ジュピターC
ジュピターC（Jupiter-C）は、アメリカ合衆国が1950年代半ばに開発・運用した観測ロケットシリーズです。その主な目的は、大気圏へ再突入する際のノーズコーンの挙動を試験することにありました。1956年から1957年にかけて合計3回、フロリダ州のケープカナベラルから打ち上げられました。
ただし、同じ「ジュピター」の名を冠するものの、後に配備されたジュピター中距離弾道ミサイルとは全く異なる設計のロケットである点には注意が必要です。
ジュピターCは、先行するレッドストーンロケットシリーズの発展型として、アメリカ陸軍弾道ミサイル局で設計されました。開発を主導したのは、高名なロケット技術者であるヴェルナー・フォン・ブラウン博士率いるチームです。
ジュピターCは、改良型のレッドストーンミサイルを第1段とし、その上に2段の固体燃料ロケットを加えた構造となっています。第1段は、レッドストーンの推進剤タンクを約2.4メートル延長することで、より多くの推進剤を搭載可能としました。また、搭載される機器類も、レッドストーンのものより小型軽量化が図られています。
第2段には、サージェントミサイルのロケットモーターを小型化したものが11基束ねられ、環状に配置されました。第3段は、同様に小型化されたサージェントミサイルモーター3基で構成され、第2段の環の内側に収まるように設計されています。これらの上段ロケットは、隔壁やリングによって固定され、円筒形の外装によって覆われていました。
特徴的なのは、この上段部が第1段の機器部に取り付けられた軸を中心に高速回転する構造になっていたことです。玉軸受を介して設置された外装の基部を、2台の電気モーターが毎分450から750回転させました。これは、ロケットモーターの推力にばらつきがあっても、回転によるジャイロ効果で軌道の不均衡を抑制するための工夫でした。この回転は発射前から開始され、第1段の飛行中も維持されました。共振を防ぐため、回転速度は事前に慎重に調整されています。
ジュピターCは打ち上げ台から垂直に発射され、予め設定されたコースを飛行しました。第1段の飛行制御は、ジャイロによる自動制御装置が行い、サーボで制御される動翼とジェット噴流を利用して誘導されました。打ち上げから約157秒後、第1段の燃焼が終了する時点で、機体は水平から約40度傾斜した状態になります。
第1段の燃焼停止後、爆発ボルトによって第1段タンク部が、回転する機器部および上段タブから分離されます。機器部とタブは、機器部の基部に備えられた小型ジェットを噴射することで、徐々に水平へと姿勢を変えていきます。垂直打ち上げから約247秒後、無線信号によって第2段の11基のロケットに点火され、機器部からタブが分離されます。最後に、第3段が点火され、観測ミッションに応じた高度や距離を目指しました。この多段式・回転式の上段システムは、1956年にヴェルナー・フォン・ブラウン博士が提案したオービター計画（人工衛星打ち上げ計画）のために設計されたものであり、上段自体の複雑な誘導装置を不要とする利点がありました。
ジュピターCは、アメリカ合衆国にとって初の人工衛星打ち上げロケットであるジュノーI（Juno I）の基礎となりました。ジュノーIはジュピターCの第3段の上にさらに第4段を加えた構造で、ジュピターCと同じ高さ（約21.2メートル）でしたが、追加された4段目は外装内に隠されていました。ジュノーIは、1958年1月31日にエクスプローラー1号を軌道に投入することに成功し、アメリカ合衆国の宇宙開発の歴史において重要な一歩を記しました。「ジュノー」という名称は、フォン・ブラウン博士が気象観測ロケット「ヴァイキング」から発展したバンガードロケットのように、この機体を兵器ではなく平和目的の人工衛星打ち上げに用いることを願ったことに由来するとされます。ジュピターCとジュノーIはしばしば混同されますが、厳密には異なるロケットです。
エクスプローラー1号打ち上げ時の仕様（積載物空の状態での重量）は以下の通りです。
- 第2段: 約460 kg / 推進剤 約220 kg
- 第3段: 約130 kg / 推進剤 約64 kg
- エンジン: ロケットダイン A-7
- 推力: 370 kN (約83,000 lbf)
- 燃焼時間: 155秒
- 比推力: 230秒
- 推進剤: 酸化剤として液体酸素、燃料として「ヒドラジン」（非対称ジメチルヒドラジン60%、ジエチレントリアミン40%の混合物）
- 推進剤供給: ターボポンプ式
- タービン駆動: 90%過酸化水素を触媒分解した水蒸気
- 第2段:
- エンジン: JPL開発 縮小サージェントロケット 11基
- 推力: 73 kN (約16,500 lbf)
- 燃焼時間: 6.5秒
- 比推力: 216秒
- 推進剤: 固体燃料（硫化アルミニウムと過塩素酸アンモニウム）
- 第3段:
- エンジン: JPL開発 縮小サージェントロケット 3基
- 推力: 24 kN (約4,500 lbf)
- 燃焼時間: 6.5秒
- 比推力: 230秒
- 推進剤: 第2段と同じ固体燃料
ジュピターCは以下の3回の打ち上げを行いました。
ジュピターCは短期間の運用でしたが、大気圏再突入技術の確立に貢献し、後継機であるジュノーIを通じてアメリカの宇宙開発初期における成功に不可欠な役割を果たしました。
ただし、同じ「ジュピター」の名を冠するものの、後に配備されたジュピター中距離弾道ミサイルとは全く異なる設計のロケットである点には注意が必要です。
開発背景と設計
ジュピターCは、先行するレッドストーンロケットシリーズの発展型として、アメリカ陸軍弾道ミサイル局で設計されました。開発を主導したのは、高名なロケット技術者であるヴェルナー・フォン・ブラウン博士率いるチームです。
機体構造
ジュピターCは、改良型のレッドストーンミサイルを第1段とし、その上に2段の固体燃料ロケットを加えた構造となっています。第1段は、レッドストーンの推進剤タンクを約2.4メートル延長することで、より多くの推進剤を搭載可能としました。また、搭載される機器類も、レッドストーンのものより小型軽量化が図られています。
第2段には、サージェントミサイルのロケットモーターを小型化したものが11基束ねられ、環状に配置されました。第3段は、同様に小型化されたサージェントミサイルモーター3基で構成され、第2段の環の内側に収まるように設計されています。これらの上段ロケットは、隔壁やリングによって固定され、円筒形の外装によって覆われていました。
特徴的なのは、この上段部が第1段の機器部に取り付けられた軸を中心に高速回転する構造になっていたことです。玉軸受を介して設置された外装の基部を、2台の電気モーターが毎分450から750回転させました。これは、ロケットモーターの推力にばらつきがあっても、回転によるジャイロ効果で軌道の不均衡を抑制するための工夫でした。この回転は発射前から開始され、第1段の飛行中も維持されました。共振を防ぐため、回転速度は事前に慎重に調整されています。
飛行プロファイル
ジュピターCは打ち上げ台から垂直に発射され、予め設定されたコースを飛行しました。第1段の飛行制御は、ジャイロによる自動制御装置が行い、サーボで制御される動翼とジェット噴流を利用して誘導されました。打ち上げから約157秒後、第1段の燃焼が終了する時点で、機体は水平から約40度傾斜した状態になります。
第1段の燃焼停止後、爆発ボルトによって第1段タンク部が、回転する機器部および上段タブから分離されます。機器部とタブは、機器部の基部に備えられた小型ジェットを噴射することで、徐々に水平へと姿勢を変えていきます。垂直打ち上げから約247秒後、無線信号によって第2段の11基のロケットに点火され、機器部からタブが分離されます。最後に、第3段が点火され、観測ミッションに応じた高度や距離を目指しました。この多段式・回転式の上段システムは、1956年にヴェルナー・フォン・ブラウン博士が提案したオービター計画（人工衛星打ち上げ計画）のために設計されたものであり、上段自体の複雑な誘導装置を不要とする利点がありました。
ジュノーIへの発展
ジュピターCは、アメリカ合衆国にとって初の人工衛星打ち上げロケットであるジュノーI（Juno I）の基礎となりました。ジュノーIはジュピターCの第3段の上にさらに第4段を加えた構造で、ジュピターCと同じ高さ（約21.2メートル）でしたが、追加された4段目は外装内に隠されていました。ジュノーIは、1958年1月31日にエクスプローラー1号を軌道に投入することに成功し、アメリカ合衆国の宇宙開発の歴史において重要な一歩を記しました。「ジュノー」という名称は、フォン・ブラウン博士が気象観測ロケット「ヴァイキング」から発展したバンガードロケットのように、この機体を兵器ではなく平和目的の人工衛星打ち上げに用いることを願ったことに由来するとされます。ジュピターCとジュノーIはしばしば混同されますが、厳密には異なるロケットです。
主要諸元（エクスプローラー1号打ち上げ時の仕様）
エクスプローラー1号打ち上げ時の仕様（積載物空の状態での重量）は以下の通りです。
- - 打ち上げ時総重量: 約29,000 kg / 積載物含む 約4,640 kg
- 第2段: 約460 kg / 推進剤 約220 kg
- 第3段: 約130 kg / 推進剤 約64 kg
- - 推進システム:
- エンジン: ロケットダイン A-7
- 推力: 370 kN (約83,000 lbf)
- 燃焼時間: 155秒
- 比推力: 230秒
- 推進剤: 酸化剤として液体酸素、燃料として「ヒドラジン」（非対称ジメチルヒドラジン60%、ジエチレントリアミン40%の混合物）
- 推進剤供給: ターボポンプ式
- タービン駆動: 90%過酸化水素を触媒分解した水蒸気
- 第2段:
- エンジン: JPL開発 縮小サージェントロケット 11基
- 推力: 73 kN (約16,500 lbf)
- 燃焼時間: 6.5秒
- 比推力: 216秒
- 推進剤: 固体燃料（硫化アルミニウムと過塩素酸アンモニウム）
- 第3段:
- エンジン: JPL開発 縮小サージェントロケット 3基
- 推力: 24 kN (約4,500 lbf)
- 燃焼時間: 6.5秒
- 比推力: 230秒
- 推進剤: 第2段と同じ固体燃料
打ち上げ実績
ジュピターCは以下の3回の打ち上げを行いました。
- - 1956年9月20日: ケープカナベラルから打ち上げ。約39.2 kgのペイロード（14 kgの模擬人工衛星を含む）を搭載し、高度約1,100 km、速度約7 km/s、距離約5,300 kmに到達しました。
- - 1957年5月15日: 約140 kgのジュピターミサイル用アブレーションノーズコーンを搭載して打ち上げ。高度約560 km、距離約1,100 kmに到達しました。
- - 1957年8月8日: 1/3スケールのジュピターミサイル用ノーズコーンを搭載して打ち上げ。高度約460 km、距離約2,140 kmに到達しました。この打ち上げはジュノーI（4段仕様）として行われ、後のエクスプローラー1号打ち上げに繋がる重要なステップとなりました。
ジュピターCは短期間の運用でしたが、大気圏再突入技術の確立に貢献し、後継機であるジュノーIを通じてアメリカの宇宙開発初期における成功に不可欠な役割を果たしました。
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