ジャンムー・カシミール州

ジャンムー・カシミール州：複雑な歴史と多様な文化の交錯

ジャンムー・カシミール州は、インド最北端に位置していた州であり、その歴史は古く、紀元前からマウリヤ朝、クシャーナ朝など様々な勢力の支配下にありました。ムガル帝国を経てシク王国が成立しますが、1846年のソブラーオンの戦い後、イギリスの支配下に入り、ジャンムー・カシミール藩王国となりました。

1947年、インドとパキスタンの分離独立後、帰属問題をめぐって第一次印パ戦争が勃発。インドへの帰属を表明した藩王でしたが、イスラム教徒が多数派であるこの地は、パキスタンも領有を主張し、現在も中間付近に停戦ラインが引かれたまま、紛争の火種となっています。

この地域は、イスラム教徒が多数派のカシミール渓谷、ヒンドゥー教徒が過半数を占めるジャンムー地域、仏教徒とイスラム教徒がほぼ半数ずつを占めるラダック地域の3つの地域に大きく分かれています。多様な宗教や民族が共存する一方、宗教や民族間の対立も歴史的に続いてきました。

1989年ごろからは、分離独立を目指す武装闘争が活発化し、多数の犠牲者を出しました。この内乱を背景に、州首相を空席とした大統領統治が1990年から1996年まで実施される事態となりました。1999年にはカールギル紛争、2005年には大地震が発生するなど、この地は幾多の困難を経験しています。

2019年、インド政府は憲法第370条に基づくジャンムー・カシミール州の特別自治権を剥奪する大統領令を公布。インターネット通信も制限され、激しい抗議デモが勃発しました。同年8月9日には、ジャンムー・カシミール州再編成法が成立し、ラダック連邦直轄領とジャンムー・カシミール連邦直轄領に分割されました。パキスタンは、この決定を住民の人権侵害として強く非難しました。

これに対し、州側は憲法第370条の撤廃に異議を唱えましたが、2023年12月11日、インド最高裁判所は憲法第370条を一時的な措置と判断し、中央政府の決定を支持。2024年9月30日までに地方選挙を実施するよう命じました。この判決は、この地域の将来に大きな影響を与えるものとなるでしょう。

政治的には、長年に渡り、ファルーク・アブドゥッラー氏やムフティ・モハンマド・サイード氏ら複数の首長が州首相を務めてきましたが、大統領統治期間も存在します。2019年の自治権剥奪決定時、オマル・アブドゥッラー氏やメボーバ・マフティ氏ら、首相経験者を含む政治家たちが拘禁される事態も発生しました。

地理的には、ラダック地方を含む広義のカシミール地方全域を州としていましたが、パキスタンも全域の領有を主張しており、その帰属問題をめぐってインドとパキスタンは度々戦争状態となりました。現在も停戦ラインが引かれ、緊張状態が続いています。州は、ジャンムー地方、カシミール渓谷地方、ラダック地方の3つの地方に分かれていました。主要都市としては、夏季の州都シュリーナガル、冬季の州都ジャンムー、そしてレーなどがあります。

ジャンムー・カシミール州の住民は、多様な民族と宗教で構成されています。カシミール渓谷地域ではムスリムが95％を占め、ジャンムー地域ではヒンドゥー教徒が過半数を占めます。ラダック地域では、仏教徒とムスリムがほぼ半数ずつです。言語は、ウルドゥー語が公用語とされ、ヒンディー語や英語も使用されています。その他、カシミール語、ドーグリー語、パハリ語など様々な言語が話されています。

ジャンムー・カシミール州の歴史は、複雑で、インドとパキスタンの対立、民族・宗教間の緊張、そして政治的な変動に彩られています。その複雑な歴史と多様な文化が織りなすこの地域の未来は、いまだ予断を許さない状況にあります。今後、地方選挙の結果やインド政府の方針によって、この地域の状況は大きく変化していく可能性があります。

もう一度検索