ジョー・ジャクソン (野球)

ジョー・ジャクソン

ジョー・ジャクソン（本名：ジョゼフ・ウォーカー・ジャクソン、1887年7月16日 - 1951年12月5日）は、20世紀初頭に活躍したアメリカ合衆国のプロ野球選手。サウスカロライナ州出身の外野手で、「シューレス・ジョー」の愛称で広く知られています。しかし、彼のキャリアは1919年のワールドシリーズにおける八百長事件、いわゆる『ブラックソックス事件』によって暗転。翌年、「アンラッキー・エイト」の一人として永久追放処分を受け、球界から去ることを余儀なくされました。

貧困からの出発

ジャクソンはサウスカロライナ州ピケンズ郡で8人兄妹の長男として生まれました。幼少期に一家はグリーンビルに移り、父は繊維工場で働きました。ジャクソン自身もまた、幼い頃から工場で家計を支えたため、学校に通う機会を得られず、読み書きが全くできませんでした。しかし、工場内の野球チームでプレイするうちに類まれな才能を開花させ、瞬く間に州内でその名を知られる存在となります。

華麗なる打撃、悲劇の始まり

1908年、ジャクソンはマイナーリーグのグリーンビル・スピナーズと契約しプロの道を歩み始めます。ここで打率.346を記録するなど活躍し、フィラデルフィア・アスレチックスにその才能を見出されてメジャー昇格を果たしますが、大都会での生活やチームメイトからのからかいに馴染めず、初期は成績を残せませんでした。

転機が訪れたのは1910年、クリーブランド・ナップス（後のインディアンス）への移籍です。ここでジャクソンは才能を爆発させます。1911年にはレギュラーに定着し、打率.408、233安打、45二塁打、19三塁打、126得点と傑出した成績を記録。打率こそタイ・カッブに阻まれましたが、24歳での4割達成は当時の最年少記録であり、出塁率.468はリーグトップでした。1912年も打率.395でリーグ2位、226安打（カッブと同数）と331塁打でリーグトップ、そしてリーグ新記録となる26三塁打を放つなど、圧倒的な打撃を見せつけました。1913年も打率.373で、197安打、39二塁打、長打率.551、OPS1.011はいずれもリーグ最高という驚異的な成績を残し、MVP投票でもウォルター・ジョンソンに次ぐ2位にランクイン。球界屈指のスラッガーとしての地位を確立しました。

ホワイトソックスでの栄光と疑惑

1915年、ジャクソンはシカゴ・ホワイトソックスへ移籍します。1916年には再び打率.341、202安打、リーグトップの21三塁打を記録するなど活躍。1917年にはチームのワールドシリーズ制覇に貢献しました。

しかし、彼のキャリアに暗い影を落とす出来事が起こります。1919年、チームは2年ぶりにリーグ優勝を果たし、シンシナティ・レッズとのワールドシリーズに進出。このシリーズでジャクソンは打率.375、1本塁打と孤軍奮闘しますが、チームは劣勢を伝えられていたレッズに敗れます。シリーズ開幕前から囁かれていた八百長の噂は、敗戦後に公然のものとなりました。

ブラックソックス事件、そして永久追放

1920年シーズン、ジャクソンは打率.382、キャリアハイの12本塁打、121打点、そしてリーグトップの20三塁打と、素晴らしい成績を残していました。しかし、前年の八百長疑惑は晴れることなくくすぶり続け、ついにシーズン終盤に事件は明るみに出ます。ジャクソンを含む8名の選手がワールドシリーズでの敗退行為に関与したとして告発され、出場停止処分を受けました。主力選手を失ったホワイトソックスは優勝を逃します。

翌1921年8月2日、裁判所は証拠不十分を理由に8人全員に無罪を言い渡します。しかし、その翌日、就任したばかりのコミッショナー、ケネソー・マウンテン・ランディスは、野球界の信頼回復のため、無罪となった8人全員を球界から永久追放するという厳しい裁定を下します。こうして、ジャクソンの輝かしいキャリアは突然幕を閉じました。

追放後の人生と後世への影響

球界を追われたジャクソンは、ジョージア州のセミプロリーグでプレイした後、故郷でバーベキューレストランや酒屋を経営して余生を送りました。1951年、テレビ番組への出演が決まっていた矢先に心臓発作で死去しました。

ジャクソンの生涯、特にブラックソックス事件は、その後も多くの人々を惹きつけました。ウィリアム・パトリック・キンセラの小説『シューレス・ジョー』や、それを基にした映画『フィールド・オブ・ドリームス』、また事件を描いた映画『エイトメン・アウト』などに登場し、伝説化されています。彼のグリーンビルの自宅は現在、記念館として保存・運営されています。

「嘘だと言ってよ、ジョー！」の真相

ブラックソックス事件に関して最も有名なエピソードの一つに、大陪審での証言を終えて裁判所を出たジャクソンに、少年ファンが「Say it ain't so, Joe!（嘘だと言ってよ、ジョー！）」と叫びかけたという話があります。これはジャクソンの八百長への関与を信じたくないファンの心情を表すものとして広く知られていますが、実際にはシカゴ・デイリーニューズ紙の記者が作り上げた話であり、現場にそのような少年はいなかったことが後に明らかになっています。

読み書きができないスラッガー

読み書きが全くできなかったことは、ジャクソンの人物像を語る上で欠かせない側面です。遠征先のレストランでは、メニューが読めないため、どこにでもあるハムエッグを注文するか、周囲の客が注文するのを待って同じものを頼んでいたというエピソードが残されています。また、引退後に酒屋を経営していた際、かつてのライバルであるタイ・カッブが訪れ、自分が誰か覚えているかと尋ねたところ、「分かっているさ。でも、君たちは私のことを忘れたいだろう」と返答したという話も伝わっており、追放処分に対する彼の複雑な思いを示唆しています。

埋もれていた記録

ジャクソンは通算打率.356を記録しており、これはメジャーリーグ史上、タイ・カッブ、ロジャース・ホーンスビーに次ぐ歴代3位の数字です。また、新人時代の1911年に記録した233安打は、長らくロイド・ウェイナーの記録を下回ると考えられていましたが、2001年にMLB機構が新人選手の定義を見直した結果、ジャクソンの記録が新人最多安打であったことが判明しました。この記録は、その後にイチローが更新しています。

ベーブ・ルースがジャクソンを「今まで見た中で最高の打者」と評し、彼のスイングを真似たという話や、「ブラックベッツィ」と名付けた愛用のバットを使い続けたことなど、偉大な打者としての伝説は数多く残されています。その輝かしい記録と、ブラックソックス事件による悲劇的なキャリアの終焉は、今なおメジャーリーグの歴史において特別な存在として語り継がれています。

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