スキッフル

スキッフルは、ジャズやブルース、フォーク、ルーツ・ミュージック、カントリーといった多様な音楽ジャンルに影響を受け、発展した音楽スタイルです。その大きな特徴は、身近にある日用品や手作りの道具を楽器として積極的に用いる点にあります。この音楽は20世紀前半にアメリカ合衆国で誕生しましたが、特に1950年代のイギリスで熱狂的なブームを巻き起こし、後にジャズ、ポップ、ブルース、フォーク、ロックなど、様々な分野で活躍する数多くの著名なミュージシャンが音楽活動を始めるきっかけとなりました。

アメリカでの起源

スキッフルの正確な起源は判然としませんが、一般的には20世紀初頭のアフリカ系アメリカ人の音楽文化にその源流があると考えられています。ニューオーリンズ・ジャズから派生したスタイルだと解釈されることもありますが、この見方には議論の余地があります。むしろ、20世紀初頭のアメリカ南部では、ウォッシュボードやジャグといった日常品を楽器に加えた即興的なジャグ・バンドによるブルースやジャズの演奏が広く行われており、スキッフルもそうした流れを汲む音楽スタイルと見なすのが自然かもしれません。

スキッフルの演奏には、アコースティック・ギターやバンジョーといった一般的な楽器に加え、ユニークな道具が使われました。例えば、洗濯板（ウォッシュボード）、水差し（ジャグ）、洗濯桶や茶箱で作ったベース（ウォッシュタブ・ベースやティーチェスト・ベース）、煙草箱などを再利用したギター（シガーボックス・ギター）、さらにはミュージックソー（のこぎり）や、櫛に紙を巻いて音を出すカズーなどが用いられました。

「スキッフル (skiffle)」という言葉自体は、もともと家賃を稼ぐ目的で少額の入場料を取って開かれたパーティー、いわゆるレント・パーティーを指すスラングの一つだったと言われています。音楽のスタイルを指す言葉として「スキッフル」が初めて録音に使われたのは、1920年代のシカゴにおいてでした。南部から北部の産業都市へ移住したアフリカ系アメリカ人によって持ち込まれたものと考えられています。1925年には、ジミー・オブライアントとそのシカゴ・スキッフラーズがこの言葉をレコードタイトルに冠しています。また、この言葉はカントリー・ブルースを表現する際にもしばしば用いられ、マ・レイニーのようなアーティストも自身のレパートリーを田舎の聴衆に説明する際に使っていたとされます。しかし、1940年代以降、アメリカ国内で「スキッフル」という言葉が音楽ジャンルを指して使われることは少なくなっていきました。

イギリスでの熱狂的ブーム

アメリカで一度廃れたかに見えたスキッフルですが、1950年代のイギリスでのリバイバル、特にロニー・ドネガンの成功がなければ、今日ほど知られることはなかったかもしれません。イギリスにおけるスキッフル・ブームは、スウィング・ジャズからトラディショナル・ジャズへと重心が移りつつあった戦後のブリティッシュ・ジャズ・シーンから生まれました。ケン・コリア率いるバンド、ケン・コリアズ・ジャズメンのバンジョー奏者だったドネガンが、ジャズ演奏の合間にスキッフルを披露したのが始まりです。ドネガンはギターとボーカルを担当し、他のメンバーがウォッシュボードとティーチェスト・ベースで伴奏するのが定番でした。彼らは、アメリカのフォークやブルース、特に伝説的なミュージシャン、レッドベリーの楽曲を、アメリカのジャグ・バンドを彷彿とさせる陽気なスタイルで演奏しました。当初、この休憩時間の演奏はポスターに「スキッフル」と表示されましたが、これはケン・コリアの兄弟がかつて聞いたダン・バーレー・スキッフル・グループを思い出して提案した名称でした。やがて、この「スキッフル」演奏は、メインのトラッド・ジャズ演奏と同じくらい人気を博すようになります。

1954年、バンド内の意見対立からケン・コリアが脱退し、残ったメンバーはクリス・バーバーを中心にクリス・バーバーズ・ジャズ・バンドとして再出発します。イギリスでのスキッフルの初録音は1954年にコリアの新バンドによって行われましたが、スキッフルの運命を決定的に変えたのは、1955年末にバーバーズ・ジャズ・バンドが「ザ・ロニー・ドネガン・スキッフル・グループ」名義でリリースした2曲でした。レッドベリーの楽曲をアップテンポにアレンジしたドネガンの「ロック・アイランド・ライン」は、B面の「ジョン・ヘンリー」と共に1956年に大ヒットを記録します。このシングルは8ヶ月もの間全英チャートのトップ20に留まり、最高6位（米国でも8位）を獲得。イギリスで初めてデビュー盤がゴールドディスクに認定され、全世界で100万枚以上を売り上げました。

このシングルの歴史的な成功と、高価な楽器や高度な演奏技術を必要としないスキッフルの手軽さが、イギリス全国にブームを巻き起こす大きな要因となりました。ブーム期にはチャス・マクデヴィット・グループ、ジョニー・ダンカン・アンド・ザ・ブルーグラス・ボーイズ、ザ・ヴァイパーズなど、チャートで成功を収めるスキッフル・グループも多数現れました。しかし、このブームが最も大きな影響を与えたのは、草の根のアマチュア音楽活動としての側面でした。特に労働者階級の若者たちは、楽器を安価に入手したり、身の回りにあるもので手作りしたりして、戦後の質素な生活への反動からスキッフルに熱中しました。1957年に始まったBBCテレビの若者向け音楽番組『シックス＝ファイブ・スペシャル』は、スキッフルの曲を主題歌にし、多くのグループを紹介するショーケースとなり、ブームは頂点に達したと言えるでしょう。

広がりと終焉、そして後世への影響

一説によれば、1950年代末のイギリスには3万から5万組ものスキッフル・グループが存在したと推定されています。ギターの販売数は急増し、多くの若者が即席のベースやパーカッションを手にし、教会のホールやカフェなど、あらゆる場所で気軽に演奏を楽しみました。音楽的な完成度や高度な演奏技術よりも、楽しむこと自体が重視されました。

このスキッフルの熱狂は、後のブリティッシュ・ロックやポップス・シーンに多大な影響を与えました。多くのイギリス人ミュージシャンがスキッフルでキャリアをスタートさせ、それぞれの分野で成功を収めています。そのリストには、ヴァン・モリソン、アレクシス・コーナー、ロニー・ウッド、アレックス・ハーヴェイ、ミック・ジャガー、マーティン・カーシー、ジョン・レンボーン、アシュレー・ハッチングス、ロジャー・ダルトリー、ジミー・ペイジ、リッチー・ブラックモア、ロビン・トロワー、デイヴ・ギルモア、ホリーズのグラハム・ナッシュとアラン・クラークといった錚々たる面々が含まれます。中でも最も有名なのは、ジョン・レノン、ポール・マッカートニー、ジョージ・ハリスンという、後に世界を席巻するザ・ビートルズの中心メンバーが在籍していたザ・クオリーメンでしょう。

ロニー・ドネガンはクリス・バーバーと袂を分かった後も、「カンバーランド・ギャップ」(1957年)、「ダズ・ユア・チューインガム・ルーズ・イッツ・フレイヴァー」(1958年)といったヒット曲を出し続けました。しかし、1950年代末になると、トミー・スティール、クリフ・リチャードとザ・シャドウズといったイギリス出身のスターを擁するロックンロール・シーンが登場し、ブリティッシュ・ロックの夜明けが訪れます。これにより、チャートを賑わせるスキッフル奏者はドネガン一人となり、彼自身も次第に時代の流れに取り残されていきました。1958年頃には、スキッフルのブームはほぼ終息に向かいます。多くのスキッフル・プレイヤーは音楽活動を辞めるか、フォーク、ブルース、ロックンロールといった別の音楽ジャンルへと移行していきました。

ドネガンは2002年に亡くなるまで演奏活動を続けました。現代においても、ザ・アグリー・ドッグ・スキッフル・コンボやザ・ロンドン・フィルハーモニック・スキッフル・オーケストラのようにスキッフルのスタイルを継承する若いバンドや、かつてスキッフルを演奏したアーティストによる再結成などが見られます。しかし、かつてイギリス中を熱狂させたような規模でのリバイバルには至っていません。それでも、スキッフルが多くの若者に音楽を始めるきっかけを与え、後の音楽シーンに計り知れない影響を与えた事実は、今も色褪せていません。

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