ジュゼッペ・カンビーニ

ジュゼッペ・カンビーニ（Giuseppe Cambini, 1746年頃2月13日 - 1825年 12月19日）は、18世紀後半から19世紀初頭にかけて活動したイタリア出身の作曲家、およびヴァイオリニストです。正式な氏名はジュゼッペ・マリア・ジョアッキーノ・カンビーニといい、主にフランスの首都パリで精力的に作品を発表し、広く名が知られました。

生涯

カンビーニはイタリア北西部の港湾都市、リヴォルノでおよそ1746年に生まれたとされています。彼がどのような経緯で専門的な音楽教育を受けたのかについては詳しい記録がありませんが、フィリッポ・マンフレーディのもとでヴァイオリン演奏と音楽理論を学んだと伝えられています。

1765年頃、カンビーニはヴィオラ奏者として、著名な演奏家たちと共に弦楽四重奏団を結成しました。このアンサンブルには、師であるフィリッポ・マンフレーディに加え、チェロ奏者のルイージ・ボッケリーニ、ヴァイオリニストのピエトロ・ナルディーニといった当時の名手が集結していました。彼らはヨーロッパ各地を巡る演奏旅行を行い、その優れたアンサンブルで高い評判を得ました。

キャリアの初期には予期せぬ困難も経験しました。1770年にはナポリでオペラ作曲家としてデビューを試みましたが、大きな成功には至りませんでした。さらに、アフリカへの船旅の途中で海賊に襲われ、数年間奴隷として捕らえられたという過酷な伝承も残されています。

1773年、カンビーニはフランスのパリへと居を移しました。この地で彼は非常に精力的に作曲活動を行い、短期間に多数の作品を発表しました。その明快で分かりやすい、耳馴染みの良い音楽は当時のパリジャンに熱狂的に受け入れられ、カンビーニはたちまち最も人気の高い作曲家の一人となりました。

フランス革命が勃発し、時代が激動する中、カンビーニは求めに応じて愛国的な内容の楽曲や革命歌などを数多く手掛けました。しかし、こうした時局的な作品は一過性の流行に終わり、次第に彼の音楽への関心は薄れていきました。人気が低迷したカンビーニは、その後、経済的にも恵まれない不遇な晩年を送ったとされます。1800年以降の彼の具体的な生活や活動については、信頼できる資料が極めて少なく、多くが謎に包まれています。

1825年12月29日、カンビーニはパリ近郊のビストルにあった精神科の医療施設でその生涯を終えました。ただし、彼の最期については歴史的な異説も存在します。別の説では、これより早い1818年にすでにオランダで亡くなっていたとする主張もあり、正確な没地と没年には現在でも議論が続いています。

モーツァルトとの関係

1778年、ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトは自身3度目となるパリ滞在を開始しました。この滞在中、モーツァルトは長年続く有名な公開演奏会であるコンセール・スピリチュエルのために、交響曲第31番『パリ』や、オーボエ、クラリネット、ホルン、ファゴットと管弦楽のための協奏交響曲を作曲しました。交響曲は問題なく初演されましたが、協奏交響曲は初演の直前に楽譜が忽然と姿を消すというトラブルに見舞われました。

モーツァルトは1778年5月1日付の父レオポルトへの手紙の中で、この楽譜紛失に言及し、原因がカンビーニによる妨害ではないかとの疑いを抱いていることを記しています。モーツァルトは、自身がカンビーニに対して敬意を示さなかったことや、カンビーニが自身の作品が出版されることを恐れたためではないかと推測していました。

しかし、実際にはカンビーニがモーツァルトの作品を高く評価し、積極的に筆写するなどしていた事実や、カンビーニ自身がモーツァルトへの妨害を明確に否定していたことなどから、彼が楽譜紛失に直接関与した可能性は極めて低いと考えられています。

主要作品

カンビーニは生涯を通じて非常に多作な作曲家でした。彼は13曲のオペラを手掛けたほか、80曲を超える交響曲（協奏交響曲を含む）、149曲の弦楽四重奏曲、110曲の弦楽五重奏曲など、膨大な数の器楽曲や宗教曲を残しています。その総作品数は数知れません。

オペラ作曲家としてキャリアをスタートさせた彼は、声楽作品においても質の高い筆致を見せていますが、今日比較的演奏される機会が多いのは、主に1770年代から1790年代にかけて集中的に書かれた弦楽四重奏曲や弦楽五重奏曲といった室内楽曲です。これらの作品は、分かりやすく流麗な旋律線と、楽器の響きに対する細やかな配慮が特徴とされています。やや職人的な技巧の積み重ねといった側面も見られますが、全体としては洗練された雰囲気と確かな音楽的趣味の良さが魅力となっています。

近年では、ナクソスなどの音楽レーベルから、彼の木管五重奏曲や一部の交響曲などが新たに録音・発売されており、再評価の動きも見られます。

代表的な作品としては以下のようなものが挙げられます（一部）。

オペラ: 『レ・ロマン』（1776）、『ローズとカロマン』（1779）、『スタチュー』（1784）など
交響曲: 交響曲第1番ヘ長調、交響曲第2番ホ短調など
協奏交響曲: 協奏交響曲第5番変ロ長調、協奏交響曲第12番ハ短調など
室内楽曲: 149曲の弦楽四重奏曲、110曲の弦楽五重奏曲、3曲の木管五重奏曲（第1番変ロ長調、第2番ニ短調、第3番ヘ長調）、104曲の三重奏曲、212曲の二重奏曲など

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