ジュネーブ宣言

ジュネーブ宣言：医師の倫理と患者中心医療の進化

ジュネーブ宣言は、世界医師会（WMA）が1948年に制定した、医師の倫理に関する国際的な規範です。ヒポクラテスの誓いの精神を受け継ぎながら、時代に合わせて何度か改訂され、最新の2017年版では、患者の権利と自己決定権を強く意識した内容となっています。

ジュネーブ宣言の歴史と変遷

最初のジュネーブ宣言は、第二次世界大戦後の1948年、第2回世界医師会総会において採択されました。以来、1968年、1984年、1994年、2005年、2006年と改訂を重ね、2017年に現在の版が発表されています。それぞれの改訂において、医療技術や社会状況の変化を反映し、医師の役割や責任、そして患者との関係性のあり方が再定義されてきました。

2017年版：患者中心医療への転換

2017年版における最大の変更点は、患者の「自己決定権（Patient autonomy）」の明確化です。従来、医師が患者を治療の対象として捉える傾向が強かったのに対し、この改訂版では、患者を主体的な医療参加者として位置づけ、患者の意思と権利を尊重することが強く強調されています。

具体的には、患者の意思に基づいた治療計画の立案、インフォームド・コンセントの徹底、患者のプライバシー保護などが、より重要視されるようになりました。また、「ウェルビーイング（well-being）」といった概念も取り入れられ、患者の身体的、精神的、社会的な健康状態の全体的な向上を目指す姿勢が示されています。

2006年版：人道主義と患者の保護

2006年版では、医師の倫理規範として以下の重要な要素が定められています。

全生涯を人道のために捧げること
人道的立場からの医療実践
人命の最大限の尊重
患者の健康を第一に考慮すること
患者の秘密厳守（守秘義務）
患者への差別や偏見をしないこと

注目すべき点は、初期の版にあった「受胎後の生命の尊重」に関する記述が削除されていることです。これは、医療倫理の解釈が時代とともに変化してきたことを示しており、倫理的な課題への柔軟な対応が求められていることを示しています。また、ターミナルケアやQOL（Quality of Life）といった概念がまだ確立していなかった時代のものであるため、これらの要素は含まれていませんでした。

しかし、医師の届出義務に関する規定を見ると、患者の人権保護への意識の高さがうかがえます。例えば、麻薬中毒の患者であっても、医師には警察への通報義務はなく、治療を優先する姿勢が示されています。これは、犯罪者であっても治療を受ける権利を有することを明確に示しています。

ジュネーブ宣言の意義

ジュネーブ宣言は、医師の倫理規範を定めるだけでなく、医療現場における患者中心医療の実践のための指針となっています。医療従事者だけでなく、患者自身もこの宣言の内容を理解することで、より良い医療関係を築き、安全で質の高い医療を受けることができるでしょう。

関連概念

ジュネーブ宣言と関連する重要な概念としては、医療倫理、ニュルンベルク綱領、ヘルシンキ宣言、東京宣言、リスボン宣言、ヒポクラテスの誓い、インフォームド・コンセント、ベルモント・レポートなどが挙げられます。これらの概念を理解することで、医療における倫理的な課題をより深く理解することができます。

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