ジェルム川

ジェルム川（ヒュダスペス）

ジェルム川はインド北西部とパキスタン東部を流れる重要な河川であり、５つの川の中でも最西端に位置しています。725kmの長さを持ち、流域面積は約33,700 km²です。この川はパンジャーブ地方を流れ、シェナブ川の支流でもあります。日本語では、ジェールム川やジェーラム川とも呼ばれることがありますが、古くからヒュダスペスとも称されてきました。

語源

ジェルム川の名前の由来には様々な説があります。アンジュム・スルタン・シャウバズの著作『Tareekh-e-Jhelum』では、古代の「Jhelumabad」が語源説の一つとして挙げられています。『Jal（新鮮な水）』と『Ham（雪）』を組み合わせたものであり、ヒマラヤ山脈から流れ出る川の水を意味します。別の説では、ダラ・エ・アザムが川岸に旗を立て「ジャ・エ・アラム」と名付け、それが「ジェルム」に変化したという話があります。

サンスクリット語ではこの川を「ヴィタスタ（Vitasta）」と呼び、古代神話によると、女神パールヴァティーが不純物を浄化するためにセーヴァの槍でこの川を形作ったという伝説が存在します。

歴史

ジェルム川はリグ・ヴェーダでは「ヴィタスタ」として、また古代ギリシアでは「ヒュダスペス」として言及されています。聖典においてこの川は重要な位置を占めており、カシミール語では「Vyeth」として残っています。古代ギリシャでも神聖視されており、ディオニュソスの神話にも登場します。歴史上の重要な出来事では、アレクサンドロス大王が紀元前326年に川を渡り、インド王ポロスと戦ったヒュダスペス河畔の戦いが知られています。

この戦いの後、アレクサンドロスは同地に「ブケパロス」と名付けた都市を建設し、彼の愛馬を記念しました。

現代の利用

現在、ジェルム川の水はインダス水条約に基づいてパキスタン側に配分されています。インドはこの条約を背景に水力発電プロジェクトを進展させており、パキスタンもまた様々な水力発電計画に取り組んでいます。近年、2014年には豪雨による堤防の決壊によってジャンムー・カシミール州で300人以上の死者が出るなど、時には自然災害の影響も懸念されています。

流路と生態系

ジェルム川はカシミール渓谷のピア・パンジャール山脈のベリナグ湖から流れ出し、様々な川や湖と合流しながら進みます。ニラマタ・プナラなどの神話において、この川は神聖視され、周囲の生態系にも豊かな栄養を供給しています。水域には多くの生物が生息しており、ラムサール条約で保護されている地域もあります。ユーラシアカワウソやホシハジロ、アジアコビトウなど実に多様な動植物が見られます。

ダムと運河

インダス盆地計画の成果として、いくつかの水量調整施設が建設されています。中でもマングラダムは1967年に完成した大規模なダムで、最大貯水能力を誇ります。また、いくつかの運河がジェルム川からシェナブ川に接続されており、農業や灌漑においても重要な役割を果たしています。これらの施設は、地域の水資源管理に欠かせないインフラとなっているのです。

ジェルム川はその地理的、歴史的、文化的な重要性から、インドとパキスタンの両国にとって欠かせない存在であり、今後も注目され続けることでしょう。

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