スピロヘータ門

スピロヘータとは

スピロヘータ（Spirochaetes）は、らせん状の形態をしたグラム陰性の細菌の一群です。その名前は、「コイル状の髪」を意味するギリシア語に由来します。他の細菌とは異なり、菌体の最外側にエンベロープと呼ばれる被膜構造を持ち、鞭毛を覆っています。この構造と鞭毛の働きにより、菌体をくねらせたり、コルク抜きのように回転しながら運動します。

分類

細菌の形態には、球菌や桿菌の他に、らせん形のらせん菌があります。らせん菌は、その回転数によって分類されますが、スピロヘータは一般的に回転数の多いものを指します。以前は別の微生物と考えられていましたが、研究により細菌の一グループであることが判明しました。

スピロヘータ門は独立した門として扱われ、スピロヘータ綱、スピロヘータ目、スピロヘータ科、スピロヘータ属という分類が存在します。ただし、分類はまだ整理の途上にあり、今後変更される可能性があります。

スピロヘータ門の分類
Spirochaetes（スピロヘータ門）
Spirochaetes（スピロヘータ綱）
Spirochaetales（スピロヘータ目）
Spirochaetaceae（スピロヘータ科）
Alkalispirochaeta
Spirochaeta（スピロヘータ属）
Clevelandina
Diplocalyx
Hollandina
Oceanispirochaeta
Pillotina
Pleomorphochaeta
Rectinema
Salinispira
Sphaerochaeta
Treponema（トレポネーマ属）: 梅毒トレポネーマなど
Borreliaceae（ボッレリア科）
Cristipira
Borrelia（ボレリア属）: 回帰熱ボレリア、ライム病ボレリアなど
Borreliella
Brachyspirales（ブラキュスピラ目）
Brachyspiraceae（ブラキュスピラ科）
Brachyspira
Serpulina（セルプリナ属）: 豚赤痢菌など
Leptospirales（レプトスピラ目）
Leptospiraceae（レプトスピラ科）
Leptonema
Leptospira（レプトスピラ属）: ワイル病レプトスピラ、秋疫レプトスピラなど
Turneriella
Brevinemataceae（ブレウィネマ科）
Brevinema
所属科不明
Exilispira

細菌学的特徴

スピロヘータはグラム陰性のらせん菌で、科や属ごとにらせん形態が異なります。一般的には細長い菌体がらせん状になっています。スピロヘータ科、セルプリナ科、レプトスピラ科などがあり、それぞれ特徴的な構造と運動性を持っています。

スピロヘータは、細胞体、鞭毛、エンベロープという3つの基本構造から構成されています。鞭毛は菌体の両端から伸びており、菌体がらせん状に巻き付くように配置されています。エンベロープは、これらの構造を覆う被膜です。この構造により、スピロヘータは粘稠な溶液中でも運動することができます。

昆虫の共生体

スピロヘータは、ゴキブリやシロアリの腸内にも生息しています。これらの昆虫は、難分解性の食物を摂取するため、微生物との共生系を発達させています。スピロヘータの機能はまだ十分に解明されていませんが、宿主の栄養摂取やエネルギー産生に関わっている可能性が指摘されています。

ムカシシロアリの腸内には、Mixotricha paradoxaという原生動物が共生しており、その表面に多数のスピロヘータが付着しています。これらのスピロヘータは繊毛のような運動を行い、原生動物の運動を助けています。この現象は、細胞内共生説のヒントになったとも言われています。

歴史

スピロヘータは、レーウェンフックによって最初に観察された微生物の一つです。1835年にエーレンベルグがスピロヘータと命名しました。病原性のスピロヘータとしては、1873年にオーバーマイヤーが回帰熱ボレリアを同定しました。

関連疾患

スピロヘータの感染によって引き起こされる病気には、梅毒、回帰熱、ライム病、レプトスピラ症などがあります。これらの疾患の治療には、ペニシリンGなどの抗生物質が用いられます。

スピロヘータが原因の疾患
梅毒（Treponema pallidum）
回帰熱（Borrelia recurrentisなど）
ライム病（Borrelia burgdorferiなど）
* レプトスピラ症（Leptospira interrogansなど）

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