦場とし、神取忍や長与千種といった女子プロレス界の絶対的ベビーフェイスたちと激しくぶつかり合った。LLPWのイーグル沢井が率いる「平成GUREN隊」、Jd'のライオネス飛鳥率いる「裁恐軍」と合体し、「平成裁恐猛毒GUREN隊」を結成すると、FMWやJd'のリングでその暴れっぷりを遺憾なく発揮した。この時期には、冬木弘道をはじめとする男性レスラーとの対戦も実現し、話題を呼んだ。2000年にはDDTプロレスリングのアイアンマンヘビーメタル級王座（第46代）を獲得している。

2003年にはJWPに定期参戦し、フリーで活動していた倉垣翼と共に再び「猛毒隊」としてタッグを組んだが、このユニットは後に解消された。2004年11月3日のGAEA JAPAN 後楽園ホール大会では、現役復帰を果たした伝説のヒール、ダンプ松本とタッグを結成し、クラッシュ2000（長与千種・ライオネス飛鳥組を指す）と対戦。壮絶な流血戦を展開したが、結果は敗れている。

その後も、プロレス活動と並行して整体関係の仕事にも携わっていた土屋は、2010年に復活した「スーパーFMW」にも参戦するなど、精力的にリングに上がり続けた。しかし、2015年8月、高熱などの体調不良を訴え入院。1型糖尿病と診断された彼女は、下肢血流障害のため右足の指を3本切断するという過酷な手術を受けた。だが病状はさらに進行し、右足の膝下からの離断を余儀なくされ、以降は義足を使用して生活している。加えて乳癌も見つかり、右乳房の全摘出術を受けるなど、想像を絶する闘病生活を送ることとなった。

度重なる手術とリハビリを経て、レスラーとしての復帰を目指していたが、体への負担を考慮し、最終的に現役続行を断念。2016年11月8日に引退を表明した。そして、2016年11月24日に後楽園ホールで開催された超戦闘プロレスFMWの大会内で、盛大な引退セレモニーが行われ、シャーク土屋は17年間にわたる自身の壮絶なプロレス人生に区切りをつけた。

彼女の得意技としては、抱え上げて最高点で一度静止し、一気に叩きつけるハイアングル式のパワーボム「ツッチー・ボム」がフィニッシュホールドとして知られる。その他、強烈なラリアットや、凶器攻撃、火炎攻撃といったデスマッチ色の強い技も駆使した。

獲得したタイトルはWWA&インディペンデントワールド世界女子王座がある。

人物的なエピソードとしては、学生時代に漫才コンビ・ますだおかだの増田英彦と文通していたという意外な一面を持つ。当時プロレス雑誌の売買コーナーで小遣い稼ぎをしていた増田に、ライオネス飛鳥の写真をよく購入していた土屋が手紙を送ったのが始まりだったという。時を経て疎遠になったものの、後に増田がプロレス雑誌で土屋の活躍を知り、会場で再会を果たしたことがある。また、病床で闘病生活を送っていた際には、FMW時代の同期である里美和が献身的に付き添い、支えたという話も残っている。

度重なる困難に見舞われながらも、リングの上では一切の妥協を許さない、強烈なファイトで多くのファンを魅了し続けたシャーク土屋。その壮絶なレスラー人生は、多くの人々の記憶に深く刻まれている。

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