ジギョ

ジギョ（鰣魚）― 幻の魚とその歴史、文化

ジギョ（鰣魚、学名 Tenualosa reevesii）は、中国の河川を遡上することで知られる、ニシン科の回遊魚です。古くから中国で珍重されてきた高級魚であり、その希少性から「幻の魚」とも呼ばれています。本稿では、ジギョの生態、歴史、利用方法、そして近縁種について詳細に解説します。

生態と分布

ジギョは通常、中国沿岸の黄海南部から台湾、フィリピン西部にかけての海域で生活しています。しかし、4～6月になると、長江、銭塘江、閩江、珠江などの河川下流域へ産卵のために遡上します。この季節的な出現から「時魚」とも呼ばれ、古くから人々に注目されてきました。

成魚は体長40～60cm、体重1.3～2kgに達し、最大で60cmを超える個体も存在します。体色は銀灰色で、背側は黒っぽく、腹側は白っぽいのが特徴です。体は細長いひし形に近く、V字型の長い尾鰭を持っています。

産卵期には、一尾で約200万粒もの卵を産みます。卵は1日で孵化し、稚魚は淡水域で数ヶ月間過ごした後、秋に海へ移動します。3年ほどで成魚に成長すると考えられています。

歴史と文化

ジギョは、古代中国の文献にも記録が残されており、古くから珍重されてきたことが分かります。後漢の『説文解字』や『爾雅』にもその記述があり、明代以降は皇帝への献上品としても用いられました。

特に長江流域では、かつては年間数百トンもの漁獲量があり、1974年には1500トンを超えたとも伝えられています。しかし、乱獲が原因で1980年代には年間1トン未満に激減。その希少性から「幻の魚」と呼ばれるようになりました。このため、中国政府は1988年にジギョを国家一級野生保護動物に指定し、現在では捕獲が禁止されています。

南京はかつてジギョの産地として知られ、新鮮なジギョが食されていました。しかし、北京が首都になると、輸送の困難さから腐敗しやすく、「臭魚」と呼ばれることもありました。清代の書籍には、ジギョの産地や調理法に関する詳細な記述が多く見られます。

食文化と調理法

ジギョは4月末から5月頃が旬で、この頃のジギョは脂が乗り、特に美味です。遡上する途中で餌をあまり取らないため、上流になるほど脂が落ちて風味も劣ると言われています。

新鮮なジギョは、鱗を取らずに蒸して食べるのが一般的です。「清蒸鰣魚」と呼ばれるこの料理では、湯で臭みを洗い流し、塩などで下味をつけたジギョにネギなどの薬味を乗せ、蒸した後にタレをかけます。その他、醤油と砂糖を使った煮物や、鍋料理などにも用いられました。鱗を取らないのは、鱗が柔らかく脂が乗っているためですが、旧暦の端午の節句を過ぎると鱗が硬くなり、食することができなくなります。

20世紀には、長江流域の鎮江市から南京市にかけての名物料理として知られていました。現在では捕獲が禁止されているため、中国ではアメリカシャッドを「鰣魚」として販売していますが、量は少なく、高価です。

近縁種

ジギョ(Tenualosa reevesii)は、テヌアロサ属に分類され、世界で5種ほどが知られています。近縁のアロサ属（シャッド）には約20種が報告されており、ジギョはこれらの種の中で最も大きいと言われています。アロサ属にも「鰣」の漢字が使われるため、ジギョを区別して「中華鰣」と呼ぶこともあります。テヌアロサ属の他の種には、タイのプラー・マクパーン、インド洋のイリシ、マレーシアのテルボックなどがあります。また、アロサ属には、アメリカシャッドなど、様々な種が含まれます。

まとめ

ジギョは、その希少性と美味しさから、古くから中国で珍重されてきた魚です。乱獲により激減したものの、中国政府による保護活動により、その資源の回復が期待されています。ジギョの歴史、文化、食文化を知ることは、中国の豊かな食文化の一端に触れることに繋がります。

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