バヤズィト2世

バヤズィト2世：停滞と変革の狭間で生きたスルタン

バヤズィト2世（1447年 - 1512年）は、オスマン帝国の第8代皇帝として、1481年から1512年まで在位しました。父はコンスタンティノープルを陥落させたことで知られるメフメト2世であり、彼自身は「聖者」と称されるほどの敬虔なムスリムでした。しかし、父や息子のセリム1世のような華々しい外征は少なく、その治世は停滞の時代、あるいは保守的な時代と評されることもあります。

生涯

即位以前

1447年にメフメト2世の長男として誕生。皇子としての慣例に従い、アマスィヤの知事を務めました。1473年には白羊朝との戦いで軍を指揮した経験も持ちます。しかし、父メフメト2世の中央集権的な政策には批判的な立場を取り、アマスィヤの宮廷には反対派が集まりました。

ジェムとの帝位争いと周辺諸国への対応

1481年にメフメト2世が死去すると、弟のジェムとの間で帝位を巡る争いが勃発。イェニチェリの支持を得たバヤズィトが勝利し、皇帝に即位します。帝位を逃したジェムは各地を亡命し、最終的には病死しましたが、その間、バヤズィトはジェムを保護する周辺諸国との交渉に奔走しました。

マムルーク朝とは、ジェムの処遇やメッカの水路修理の問題で関係が悪化。1485年からは戦争状態に陥りましたが、1491年に和議が成立しました。

オスマン海軍の躍進

バヤズィト2世の時代には、オスマン海軍が目覚ましい発展を遂げました。ヴェネツィアに対抗するために戦力を増強し、バルバリア海賊を海軍に編入。西欧から造船技術を導入し、新型艦船を建造しました。1499年にはヴェネツィア領のレパントを攻撃し、ゾンキオの海戦で勝利。1500年にはモレア半島のヴェネツィア領を次々と制圧しました。

サファヴィー朝の宣教活動と反乱

16世紀初頭、東方で勢力を拡大したサファヴィー朝は、アナトリアへの進出を企図し、シーア派の布教活動を展開しました。バヤズィトは当初これを静観していましたが、1511年にシャー・クルを名乗る者が反乱を起こすと、事態は急変。スンナ派を奉じるオスマン帝国に不満を持つ民衆が反乱に加わり、大規模な反乱へと発展しました。

反乱の鎮圧と廃位

シャー・クルの反乱は鎮圧されましたが、バヤズィトの息子たちの間で後継者争いが激化。イェニチェリの支持を得たセリムがクーデターを起こし、1512年にバヤズィトは廃位されました。その後、隠棲先へ向かう途上で崩御しましたが、セリムによる毒殺説も囁かれています。

政策

バヤズィト2世の治世では、父メフメト2世の時代に拡大した領土の基盤固めが主な施策となりました。国庫の立て直しのために支出を減らし、新税を廃止して社会の安定を図りました。また、レコンキスタ後のユダヤ教徒を受け入れ、技術者として活用しました。レオナルド・ダ・ヴィンチに橋の設計を依頼したことも知られています。

メフメト2世の時代に建設されたマドラサで学んだイスラーム法学者の影響力が増大し、国政と立法に関与するようになりました。バヤズィトの時代に編纂された法典は、後のスレイマン1世時代の法典の基礎となりました。

バヤズィト2世とイスラーム

敬虔なムスリムであったバヤズィト2世は、偶像崇拝を嫌い、王宮の絵画を売却・破棄しました。宮廷ではイスラームの神秘主義と韻文が奨励され、学者の保護にも熱心でした。アラビア書家のシェフ・ハムドゥッラーを保護し、イスラーム諸学の研究水準は向上しましたが、同時にイスラーム法学が権威化され、国内の規定がイスラーム法の制限を受けるようになりました。しかし、政府の宗教政策に批判的な民衆も存在し、シャー・クルの反乱に参加しました。

バヤズィト・モスク

1501年から1506年にかけてイスタンブールに建設されたバヤズィト・モスクは、現在もイスタンブール大学の向かいにその姿を留めています。ファーティフ・モスクが倒壊したため、バヤズィトのモスクがイスタンブールに現存する最古の皇帝によるモスクとなっています。アヤソフィアの設計が継承されており、オスマン帝国の建築家たちが東ローマ帝国の建築技術を意識していたことがうかがえます。

バヤズィト2世の治世は、オスマン帝国の拡大が一段落し、内政の安定と文化の発展に力が注がれた時代でした。しかし、サファヴィー朝の台頭や後継者争いなど、新たな問題も生じ、帝国の将来に影を落としました。

年表

1447年 - 誕生
1473年 - バシュケントの戦いで白羊朝と交戦
1481年 - 即位
1485年 - マムルーク朝との戦争を開始
1491年 - マムルーク朝と和約を締結
1492年 - モルダヴィア公国の属国化
1495年 - 弟ジェムの死
1499年 - レパントを制圧
1501年 - バヤズィト・モスクの建設を開始
1506年 - バヤズィト・モスクの完成
1511年 - シャー・クルの反乱
1512年 - クーデターによって廃位、崩御

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