ジャーディン・マセソン

ジャーディン・マセソン：アジアを基盤とする国際コングロマリット

ジャーディン・マセソン・ホールディングスは、香港に本社を置く、イギリス系の国際的な複合企業グループです。登記上の本社はバミューダ諸島にありますが、実質的な拠点は香港にあります。1832年の設立以来、170年以上にわたりアジアを中心に世界中で事業を展開し、その影響力は今日でも健在です。

起源と初期の事業

ジャーディン・マセソンの前身は、イギリス東インド会社をルーツとする貿易商社です。1832年、ウィリアム・ジャーディンとジェームス・マセソンという二人のスコットランド人によって、中国の広州で設立されました。当時の中国は、広東システムという貿易制限下で、西洋の商人に開かれた港は広州のみでした。設立当初の主な業務は、アヘンをインドから中国に密輸し、その代わりに中国から茶をイギリスに輸出することでした。このアヘン貿易は、ジャーディン・マセソンが大きな利益を上げる源泉となりました。

アヘン戦争と香港への移転

1840年、アヘン貿易を巡って清とイギリスの間でアヘン戦争が勃発すると、ジャーディン・マセソンは清でのアヘン密輸の利益を守るためにイギリス本国でロビー活動を展開しました。その結果、イギリスは軍を派遣し、アヘン戦争はイギリスの勝利に終わりました。1842年に締結された南京条約により、香港はイギリス領となり、ジャーディン・マセソンは本社を香港に移転しました。また、この戦争後設立された香港上海銀行（HSBC）は、ジャーディン・マセソンのようなアヘン商人が得た利益を本国へ送金する役割を担いました。

中国での展開

1841年、香港を拠点としたジャーディン・マセソンは、中国各地に拠点を拡大しました。1844年には上海の外灘に本社ビルを建設し、天津にも事務所を開設。海運業や貿易業を通じて中国での事業を拡大しました。しかし、1949年に中華人民共和国が成立すると、中国大陸の拠点はすべて閉鎖され、多大な損失を被りました。その後、中国との貿易再開に向けて尽力し、1972年に外交関係が正常化すると、事業を再開しました。

日本での展開

ジャーディン・マセソンは、日本にも早くから進出していました。1859年には横浜に支店を開設し、西洋の織物や材木などを輸入する一方、日本の絹や石炭などを輸出しました。また、長崎ではトーマス・ブレーク・グラバーが代理店としてグラバー商会を設立し、薩摩藩などの武器購入を支援しました。これらの活動は、日本の近代化に大きく貢献しました。

現在の事業と影響力

現在、ジャーディン・マセソン・グループは、多岐にわたる事業を展開する国際的なコングロマリットとして、香港を中心にアジア、アメリカ、ヨーロッパ、オーストラリア、中東、アフリカの一部で活発に活動しています。主な事業には、小売、不動産、ホテル、自動車、保険などがあり、マンダリン・オリエンタルホテルグループや、ピザハット、ケンタッキーフライドチキンなどの外食産業も傘下に収めています。香港では香港政府に次ぐ雇用数を誇る企業であり、その影響力は非常に大きいといえます。また、香港の街には、ジャーディン・マセソンの社名や創業者にちなんだ地名が数多く残っています。

組織と経営

ジャーディン・マセソンは、創業者のケズウィック一族による家族経営が続いています。1980年代には、李嘉誠による敵対的買収の対象となったこともありましたが、現在は安定した経営体制を築いています。グループの中核となる持株会社はロンドン証券取引所とシンガポール証券取引所に上場しており、複雑な株式持合いによって一族支配を維持しています。

主なグループ企業

ジャーディン・パシフィック
ジャーディン・モーターズ・グループ
ジャーディン・ロイド・トンプソン
ジャーディン・ストラテジック・ホールディングス
ジャーディン・サイクル・アンド・キャリッジ
ジャーディン・シンドラー
ジャーディン・ワンソリューション
ジャーディン・レストラン・グループ
香港ランド
デイリー・ファーム
マンダリン・オリエンタルホテルグループ

ジャーディン・マセソンにちなんだ地名

渣甸橋（Jardine's Bridge）
勿地臣街（Matheson Street）
渣甸街（Jardine's Bazaar）
渣甸坊（Jardine's Crescent）
渣甸山（Jardine's Lookout）
怡和街（Yee Wo Street）

参照

人物

ウィリアム・ジャーディン（創業者）
ジェームス・マセソン（創業者）
ケズウィック・ファミリー（オーナー家）
トーマス・ブレーク・グラバー（長崎代理人）
吉田健三（元横浜支店長）
安田弘(元ジャパン代表取締役会長)
唐廷枢（元買弁）
何東（元総買弁）

建物、支店など

銅鑼湾（払い下げられた土地）
ヌーンデイ・ガン（正午を告げる空砲）
ジャーディン・ハウス（本社）
旧ジャーディン・マセソン商会ビル（旧中国本社）
天津ジャーディン・マセソン商会ビル（旧天津支店）
英一番館（旧横浜支店）
グラバー商会（旧長崎代理店）

歴史

アヘン戦争
壬戌丸（長州藩の軍艦）
チェルスウィック号（長州五傑が乗った船）

その他

フォーチュン・グローバル500社

ジャーディン・マセソンは、アヘン貿易から始まった歴史を持ちながらも、現在では世界的なコングロマリットとして、その影響力を維持しています。その多様な事業展開と、創業家による支配体制は、今もなお注目を集めています。

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