ジャイルズ・ジャイルズ&フリップ

概要

イングランドのロックバンド、ジャイルズ・ジャイルズ&フリップは、1967年8月にドラマーのマイケル・ジャイルズとベーシストのピーター・ジャイルズの兄弟、そしてギタリストのロバート・フリップによって結成されました。彼らの音楽スタイルは、ポップ、サイケデリック・ロック、フォーク、ジャズ、クラシック音楽など、様々なジャンルの要素を巧みに織り交ぜた折衷的なものでした。このグループは、後に革新的なプログレッシブ・ロックバンドとして知られるキング・クリムゾンの直接的な前身として、音楽史において重要な位置を占めています。

結成と活動の黎明期

バンド結成のきっかけは、ジャイルズ兄弟が故郷であるドーセット州ボーンマスで、歌えるキーボード奏者を探すために新聞に掲載した広告でした。この広告に応募してきたのがロバート・フリップです。彼は求めていたキーボード奏者ではなく、歌唱力もありませんでしたが、その卓越したギター演奏能力によってメンバーに迎え入れられました。

1967年末から翌1968年末にかけて、彼らはロンドンのブロンデスベリー・ロードにある家で共同生活を送りながら、集中的に楽曲制作とホームレコーディングを行いました。この初期のデモ録音は、イギリスのデッカ・レコードが新たに設立したレーベル、デラム・レコードとの契約につながる重要な一歩となりました。

レコーディングと商業的な不振

デラム・レコードとの契約後、約3ヶ月の楽曲制作期間を経て、彼らは1968年3月から4月にかけてわずか4日間でアルバムのレコーディングを敢行しました。同年6月28日にはデビュー・シングル「One in a Million / Newly Weds」がリリースされ、続いて9月13日には唯一のオリジナル・アルバム『チアフル・インサニティ・オブ・ジャイルズ・ジャイルズ&フリップ』が発表されました。しかし、このアルバムは商業的には全く成功せず、ロバート・フリップ自身が語るには全世界でわずか600枚しか売れなかったとされ、同年のデラム・レコードにおける最低売上記録となってしまいました。

メンバーの加入と脱退

デビュー・シングル発表に先立つ1968年6月7日、バンドは新たなメンバーを迎え入れました。サクソフォーン、フルート、クラリネットを担当するイアン・マクドナルドと、元フェアポート・コンヴェンションのボーカリスト、ジュディ・ダイブルが加入し、バンドは一時的に5人編成となりました。しかし、ダイブルは翌7月には早くもバンドを離れます。残った4人は、ダイブル脱退後の10月11日にセカンド・シングル「Thursday Morning / Elephant Song」を発表しました。このシングルには、ダイブルの代わりにイアン・マクドナルドがクラリネットとボーカルをオーバーダビングしたバージョンが収録されています。

継続するホームレコーディングと他の活動

バンドはその後もブロンデスベリー・ロードでのホームレコーディングを精力的に続けました。彼らは当時としては高品質な2トラックのRevoxレコーダーを使用し、オーバーダビングを駆使してデモ音源を制作しました。中には、完成したモノラル音源が当時のプロフェッショナルなスタジオ録音に近い優れた音質を持つものもありました。「She Is Loaded」や「Under the Sky」といった楽曲が録音されましたが、デラム・レコードはこれらの音源のリリースを拒否しました。

スタジオ外での活動としては、1968年9月9日にBBCラジオの番組「My Kind of Folk」に出演したシンガーソングライター、アル・スチュワートのバックバンドを務めました。このセッションにはイアン・マクドナルドも参加し、オルガンを演奏しています。合計21分に及ぶこの貴重なセッションの記録は現存しています。

キング・クリムゾンへの移行

商業的な成功が得られない状況下、メンバー構成にも変化が生じました。1968年11月、BBCでのテレビ出演の試写を見た直後、ベーシストのピーター・ジャイルズがバンドからの脱退を表明します。これに対し、ロバート・フリップは故郷の旧知であり、卓越したボーカルとベースの才能を持つグレッグ・レイクを招聘しました。フリップ、マイケル・ジャイルズ、イアン・マクドナルド、そしてグレッグ・レイクという新体制に、マクドナルドの楽曲の作詞を担当していたピート・シンフィールドが合流します。この5人によって、新たなバンド「キング・クリムゾン」が誕生しました。彼らは1969年に歴史的なデビュー・アルバム『クリムゾン・キングの宮殿』を発表し、世界のロックシーンに大きな影響を与えることになります。

その後のメンバーと関連音源

ジャイルズ・ジャイルズ&フリップは短命に終わりましたが、その後のメンバーの活動や関連する音源は、バンドの遺産として現在も注目されています。

1970年、キング・クリムゾンを脱退したマイケル・ジャイルズは、兄ピーターと共にキング・クリムゾンのセカンド・アルバム『ポセイドンのめざめ』にゲスト参加しています。このアルバムに収録された「平和/終章」には、ジャイルズ・ジャイルズ&フリップ時代のホームレコーディング音源「Passages of Time」のメロディの一部が転用されました。
ジュディ・ダイブルは、元ゼムのジャッキー・マッコーリーとデュオ「トレイダー・ホーン（Trader Horne）」を結成しました。また、1976年にリリースされたキング・クリムゾンの編集アルバム『新世代への啓示』には、彼女がボーカルを担当した「風に語りて」の初期バージョンが収録されており、これはイアン・マクドナルドとピート・シンフィールドの共作です。ジュディ・ダイブルは2020年に71歳で、イアン・マクドナルドは2022年に75歳でそれぞれこの世を去りました。
ピーター・ジャイルズは、2001年にジャイルズ・ジャイルズ&フリップ時代の未発表ホームレコーディング音源の編集に携わりました。これらの貴重な音源は、同年LP盤「Metaphormosis」およびCD「The Brondesbury Tapes」として公式にリリースされ、バンドの実像を知る上で重要な資料となっています。

主なメンバー

マイケル・ジャイルズ – ドラム、パーカッション、ボーカル
ピーター・ジャイルズ – ベース、ボーカル
ロバート・フリップ – ギター
イアン・マクドナルド – サクソフォーン、フルート、クラリネット
ジュディ・ダイブル – ボーカル

ディスコグラフィ

アルバム
『チアフル・インサニティ・オブ・ジャイルズ・ジャイルズ&フリップ』 (The Cheerful Insanity of Giles, Giles and Fripp, 1968年)
シングル
"One in a Million / Newly Weds" (1968年)
"Thursday Morning / Elephant Song" (1968年)
コンピレーション・アルバム
Metaphormosis (2001年)
『ザ・ブロンデスベリー・テープス』 (The Brondesbury Tapes, 2001年)
その他
『キング・クリムゾン: 新世代への啓示』 (A Young Person's Guide to King Crimson, 1976年) ※5人編成（ダイブル含む）で制作した「風に語りて」を収録。

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