ジョアン3世 (ポルトガル王)

ジョアン3世：敬虔王と呼ばれたポルトガルの君主

ジョアン3世（1502年6月6日 - 1557年6月11日）は、ポルトガル王（在位：1521年 - 1557年）であり、「敬虔王」（O Piedoso）として知られています。彼はマヌエル1世と、カトリック両王の娘であるマリアの間に生まれました。

生涯と業績

1521年に19歳で王位を継承したジョアン3世は、ヨーロッパ諸国との衝突を避けつつ、海外植民地の維持と発展に尽力しました。スペインとは良好な関係を維持し、1529年のサラゴサ条約でモルッカ諸島の領有権を獲得、香辛料貿易を王室の独占事業とすることで莫大な利益を得ました。

インドにも目を向け、ヴァスコ・ダ・ガマを派遣してポルトガル領インドの経営を立て直しました。また、この時期にポルトガル人は日本への進出を開始し、1543年の鉄砲伝来や1549年のフランシスコ・ザビエルの来日を迎えました。1557年には中国の明からマカオを貸借し、ポルトガル海上帝国の版図はモルッカ諸島から日本まで拡大しました。

ブラジルにおいては、フランス人の木材伐採に対抗するため植民を推進し、カピタニア制を導入しましたが失敗。その後、総督による統治に切り替え、イエズス会士の布教活動を支援しました。しかし、奴隷貿易を推進した側面もあります。

宗教政策と文化

ジョアン3世は対抗宗教改革を熱心に推進し、1536年にポルトガル異端審問所を設立しました。また、コインブラ大学を創設し、イエズス会を庇護してポルトガル領内へのキリスト教布教を依頼しました。フランシスコ・ザビエルをインドへ派遣したのも彼の時代です。

治世の光と影

ジョアン3世の治世下でポルトガル初の国勢調査が実施され、人口は約140万人と推定されました。リスボンは富の一極集中により大都市へと発展し、王室の権威は高まりました。海外貿易による莫大な富は、ポルトガルに絶対王政を確立させました。

しかし、異端審問による中産階級の亡命や、植民地への移民増加、香辛料貿易の衰退、制海権維持のための費用など、負の側面も存在しました。貿易による利益の独占は産業育成を阻害し、異端審問所の検閲は文化の発展を妨げました。

死去と後継者

1557年、ジョアン3世は55歳で心臓麻痺により死去しました。後継者には孫のセバスティアン1世が指名されましたが、幼少のためカタリナ王妃とエンリケ王子が摂政を務めました。

家族

1525年に神聖ローマ皇帝カール5世の妹であるカタリナ・デ・アウストリアと結婚し、9人の子をもうけましたが、多くが夭折しました。娘のマリア・マヌエラはスペイン王フェリペ2世の最初の王妃となりました。

ジョアン3世は、ポルトガルの黄金時代を築き上げた一方で、負の遺産も残した複雑な君主でした。

参考文献

イヴァン・クルーラス著、大久保昭男訳『ボルジア家』河出書房新社、1989年。
安部真穏『波乱万丈のポルトガル史』泰流社（泰流選書）、1994年。
合田昌史「海洋帝国の時代」『新版世界各国史16 スペイン・ポルトガル史』収録。立石博高編、山川出版社、2000年。
ウィリアム・バンガート著、上智大学中世思想研究所監修『イエズス会の歴史』原書房、2004年。
* 金七紀男『ポルトガル史（増補新版）』彩流社、2010年。

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