ジャック・ヴァンス:多彩な才能で異彩を放ったSF作家
ジャック・ヴァンス(
1916年8月28日 -
2013年5月26日)は、
アメリカ合衆国が生んだ、SF、
ファンタジー、そして
推理小説の分野で才能を発揮した作家です。本名をジョン・ホルブルック・ヴァンスといい、
サンフランシスコで生まれました。
カリフォルニア大学を卒業後、船員など様々な職業を経験。1945年に「スリリング・ワンダー」誌でデビューを果たしました。当初、彼の作品は、夫妻作家である
ヘンリー・カットナーと
C・L・ムーアの共作ペンネームの一つと誤解されていましたが、独自の作風で確固たる地位を築き上げました。
ヴァンスの作品の特徴は、異星文明をリアルかつ魅力的に描き出す手腕にあります。その世界観は、読者を魅了し、数々の賞を受賞しました。
ヒューゴー賞、
ネビュラ賞、世界幻想文学大賞、エドガー賞など、その功績は多岐にわたります。
ペンネームを使い分けた多彩な執筆活動
ヴァンスは、本名の他に、Alan Wade、Peter Held、John van See、Jay Kavanseといったペンネームを使い分けました。また、
エラリー・クイーン名義でも
推理小説を執筆するなど、その創作意欲は衰えることを知りませんでした。
主な受賞歴は以下の通りです。
ヒューゴー賞: 「竜を駆る種族」(1963)、「最後の城」(1967)、This is Me, Jack Vance! (Or, More Properly, This is "I") (2010、関連書籍部門)
ネビュラ賞: 「最後の城」(1966)
世界幻想文学大賞: 生涯功労賞(1984)、長編賞Lyonesse: Madouc(1990)
エドガー賞 処女長編賞: 『檻の中の人間』(1961)
* SFWAグランド・マスター賞(1997)
1992年には、
オーランドで開催された
ワールドコンに主賓として招待され、2009年にはニューヨーク・タイムズ・マガジンで「アメリカ文学界でも特筆すべき作家でありながら、過小評価されてきた」と評されました。
波乱万丈な人生と創作の源泉
ヴァンスの祖父は、ゴールドラッシュの少し前に
ミシガン州から
カリフォルニア州に移住。両親の離婚後、幼少期は母方の祖父の農場で過ごしました。この自然豊かな環境が、アウトドアと読書を愛するヴァンスの原点となりました。
経済的な理由で短大を中退し、様々な職を経験した後、
カリフォルニア大学バークレー校に入学。鉱山工学、物理学、新聞学、英文学などを学びました。英文学の授業で初めてSF短編を書いたものの、教授からは否定的な評価を受けました。
真珠湾攻撃の約1カ月前には、ハワイの海軍造船所で電気技師として働いていた時期もありました。
1942年に大学を卒業後、視力障害のため兵役を免除。造船所での勤務を経て、視力検査表を暗記することで船員となり、世界中を旅しました。これらの経験は、ヴァンスの作品に大きな影響を与えています。専業作家となるまでは、船員、整備工、測量士、陶芸家、大工など、様々な職を経験しました。
ジャズを愛し、世界を旅した作家
若い頃から
ジャズを愛好し、
コルネット、
ウクレレ、
カズー、
ハーモニカなどを演奏しました。最初の出版物は、大学の新聞に掲載された
ジャズのレビュー記事でした。音楽もまた、ヴァンスの作品に欠かせない要素の一つです。
1946年にNorma Genevieve Ingoldと結婚。オークランドに家を建て、増改築を繰り返しながら晩年までそこで暮らしました。旅行好きで、世界一周航海を経験。アイルランド、タヒチ、南アフリカ、イタリア、
カシミールなど、様々な場所で数ヶ月を過ごしました。
1940年代後半からプロ作家を目指し、20世紀フォックスのテレビドラマ『キャプテン・ビデオ』の脚本を手がけました。
SF作家の
フランク・ハーバートやポール・アンダースンとは友人であり、共にハウスボートを建造し、川を下る旅に出たこともあります。
1980年代から視力障害に苦しみましたが、パソコンとソフトウェアを活用して執筆活動を続けました。2004年に発表した『Lurulu』を最後の作品と語っていましたが、2009年には自伝を出版し、
ヒューゴー賞を受賞しました。
2013年5月26日、
カリフォルニア州オークランドで96歳で死去。
後世への影響
ジャック・ヴァンスの作品は、マイクル・シェイ、
ジーン・ウルフ、
ダン・シモンズ、ジョン・C・ライトなど、多くの作家に影響を与えました。
ジョージ・R・R・マーティンと
ガードナー・ドゾワは、ヴァンスのトリビュート・アンソロジーを出版しました。テーブルトークRPG「
ダンジョンズ&ドラゴンズ」の魔法体系も、ヴァンスの作品から着想を得ています。
その独創的な世界観と文体は、今もなお多くの読者を魅了し続けています。