ウィレム・ルスカ

ウィレム・ルスカ：柔道界の伝説、そしてプロレスへの挑戦

ウィレム・ルスカ（Willem Ruska、1940年8月29日 - 2015年2月14日）は、オランダが生んだ伝説的な柔道家であり、後にプロレスラーとしてもその名を刻みました。アムステルダムで生まれたルスカは、1972年のミュンヘンオリンピックにおいて、柔道男子の重量級と無差別級という二つの階級で金メダルを獲得。これはオリンピック史上、同一大会で2階級を制覇した唯一の柔道家という偉業です。

柔道家としての輝かしいキャリア

190cmの長身と恵まれた体格を生かし、20歳で柔道選手としてのキャリアをスタートさせたルスカ。オランダ海軍水兵時代に柔道と出会い、その後日本に渡って日本人師範に師事しました。1960年代半ばには、同じくオランダの柔道家であるアントン・ヘーシンクと国内でしのぎを削るほどの強豪選手へと成長を遂げました。特筆すべきはその天賦の才であり、巨木を軽々と担ぎ上げるほどのパワーの持ち主でした。科学的な検査の結果、彼の体力・運動能力はあらゆる指標において傑出した数値を示したと言われています。

1972年のミュンヘンオリンピックでは、並み居る大型選手を相手に、重量級と無差別級の両方で頂点に立ちました。無差別級では、一度はソ連のビタリー・クズネツォフに敗れるも、敗者復活戦を勝ち抜き、決勝で見事リベンジを果たしました。この大会に向けて、ルスカは直前に3度来日し、岡野功が主催する正気塾で徹底的な稽古を積みました。表彰台に正気塾のトレーニングジャージを着て上がった姿は、彼の努力と日本の柔道界への敬意を示すものでした。ルスカの試合スタイルは、ポイントを優先するのではなく、常に一本を取りに行く、正面からの力強いものでした。

プロレスへの転身とアントニオ猪木との対戦

柔道からの引退後、ルスカはプロレスラーへと転身し、新日本プロレスに参戦しました。1976年2月6日には、日本武道館でアントニオ猪木との異種格闘技戦に挑み、「格闘技世界一決定戦」として大きな注目を集めました。試合では猪木を追い詰める場面も見られましたが、最後は猪木のバックドロップ3連発に屈し、TKO負けを喫しました。しかし、その実力は柔道関係者からも高く評価され、松下三郎や猪熊功といった柔道家たちは「ルスカの技ははるかに上だ」と語ったと伝えられています。その後もルスカはプロレスラーとして活動を続け、アンドレ・ザ・ジャイアント、タイガー・ジェット・シン、スタン・ハンセンといった強豪レスラーたちと対戦しましたが、プロレスへの適応に苦しみ、その才能を十分に発揮することはできませんでした。

長いブランクを経て、1994年9月23日に横浜アリーナで猪木との再戦が実現しました。鍛え上げられた肉体を披露したものの、チョークスリーパーで再び敗北を喫しました。同年には平成維震軍の興行にも参加し、後藤達俊を裸絞めで下しています。

人柄と晩年

ミスター高橋は、ルスカを「自分が見てきた中で最も強い男」と評しています。しかし、ルスカ自身は、観客を意識したアピールや自己主張が苦手で、それがプロレスラーとしての成功を妨げた要因の一つであるとも分析されています。

2001年、ヨットに乗船中に脳出血を発症し、言語障害と身体の麻痺が残りました。14年間の車椅子生活を送った後、2015年2月14日に74歳で生涯を閉じました。ウィレム・ルスカは、その圧倒的な実力と誠実な人柄で、柔道界、そしてプロレス界に大きな足跡を残しました。

主な戦績

1963年 - ドイツ国際 - 重量級 優勝、無差別 優勝
1964年 - ドイツ国際 - 無差別 優勝
1965年 - ヨーロッパ選手権 - 重量級 3位、無差別 2位
1965年 - ドイツ国際 - 無差別 優勝
1966年 - ヨーロッパ選手権 - 優勝
1966年 - ドイツ国際 - 無差別 優勝
1967年 - ヨーロッパ選手権 - 重量級 優勝、無差別 3位
1967年 - 世界選手権 - 優勝
1969年 - ヨーロッパ選手権 - 重量級 優勝、無差別 優勝
1969年 - 世界選手権 - 無差別 2位
1970年 - ヨーロッパ選手権 - 2位、無差別 2位
1971年 - フランス国際 - 優勝
1971年 - ヨーロッパ選手権 - 優勝
1971年 - 世界選手権 - 優勝
1972年 - ヨーロッパ選手権 - 重量級 優勝、無差別 優勝
1972年 - ミュンヘンオリンピック - 重量級 優勝、無差別 優勝

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