ジョスカン・デ・プレ

盛期ルネサンス時代、フランスを拠点に活動した作曲家であり声楽家、ジョスカン・デ・プレ（Josquin Des Prez）。その音楽は当時のあらゆる作曲技法を統合し、後の世代に大きな影響を与えたと評価されており、存命中から既に名声は確立されていました。本名はジョスカン・ルブロアット（Jossequin Lebloitte）といい、1450年から1455年の間に、現在のフランス北部、サン＝カンタン近郊のエノーで生まれたと考えられています。父はゴサール・ルブロアット、母はジャンヌであったと伝えられています。

彼の少年期や青年期に関する確かな記録は乏しいものの、サン＝カンタンで少年聖歌隊員だったという説があります。同時代の作曲家ロイゼ・コンペールのモテット「Omnium bonorum plena」の中で「Josquin」という名がアントワーヌ・ビュノワやヨハネス・オケゲムといった著名な音楽家たちと共に挙げられていることから、遅くとも1474年以前には、そしておそらく1468年頃には既に音楽界で高く評価されていたことがうかがえます。ヨハネス・オケゲムを深く敬愛しており、その影響は初期作品にも見られます。1497年にオケゲムが亡くなった際には、追悼のために感動的な挽歌「オケゲムの死を悼む挽歌（森のニンフ）」を作曲しています。

ジョスカンの生涯は、フランス王室やイタリアの有力者たちに仕えるという形で、各地を転々としました。1477年 4月には、エクス＝アン＝プロヴァンスを拠点とするアンジュー家のルネ善良王の音楽隊に所属していたことが確認されており、この関係は遅くとも1475年初頭から続いていたと考えられます。ルネ王の死後、その音楽隊はフランス王ルイ11世に引き継がれ、ジョスカンも引き続き奉仕した可能性が高いです。特に、卒中により病床にあったルイ11世が自身の寄進したミサ曲を毎日歌わせるために集めた歌手の中に、ジョスカンがいたと推測されています。彼はモテット「主の憐れみを」によってルイ11世の関心を惹きつけ、王はその歌詞を羊皮紙に書いて部屋に飾らせたと伝えられています。

1483年春には、叔父夫妻から遺贈された土地の所有権を主張するため、コンデ＝シュル＝レスコーに滞在し、その地元の教会からワインを贈られています。長らくジョスカン本人と考えられていた1459年のミラノ大聖堂や1470年代のミラノ公宮廷における同名の人物は、近年の研究により別の人物であったことが明らかになっています。ジョスカン・デ・プレ本人がイタリアに渡ったのは、おそらく1483年または1484年頃です。

イタリアでは、権勢を誇ったアスカニオ・スフォルツァ枢機卿の庇護を受けました。1484年の文書では、自身を枢機卿の「常に陪食に與る友人にして礼拝堂付司祭」と称しています。その後、ミラノ公ジャン・ガレアッツォ・スフォルツァにも仕え、1489年には「公爵の声楽家」として記録されています。さらに、1486年から1495年頃にかけては、ローマ教皇庁礼拝堂付属聖歌隊の一員として活動しました。この時期、彼は教会禄（聖職に伴う収入のある地位）の獲得に熱心になり、訴訟も辞さない姿勢を見せます。いくつかの教会禄を得たものの、実際にそこで勤務したかは不明です。

ローマ滞在中に、ブルゴーニュのフィリップ美公と親交を深めた可能性があり、代表作の一つである「悲しみの聖母（Stabat Mater）」はこの時期に彼に献呈されたと推定されています。一度イタリアを離れた後、1498年または1499年には再びアスカニオ枢機卿のもとに戻った可能性も示唆されています。

1500年から数年間は、フランス王ルイ12世の宮廷楽団で活動しました。報酬の未払いを催促するため「御言葉を思い出したまえ」、約束が守られた感謝を示すため「仁慈をもてあしらいたまえり」といったモテットを作曲したという逸話が残っています。1503年の文書からは、彼がサン＝カンタンの聖堂参事会員であったことが確認できます。音楽的才能がそれほどなかったルイ12世のために、工夫を凝らした楽曲を作曲したという話もあります。

1502年には、イタリアのフェラーラ公エルコレ1世・デステに宮廷楽長として招かれました。後任候補としてハインリヒ・イザークも推挙されていましたが、公爵はジョスカンを選び、1503年春からフェラーラでの活動が始まりました。しかし、その年の夏からフェラーラでペストが流行し、公爵は宮廷を移転せざるを得ませんでした。この疫病の流行が、ジョスカンが約1年後にフェラーラを去った一因と考えられています。フェラーラでは、有名なモテット「憐れみたまえ（Miserere）」を作曲しました。

1504年 5月以降、ジョスカンは故郷に近いコンデ＝シュル＝レスコーのノートルダム教会の首席司祭として晩年を過ごしました。この教会とは1470年代から関係が深く、サン＝カンタンでの地位と交換してこの重要な地位を得たものです。首席司祭として彼は教会と教区の運営を任され、世俗的な権力も行使しました。彼はノートルダム教会の礼拝を充実させ、特に充実した聖歌隊を編成するなど、音楽環境の整備に力を注ぎました。

晩年の記録は少ないものの、1508年には健康であったことが確認されています。また、教会の地位に関する交渉をローマや各地で行っていました。最期の時、コンデの市役人が彼のもとを訪れ、遺産の権利について尋ねると、彼は自身を「Noir Eauwe（黒い水）」の川の向こうから来た「異国人」であり、国境の彼方で生まれたと語ったと記録されています。

ジョスカンは1521年 8月27日にコンデ＝シュル＝レスコーで亡くなりました。遺言により、彼の家屋と土地はノートルダム教会に遺贈され、その収益は彼のための追悼ミサや、聖母マリアの祝日などに「めでたし后妃（Salve Regina）」を歌う費用に充てられました。さらに、祭りの行列が市場を通る際には、彼の家の前で自身が作曲したモテット「主の祈り／アヴェ・マリア」を歌うよう定めています。コンデのノートルダム教会に埋葬されましたが、その墓は1793年に破壊されてしまいました。

ジョスカン・デ・プレの作品は、ミサ曲、モテット、世俗曲など、多岐にわたります。特にミサ曲とモテットは、その革新的な技法と深い表現力で知られています。対位法の巧妙な使用、歌詞の意味を音楽で表現する試み、そして感情豊かな旋律は、ルネサンス音楽の頂点を示すものです。「めでたし海の星」「武装した人」といったミサ曲や、「憐れみたまえ」「悲しみの聖母」といったモテット、「こおろぎはよき歌い手」のような世俗曲など、多くの傑作を生み出しました。彼の音楽はヨーロッパ中に広まり、後の作曲家たちに計り知れない影響を与えました。没後500年以上を経た現在でも、その音楽は多くの人々に愛され続けています。

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