ジョン・エドワード・マッデン

ジョン・エドワード・マッデン：サラブレッドとスタンダードブレッドの両雄を制した男

ジョン・エドワード・マッデン（1856年12月28日 - 1929年11月3日）は、アメリカ競馬史にその名を刻んだ伝説的な人物です。サラブレッドとスタンダードブレッドのオーナーブリーダー、調教師、そして実業家として成功を収め、ケンタッキーダービーとベルモントステークスの優勝馬を5頭も生産するという偉業を達成しました。さらに、アメリカ競馬名誉の殿堂博物館と繋駕速歩競走の殿堂の両方に殿堂入りを果たした唯一の人物としても知られています。

困難な生い立ちと青年時代

ペンシルベニア州ベスレヘムでアイルランド移民の両親のもとに生まれたマッデンは、10歳の時に父親を亡くし、貧しいながらもたくましく生きてきました。製鉄所で働き、時にはプライズファイト（賭けボクシング）にも参加して生計を立てていたと言われています。恵まれた体格と運動能力を生かし、野球や陸上競技にも秀でていたようです。

繋駕速歩競走の世界での成功

16歳頃から繋駕速歩競走に興味を持ったマッデンは、スタンダードブレッドの才能を見抜く優れた眼力を持っていました。実績のない有望な馬を低価格で購入し、徹底した調教で実力馬に育て上げ、高値で売却することで財を築きました。「維持して憤慨するよりも、売って悔やむほうがよい」という信念のもと、着実に資産を増やし、30歳までに15万ドルもの富を築き上げたのです。中には売らずに所有し続け、競走馬として活躍した馬もいました。

サラブレッド競馬への転身とハンバーグの成功

1889年、ケンタッキー州レキシントンに移住したマッデンは、スタンダードブレッドで培った経験と知識を活かし、サラブレッドの世界へ進出します。1896年、彼はエルメンドルフ牧場のエンライト大佐から、扱いにくいことで知られていた馬「ハンバーグ」を1,200ドルで購入しました。しかし、マッデンの卓越した調教によってハンバーグは一変。1897年のグレートイースタンハンデキャップで、2歳馬ながら重ハンデを背負って優勝するという快挙を成し遂げました。ハンバーグは2歳で16戦12勝という驚異的な成績を収め、マッデンに莫大な賞金を獲得させました。

ハンバーグプレイス牧場の設立と繁栄

ハンバーグを40,000ドルで売却したマッデンは、その資金でレキシントンの東にある土地を購入し、「ハンバーグプレイス」と名付けた牧場を設立しました。1897年から1929年に亡くなるまで、ハンバーグプレイスは彼の繁殖活動の中心となりました。ニューヨーク州での競馬禁止という逆境の中でも、積極的に繁殖牝馬や若駒を買い集め、牧場の規模を拡大しました。ハンバーグプレイスからは数多くの名馬が輩出され、そのクラシック競走優勝回数は14回にも上ります。中でも、最初のアメリカ三冠馬であるサーバートンは、マッデンの最大の成功例と言えるでしょう。

独自の競走馬墓地の設立

1908年からは、ハンバーグプレイスの敷地に競走馬専用の墓地を設け、愛馬たちを埋葬しました。この墓地は、アメリカで最も古い競走馬墓地の1つとして知られています。スタンダードブレッドの名馬ナンシーハンクスや、サラブレッドの種牡馬スターシュート、そしてケンタッキーダービー優勝馬プローディトなど、数多くの名馬が眠っています。

調教師としての活躍

マッデンは調教師としても成功を収め、1888年から1912年までの間に8頭のチャンピオンホースを管理しました。1901年から1903年にかけてはアメリカのリーディング調教師にも輝いています。海軍長官でもあったサラブレッド愛好家のウィリアム・コリンズ・ホイットニーを顧客として持ち、多くの馬を売却しています。

晩年と遺産

マッデンは2人の息子に家業を継がせたいと望んでいましたが、息子たちは競馬への関心が薄く、最終的に彼は事業を売却しました。トウモロコシ精製事業に投資して巨額の富を築いたマッデンでしたが、1929年11月、肺炎と心臓発作により急逝しました。

私生活

マッデンの私生活は、決して平坦ではありませんでした。妻との離婚劇や、息子たちの自殺未遂など、様々な困難を経験しています。しかし、その波乱万丈の人生が、彼の強さと成功への執念を際立たせていると言えるでしょう。

マッデンの功績は、アメリカ競馬史に大きな足跡を残しました。彼の優れた眼力、調教技術、そしてビジネスセンスは、後世のホースマンたちに大きな影響を与え続けています。

もう一度検索