ジェム・スルタン

ジェム：オスマン帝国の帝位請求者、その波乱の生涯

ジェム（Cem, Djem、1459年12月 - 1495年2月25日）は、オスマン帝国の帝位を巡り、兄バヤズィト2世と激しく争った人物です。カラマンとコンヤの総督を務めた彼は、父メフメト2世の死後、帝位を主張し、その生涯は波乱に満ちたものとなりました。

生涯

前半生

父は「征服者」として知られるメフメト2世。メフメト2世は、詩作の才能に秀でたジェムを息子たちの中で最も愛していました。父の存命中から、その政策を支持する勢力がジェムを支持し、批判的な人々は兄である皇太子バヤズィトの周りに集まっていました。

1481年にメフメト2世が崩御すると、大宰相カラマニ・メフメト・パシャはバヤズィトとジェムに使者を送りましたが、ジェムの元へ向かった使者は途中で捕らえられ、ジェムは父の訃報を兄よりも4日遅れて知ることになります。その後、イェニチェリが蜂起し、カラマニ・メフメト・パシャが殺害されるという事件が起こります。バヤズィト2世の不在の間、その子コルクト皇子が摂政としてイスタンブールの秩序を回復しました。

5月21日、バヤズィトがイスタンブールに上陸し、皇帝への即位を宣言。そのわずか6日後、ジェムは4,000人の兵を率いてイネギョルの町を占領しました。バヤズィト2世は軍を派遣し、弟の殺害を命じますが、ジェムはこれを打ち破ります。ジェムは自身こそがアナトリアの君主であると宣言し、ブルサを首都に定め、バヤズィトにヨーロッパ側の領土を譲って帝位を分割することを提案しますが、バヤズィトはこれを拒否し、ブルサに進軍します。1481年6月20日、両軍は激突し、ジェム軍は敗北。ジェムは家族と共にマムルーク朝の支配下にあるカイロへ逃れることとなりました。

流浪の生活

カイロでは、兄バヤズィト2世から帝位を諦める代わりに銀貨の提供を申し出る文書を受け取りますが、ジェムはこれを拒否し、翌年にアナトリアへ出兵します。しかし、支持者の戦死などにより遠征を断念。エジプトへの帰還も阻まれ、ジェムは聖ヨハネ騎士団の招待を受け、ロドス島へ向かいます。その後、フランス王ルイ11世の仲介によりハンガリー王との同盟を試み、フランスへ渡ります。

バヤズィト2世は、ジェムの身柄をヨーロッパに留め置くようフランスに要求し、多額の金銭を支払うことに同意。マムルーク朝も同様に、金貨と引き換えにジェムの引き渡しを交渉していました。その後、ジェムは教皇庁との取引の結果、ローマへ送られることになります。

教皇インノケンティウス8世は、ジェムを利用して新たな十字軍遠征を計画しますが、ヨーロッパ諸国から拒否されます。また、ジェムにキリスト教への改宗を勧めますが、ジェムはこれも拒否。バヤズィト2世がバルカン半島への遠征を企てる限り、ジェムの身柄は利用価値があり、教皇は解放をちらつかせてバヤズィト2世を牽制しました。

フランス王シャルル8世がイタリア遠征を行った際、教皇庁からジェムの引き渡しを受け、ナポリ遠征に従軍させますが、1495年2月25日にカプアで亡くなりました。死因については、教皇アレクサンデル6世の指示による毒殺説も存在します。

弟の死を知ったバヤズィト2世は、3日間の服喪を宣言し、ジェムの遺体をイスラム教に則って埋葬することを求めました。遺体は死後4年を経てオスマン帝国へ送還され、もう一人の兄ムスタファの墓所に埋葬されました。

家族

ジェムは、ヨーロッパで長年人質としての生活を送り、その死後、母や妻、娘はバヤズィト2世によって保護されましたが、息子たちは処刑されました。しかし、ヨーロッパではキリスト教徒の貴族と同等の地位と称号を与えられ、アレクサンデル6世とシャルル8世は、ジェムとその息子メフメトをサング公として遇しました。メフメト以降の子孫はカトリックに改宗し、マルタの貴族サイード公としての地位を与えられています。

ジェムの生涯は、オスマン帝国の帝位継承争いの激しさ、そしてヨーロッパ諸国との複雑な政治関係を象徴するものと言えるでしょう。

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