ジャンニ・フェッリオ
イタリア・ヴェネト州ヴィチェンツァに生まれたジャンニ・フェッリオ（本名：ジョヴァンニ＝アキッレ・フェッリオ、1924-2013）は、20世紀イタリアを代表する作曲家、指揮者、アレンジャーの一人です。カンツォーネ、映画音楽、ミュージカルなど、多岐にわたるジャンルで優れた作品を生み出し、国際的な成功を収めました。
彼のキャリアは音楽とは異なる道から始まりました。当初は医師を目指してパドヴァ大学で薬学を修めていましたが、音楽への情熱が募り、ヴェネツィアで本格的な音楽教育を受けることを選びます。ヴァイオリンをマリアーノ・フリーゴに、和声、作曲、オーケストラ指揮をアメリーゴ・ジロットやアッリーゴ・ペドロッロに師事しました。1940年代にはすでに指揮者としての活動を開始し、1953年にはミラノのレコード会社に所属。ここでカンツォーネの編曲やオーケストラ指揮の仕事に携わるようになり、その後の幅広い活躍の礎を築きました。
1950年代後半からは作曲家としても精力的に活動を開始します。特にカンツォーネの分野で頭角を現し、1958年に人気歌手テディ・レーノのために作曲した「Piccolissima serenata」が大きなヒットとなりました。1962年には、イタリアを代表するディーヴァ、ミーナ（ミーナ・マッツィーニ）に提供した「Improvvisamente」が成功を収め、以降、フェッリオはミーナから絶大な信頼を得ることになります。彼はミーナのために数多くの楽曲を作曲・編曲し、レコーディングやコンサートではオーケストラの指揮を担当するなど、長年にわたりミーナの音楽活動を多角的に支えました。テレビの音楽番組でも度々ミーナと共演し、視聴者に向けて彼が紹介される場面も見られました。
ミーナとの共同作業の中でも、1972年に発表された「Parole parole」（あまい囁き）は、彼の代表作として世界的な知名度を獲得しました。ミーナの官能的な歌唱と、イタリアの俳優アルベルト・ルーポによる愛の囁きが織りなす独特な演出が話題を呼び、美しいメロディと共に広く受け入れられました。翌1973年には、フランスで国民的な歌手ダリダと俳優アラン・ドロンによってフランス語でカバーされ、「Paroles... paroles....」として発表されます。アラン・ドロンの国際的なスターパワーも相まって、このフランス語版はオリジナル版をも凌ぐ大ヒットとなり、「あまい囁き」は世界中で愛されるスタンダードとなりました。
フェッリオはミーナのほかにも、アンナ・モッフォ、オルネラ・ヴァノーニ、カテリーナ・ヴァレンテ、フレッド・ボングストら多くのイタリア人歌手に楽曲を提供し、彼らの録音や公演をアレンジャーおよび指揮者としてサポートしました。また、アストル・ピアソラ、エリス・レジーナ、トゥーツ・シールマンスといった海外の著名アーティストがイタリアで公演を行う際にも、オーケストラの指揮を務めて協力しています。1970年には、官能的な歌唱スタイルゆえに保守勢力から政治的圧力を受けていた歌手ユーラ・デ・パルマのシスティーナ劇場でのリサイタルを全面的に支援し、楽曲提供と指揮により公演を成功させました。このライブ録音はアルバムとしても発売されています。
国際的な舞台でも活躍し、1965年のユーロビジョン・ソング・コンテストでは音楽監督を担当。オーストリア、アイルランド、イタリア代表歌手の伴奏指揮も務めました。イタリア国内最大の音楽祭であるサンレモ音楽祭にも、アレンジャーや伴奏指揮者として複数回参加しています。
映画音楽の分野でも多大な功績を残しました。1958年から作曲活動を開始し、初期にはイタリアのコメディ俳優が出演する作品の音楽を手掛けました。彼の映画音楽家としての名を決定づけたのは、1965年のマカロニ・ウェスタン映画の傑作『荒野の1ドル銀貨』（監督：ジョルジョ・フェッローニ、主演：ジュリアーノ・ジェンマ）です。この映画の大ヒットと共に、フェッリオの音楽も広く知られるようになりました。主題歌は、彼がフレッド・ボングストに提供したカンツォーネ「君が君でなかったら」をアレンジしたもので、映画の成功によって原曲以上の人気を得ました。翌年、再びフェッローニ監督、ジェンマ主演で製作された『さいはての用心棒』でも音楽を担当し、映画、音楽ともに再び大ヒットを記録。これらの作品を通じて、1960年代の日本でも彼の作曲家としての名声が確立されました。
1970年代前後には、マカロニ・ウェスタンの衰退と入れ替わるように流行したイタリア製スリラー映画、通称ジャッロ作品の音楽を数多く手掛けます。ミーナのスキャットが印象的に使用された『La morte accarezza a mezzanotte』（1972年）の音楽は、このジャンルにおける彼の代表的な仕事の一つです。また、エロティックな題材を扱った映画の音楽でも才能を発揮しました。『エマニエル夫人』原作者エマニュエル・アルサンの小説を基にした『Io, Emmanuelle』（1969年）では、ミーナが歌う主題歌がイタリアで大ヒットし、スタンダードナンバーとなりました。スザンナシリーズと呼ばれる歴史エロティック映画三部作（1967-1969年）に提供した甘美な音楽も知られています。
その他、『かくも長き不在』のアンリ・コルピ監督によるテレビドラマ『ミステリー島探検／地底人間の謎』（1972年）の音楽も担当しました。このドラマの主題曲は、後に歌詞が加えられ、親交の深いミーナによって「Trasparenze」として歌われています。また、イタリア映画界の重鎮エルマンノ・オルミ監督の作品も手掛けましたが、オルミ監督の作風から、これらのサウンドトラックが広く語られる機会は少ないです。
1980年代以降、ポピュラー音楽や映画音楽の作曲活動は以前ほど活発ではなくなりましたが、1990年代に入ると舞台ミュージカルの分野で新たな創作意欲を示しました。特に、ハリウッド映画『ミセス・ダウト』をイタリアでミュージカル化した『...e meno male che c'è Maria』（1999年）は成功を収め、サウンドトラックCDも発売されるほどの好評を得ました。私生活では、2004年に亡くなった盟友ピエロ・ピッチオーニの追悼コンサート（2006年）では、ローマ・シンフォニエッタ管弦楽団を指揮してピッチオーニの楽曲を演奏し、故人に哀悼の意を捧げました。ジャンニ・フェッリオは2013年10月21日、ローマにて88歳でその生涯を閉じました。
彼のキャリアは音楽とは異なる道から始まりました。当初は医師を目指してパドヴァ大学で薬学を修めていましたが、音楽への情熱が募り、ヴェネツィアで本格的な音楽教育を受けることを選びます。ヴァイオリンをマリアーノ・フリーゴに、和声、作曲、オーケストラ指揮をアメリーゴ・ジロットやアッリーゴ・ペドロッロに師事しました。1940年代にはすでに指揮者としての活動を開始し、1953年にはミラノのレコード会社に所属。ここでカンツォーネの編曲やオーケストラ指揮の仕事に携わるようになり、その後の幅広い活躍の礎を築きました。
1950年代後半からは作曲家としても精力的に活動を開始します。特にカンツォーネの分野で頭角を現し、1958年に人気歌手テディ・レーノのために作曲した「Piccolissima serenata」が大きなヒットとなりました。1962年には、イタリアを代表するディーヴァ、ミーナ（ミーナ・マッツィーニ）に提供した「Improvvisamente」が成功を収め、以降、フェッリオはミーナから絶大な信頼を得ることになります。彼はミーナのために数多くの楽曲を作曲・編曲し、レコーディングやコンサートではオーケストラの指揮を担当するなど、長年にわたりミーナの音楽活動を多角的に支えました。テレビの音楽番組でも度々ミーナと共演し、視聴者に向けて彼が紹介される場面も見られました。
ミーナとの共同作業の中でも、1972年に発表された「Parole parole」（あまい囁き）は、彼の代表作として世界的な知名度を獲得しました。ミーナの官能的な歌唱と、イタリアの俳優アルベルト・ルーポによる愛の囁きが織りなす独特な演出が話題を呼び、美しいメロディと共に広く受け入れられました。翌1973年には、フランスで国民的な歌手ダリダと俳優アラン・ドロンによってフランス語でカバーされ、「Paroles... paroles....」として発表されます。アラン・ドロンの国際的なスターパワーも相まって、このフランス語版はオリジナル版をも凌ぐ大ヒットとなり、「あまい囁き」は世界中で愛されるスタンダードとなりました。
フェッリオはミーナのほかにも、アンナ・モッフォ、オルネラ・ヴァノーニ、カテリーナ・ヴァレンテ、フレッド・ボングストら多くのイタリア人歌手に楽曲を提供し、彼らの録音や公演をアレンジャーおよび指揮者としてサポートしました。また、アストル・ピアソラ、エリス・レジーナ、トゥーツ・シールマンスといった海外の著名アーティストがイタリアで公演を行う際にも、オーケストラの指揮を務めて協力しています。1970年には、官能的な歌唱スタイルゆえに保守勢力から政治的圧力を受けていた歌手ユーラ・デ・パルマのシスティーナ劇場でのリサイタルを全面的に支援し、楽曲提供と指揮により公演を成功させました。このライブ録音はアルバムとしても発売されています。
国際的な舞台でも活躍し、1965年のユーロビジョン・ソング・コンテストでは音楽監督を担当。オーストリア、アイルランド、イタリア代表歌手の伴奏指揮も務めました。イタリア国内最大の音楽祭であるサンレモ音楽祭にも、アレンジャーや伴奏指揮者として複数回参加しています。
映画音楽の分野でも多大な功績を残しました。1958年から作曲活動を開始し、初期にはイタリアのコメディ俳優が出演する作品の音楽を手掛けました。彼の映画音楽家としての名を決定づけたのは、1965年のマカロニ・ウェスタン映画の傑作『荒野の1ドル銀貨』（監督：ジョルジョ・フェッローニ、主演：ジュリアーノ・ジェンマ）です。この映画の大ヒットと共に、フェッリオの音楽も広く知られるようになりました。主題歌は、彼がフレッド・ボングストに提供したカンツォーネ「君が君でなかったら」をアレンジしたもので、映画の成功によって原曲以上の人気を得ました。翌年、再びフェッローニ監督、ジェンマ主演で製作された『さいはての用心棒』でも音楽を担当し、映画、音楽ともに再び大ヒットを記録。これらの作品を通じて、1960年代の日本でも彼の作曲家としての名声が確立されました。
1970年代前後には、マカロニ・ウェスタンの衰退と入れ替わるように流行したイタリア製スリラー映画、通称ジャッロ作品の音楽を数多く手掛けます。ミーナのスキャットが印象的に使用された『La morte accarezza a mezzanotte』（1972年）の音楽は、このジャンルにおける彼の代表的な仕事の一つです。また、エロティックな題材を扱った映画の音楽でも才能を発揮しました。『エマニエル夫人』原作者エマニュエル・アルサンの小説を基にした『Io, Emmanuelle』（1969年）では、ミーナが歌う主題歌がイタリアで大ヒットし、スタンダードナンバーとなりました。スザンナシリーズと呼ばれる歴史エロティック映画三部作（1967-1969年）に提供した甘美な音楽も知られています。
その他、『かくも長き不在』のアンリ・コルピ監督によるテレビドラマ『ミステリー島探検／地底人間の謎』（1972年）の音楽も担当しました。このドラマの主題曲は、後に歌詞が加えられ、親交の深いミーナによって「Trasparenze」として歌われています。また、イタリア映画界の重鎮エルマンノ・オルミ監督の作品も手掛けましたが、オルミ監督の作風から、これらのサウンドトラックが広く語られる機会は少ないです。
1980年代以降、ポピュラー音楽や映画音楽の作曲活動は以前ほど活発ではなくなりましたが、1990年代に入ると舞台ミュージカルの分野で新たな創作意欲を示しました。特に、ハリウッド映画『ミセス・ダウト』をイタリアでミュージカル化した『...e meno male che c'è Maria』（1999年）は成功を収め、サウンドトラックCDも発売されるほどの好評を得ました。私生活では、2004年に亡くなった盟友ピエロ・ピッチオーニの追悼コンサート（2006年）では、ローマ・シンフォニエッタ管弦楽団を指揮してピッチオーニの楽曲を演奏し、故人に哀悼の意を捧げました。ジャンニ・フェッリオは2013年10月21日、ローマにて88歳でその生涯を閉じました。
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