スペースX CRS-21

SpaceX CRS-21

「Spx-21」としても知られるスペースX CRS-21ミッションは、2020年12月6日に国際宇宙ステーション（ISS）へ物資を届ける商業補給サービス（CRS）の一環として実施されました。これは、宇宙開発企業スペースXがアメリカ航空宇宙局（NASA）との契約に基づき、新型の輸送機「カーゴドラゴン」を用いて遂行したものです。特に重要なのは、2016年1月に締結されたNASAのCRSフェイズ2契約の下で、スペースXが初めて行った飛行であったという点です。

このミッションには、いくつかの歴史的な側面がありました。まず、新しい「ドラゴン2型」の設計に基づく初のカーゴドラゴンとしての飛行でした。また、このミッションで使用されたカーゴドラゴンは、同時期にISSにドッキングしていたクルー輸送用の「クルードラゴン宇宙船」（スペースX Crew-1）と並んで係留された初の事例となりました。さらに、打ち上げに使用されたブースター（B1058.4）は、過去にNASA以外のミッションで一度使用されたものを再利用したものであり、これはNASAのミッションにおいてスペースXが再利用ブースターを用いた初めてのケースとなりました。

カーゴドラゴンと再利用技術

スペースXは、新型のカーゴドラゴン宇宙船を最大5回再利用することを計画しています。このカーゴドラゴンは、宇宙飛行士の搭乗を想定していないため、クルードラゴンに必要な緊急脱出用のスーパー・ドラコエンジン、座席、操縦装置、生命維持システムなどは搭載されていません。ドラゴン2設計は、従来のドラゴン1と比較して、機体の再整備にかかる時間を大幅に短縮し、より短い間隔での飛行を可能にする改良が加えられています。CRS-21ミッションは標準的な約30日間の滞在でしたが、今後のスペースXによる補給ミッションでは、ISSへの滞在期間が60日以上に延長されることが示されています。スペースXの関係者によると、新しいカーゴドラゴンは最大75日間ISSに滞在できる能力を持っています。

ミッションの内容とタイムライン

CRS-21ミッションの主要なタイムラインは以下の通りです。

離昇
最大動圧点の通過
第1段エンジンの停止（MECO）と分離
第2段エンジンの始動（SECO）
第1段ブースターの無人船への着艦
第2段エンジンの停止
ドラゴン宇宙船の分離
ドラゴンのノーズコーン展開開始

輸送された貨物

NASAはCRS-21ミッションの契約に基づき、カーゴドラゴンの主要なペイロード、打ち上げ日時、軌道パラメータを決定しました。このミッションでISSへ輸送された貨物の総重量は2,972 kgでした。その内訳は以下の通りです。

科学調査関連機材: 953 kg
宇宙船ハードウェア: 317 kg
乗組員用補給品: 364 kg
船外活動用装備: 120 kg
コンピューター関連資材: 46 kg
ロシア製ハードウェア: 24 kg
外部貨物（ナノラックス・ビショップ・エアロック）: 1,380 kg

特筆すべき外部貨物である「ナノラックス・ビショップ・エアロック」は、ISSのトランクウィリティーモジュールに新設された貨物用のエアロックです。これはナノラックス社によって商業的に開発・運用されています。ビショップ・エアロックの設置により、ISSからの小型衛星放出能力は大幅に向上し、日本の「きぼう」モジュールのエアロックのみを使用していた時期に比べて約5倍の能力を提供するとされています。このモジュールはナノラックスが主契約者となり、タレス・アレーニア・スペースが与圧構造を、ボーイングが係留機構を担当しました。2020年12月19日にカナダアーム2ロボットアームを使用してトランクウィリティーモジュールに係留されました。これは、2016年に取り付けられたビゲロー拡張式活動モジュール（BEAM）に続く、ISSにとって2番目の商用モジュールとなります。

実施された主な科学実験

CRS-21ミッションでは、ISSで様々な科学研究が行われました。主要な実験の一部を以下に示します。

BioAsteroid: 小惑星、月、火星などでの岩石採掘に必要なインフラやツールの試験。将来の人類による玄武岩採掘を見据えた研究です。
Hemocue: 月や火星といった惑星表面の重力下で開発された白血球検査システムを、微小重力環境でテストしました。
脳オルガノイド実験: ヒトの脳の初期発達や微小重力下での変化を研究し、神経性疾患への理解やより精緻なモデル構築を目指す実験。過去の実験の検証と継続が行われました。
Cardinal Heart: ヒト心臓組織の細胞（心筋細胞）が微小重力環境にどのように反応するかを研究する、以前の実験の継続です。
Subsa-Brains: 微小隕石や宇宙ゴミが引き起こす影響と損傷を研究し、微小重力環境下でもろう付けによる修理が可能かを検証しました。
3次元微生物モニタリング（3DMM）: ISS内の様々な場所における細菌や代謝物の分布を3Dマップ化し、宇宙環境がこれらの微生物に与える影響を明らかにしました。
微小重力下でのモノクロナール結晶研究（MCRM）: 製薬企業ブリストル・マイヤーズ スクイブによる、モノクローナル抗体の宇宙での結晶化実験。地上での医薬品処方や投与方法の改善を目的としています。
Rodent Research-23（RR-23）: 宇宙飛行が齧歯類の目に与える影響、特に視力維持に関わる血管の構造と機能変化を調べました。
学生宇宙飛行実験計画（SSEP）: 学生が考案した27件の実験が実施され、宇宙環境が微生物と鉱物の相互作用に与える影響などが研究されました。

地球への帰還と帰還貨物

ミッションを終えたカーゴドラゴンは、約2,002 kgの貨物を搭載して地球へ帰還しました。NASAの契約に基づき、ISSから地球へ戻される貨物には、診断や修理、改修が必要な機器、あるいは不要になった使用済みハードウェアが含まれます。

主な帰還貨物は以下の通りです。

トレッドミル・データ・アビオニクス・ユニット: 故障したISSのトレッドミル関連電子機器。軌道上で予備品と交換された後、地上での評価のために戻されました。
二酸化炭素除去アセンブリー（CDRA）のエア・セレクター・バルブ: ISSの生命維持システムの一部である劣化したバルブ。地上での修理・回収が目的です。
窒素酸素再充填システム（NORS）のタンク: 軌道上で使用済みの酸素・窒素タンク。将来のミッションでの再利用のために回収されました。
齧歯類研究用飼育器及び運搬器: RR-23実験で使用された、生きた齧歯類を含む飼育器と運搬器。将来の研究や分析に利用されます。
ISSのマイナス80℃実験室冷凍庫（MELFI）の電子回路ユニット: 故障した低温実験装置の電子回路。将来の極低温ミッションを可能にするため、地上で修理されます。
サーマルアミン・バルク節水バルブ: 故障したバルブ。サーマルアミンシステムの効率化をサポートするもので、オリオン宇宙船の同様の設計の堅牢性確認にも役立ちます。

カーゴドラゴンは、再突入経路に入る前に、2021年1月12日14時05分（協定世界時）にISSから自動的にドッキング解除されました。これは、スペースXのドラゴン2型宇宙船がISSからドッキング解除し、大気圏再突入を経て海上着水に成功した最初の事例となります。2021年1月14日01時26分（協定世界時）には、フロリダ州タンパ西方のメキシコ湾にパラシュートを用いて無事着水しました。

CRS-21ミッションは、新型カーゴドラゴンの能力、再利用技術の進展、そして商業宇宙輸送がISSへの補給において担う役割の拡大を示す、重要な一歩となりました。特に、ペイロードとして商業用エアロックを運搬したことや、ISSに同時に2機のドラゴン宇宙船がドッキングしたことは、宇宙における商業活動の多様化と連携の深化を示す出来事と言えます。

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