ジュリー・ペイエット

ジュリー・ペイエット：宇宙飛行士からカナダ総督へ

ジュリー・ペイエット（Julie Payette）は、カナダを代表する宇宙飛行士、エンジニアであり、後に第29代カナダ総督を務めた人物です。彼女の輝かしいキャリアは、宇宙探査への貢献、技術者としての実績、そして総督としての公務を通じて、カナダ社会に大きな影響を与えました。しかし、総督在任中にスタッフへのハラスメント疑惑が浮上し、その職を辞任するという予期せぬ事態も経験しました。

生い立ちと教育

1963年、ペイエットはカナダのケベック州モントリオールで生まれました。地元の小学校、中学校を卒業後、1982年には南ウェールズのアトランティック・カレッジで国際バカロレア資格を取得。その後、1986年にマギル大学で工学の学士号、1990年にはトロント大学で応用科学の修士号を取得し、エンジニアとしての基礎を築きました。

技術者としてのキャリア

ペイエットは、1986年から1988年までIBMでシステムエンジニアとしてキャリアをスタートさせました。1988年から1990年まではトロント大学で大学院生として、コンピュータアーキテクチャの研究に没頭。1991年には、チューリヒにあるIBMの通信部門で客員研究員として1年間研究に従事しました。1992年にカナダへ帰国後は、モントリオールのベル・ノーザン・リサーチで音声研究グループに加わり、コンピュータの音声認識を利用した電話音声の研究に取り組みました。

カナダ宇宙庁（CSA）でのキャリア

1992年6月、ペイエットは5330人の応募者の中から、カナダ宇宙庁（CSA）の宇宙飛行士候補の4人に選ばれました。カナダでの基礎訓練後、国際宇宙ステーションへのカナダの貢献であるロボットシステムへの技術アドバイザーとして活動。1993年には、カナダ宇宙飛行士プログラムの中にHuman-Computer Interaction Groupを創設し、北大西洋条約機構（NATO）では音声プロセスに関する国際研究グループの技術スペシャリストを務めました。宇宙飛行の準備として商業パイロットのライセンスを取得し、120時間以上の飛行を経験。1996年4月には深海ダイビングの資格を得るなど、多岐にわたる訓練を積みました。

1996年8月からは、ジョンソン宇宙センターでミッションスペシャリストとしての訓練を開始。1年間の訓練を終えると、宇宙飛行士室のロボット部門に配属され、1998年春に宇宙飛行士としての最初の訓練を終えました。

宇宙飛行経験

ペイエットは、STS-96とSTS-127の2度の宇宙飛行を経験しています。

STS-96 (1999年5月27日 - 6月6日): スペースシャトル・ディスカバリーに搭乗し、国際宇宙ステーションとのドッキングを成功させました。ペイエットはミッションスペシャリストとして、ステーションのシステムとシャトル・リモート・マニピュレータ・システムの操作を担当。このミッションで地球を153周し、9日19時間13分を宇宙で過ごしました。ペイエットは、国際宇宙ステーションに搭乗した最初のカナダ人となりました。
STS-127 (2009年7月15日 - 7月31日): エンデバーにフライトエンジニアとして搭乗し、再び国際宇宙ステーションを訪問。このミッションでは、2人のカナダ人が宇宙空間で同時に顔を合わせるという初の出来事がありました。

2000年から2007年には、カナダ宇宙庁の宇宙飛行士の主任を務め、STS-114、STS-121ではヒューストンで交信担当員を務めました。

カナダ総督

2017年7月13日、ペイエットはエリザベス2世女王により次期カナダ総督に任命され、同年10月2日に就任しました。しかし、2020年7月に総督スタッフへのハラスメント疑惑が報道され、枢密院事務局が調査を開始。2021年1月21日、ハラスメント疑惑の報告書の発表を前に、総督の辞表を提出しました。カナダ総督がスキャンダルを理由に、後任未決定のまま辞職したのは史上初のことであり、トルドー首相も任命責任を問われました。

人物

ペイエットはフランス系カナダ人であり、フランス語と英語に堪能です。また、スペイン語、ドイツ語、イタリア語、ロシア語も話すことができます。以前は技術者のフランソワ・ブリゼットと結婚していましたが、現在は元カナダ空軍のテストパイロットであるビリー・フリンと結婚しています。2人の息子がいます。モントリオール交響楽団でピアノを弾き、歌を歌うなど、音楽にも造詣が深い人物です。

受章

2000年にはナショナル・オーダー・オブ・ケベックを受勲し、ナイトに叙せられました。2006年11月22日にはアルバータ大学から名誉博士号を贈られ、その他にも合計14個の名誉学位を持っています。2010年のバンクーバーオリンピック開会式では、オリンピック旗の旗手の補助を務めました。同年、カナダ勲章（オフィサー）を受勲。2017年には、カナダ勲章（コンパニオン、チャンセラー及び卓越一等コンパニオン）を受勲しています。

ジュリー・ペイエットのキャリアは、科学技術への情熱、卓越した能力、そして公務への献身によって彩られています。彼女の経験は、多くの人々にインスピレーションを与え続けています。

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