スペースX CRS-28

スペースX CRS-28ミッションは、2023年6月5日に実施された国際宇宙ステーション（ISS）への商業補給サービスです。これは「SpX-28」とも称され、アメリカ航空宇宙局（NASA）からの委託を受け、スペースX社が「カーゴドラゴンC208」宇宙船を用いて遂行しました。本ミッションは、NASAの商業補給サービス（CRS）フェーズ2計画において、スペースXが運行した8回目の飛行にあたります。

宇宙船「カーゴドラゴン」

本ミッションに使用されたのは、スペースXが開発した貨物輸送専用の宇宙船「カーゴドラゴン」です。この改良型カプセルは、将来的に最大5回までの再利用を目指して設計されています。宇宙飛行士の安全確保に必要なスーパー・ドラコ緊急脱出エンジン、座席、操縦装置、生命維持装置といった機器は搭載されておらず、純粋に貨物輸送に特化しています。ドラゴン宇宙船は、初期型のドラゴン1に比べて改修時間の短縮や飛行間隔の短縮など、運用効率を高めるための様々な改良が施されています。NASAとのCRSフェーズ2契約に基づき運用される新型カーゴドラゴンカプセルは、ミッション完了後に地球へ帰還し、フロリダ州東方の大西洋に着水する計画です。

主要ペイロードと貨物

CRS-28ミッションの積荷の内容、打ち上げ日時、軌道パラメータは、NASAによって決定されました。このミッションでは、総計3,304 kg（約7,284ポンド）の貨物がISSへ届けられました。これは、与圧された船内貨物1,964 kg（約4,330ポンド）と、非与圧の貨物1,340 kg（約2,950ポンド）の合計です。積荷の内訳は以下の通りです。

科学調査関連機器・試料：266 kg（約586ポンド）
宇宙ステーションのハードウェア：491 kg（約1,082ポンド）
乗組員用の補給物資：1,098 kg（約2,421ポンド）
船外活動（EVA）に必要な装備：48 kg（約106ポンド）
コンピューター関連資材：4 kg（約8.8ポンド）

特に重要な積荷の一つが、ISS伸展式太陽電池アレイ（iROSA）です。これは「XTJプライム宇宙太陽電池」を用いた新しい太陽電池アレイの3対目にあたるもので、カーゴドラゴンの非与圧トランク部分に格納されて輸送されました。この新しい太陽電池アレイの設置作業は複雑であり、1対あたり2回の船外活動を要します。1回目の船外活動で設置場所の準備や改造キットの取り付けを行い、2回目の船外活動で実際に新しいパネルを設置するという手順が踏まれます。

実施された研究

CRS-28ミッションでは、ISSでの実施を目的とした複数の重要な科学研究や技術実証ペイロードも輸送されました。これにはNASAグレン研究センター関連の研究も含まれています。特に、複数の小型衛星である「キューブサット」が搭載されました。

SC-ODIN: カナダのコンコルディア大学が開発し、カナダ宇宙庁（CSA）が支援する学生主導の地球観測ミッションです。大気中の浮遊微粒子（エアロゾル）に関する理解を深め、気象・エアロゾルモデルの精度向上に貢献することを目指します。高性能CMOSセンサーでアルゼンチンのコルウエ・ウアピ湖やナミビア沿岸部を撮影し、画像処理により砂塵嵐などのエアロゾルの光学的な厚さ（AOD）を解析します。また、放射線センサーも搭載し、地球低軌道（LEO）における放射線環境のデータを収集することで、部品やハードウェアへの放射線の影響に関する理解を深めます。

Moonlighter: Aerospace Corporationが設計・開発した3Uサイズのキューブサットで、宇宙システム軍団（SSC）や空軍研究所（AFRL）との連携プロジェクトです。国家安全保障に関わる宇宙システムのサイバーセキュリティを向上させるため、軌道上でリアルタイムにテストや学習を行うためのプラットフォームを提供します。配備後の最初のミッションとして、著名なハッキング競技会「デフ・コン」の一環として開催される「Hack-A-Sat 4」の軌道上チャレンジのホストを務めます。

RADSAT-SK: カナダのサスカチュワン大学宇宙チーム（USST）、サスカチュワン大学、サスカチュワン・ポリテクニック、そしてCSAによる合同プロジェクトです。3つの技術目標を持っており、一つは大学工学部で開発された小型で安価な新型放射線量計の軌道上での検証です。二つ目は、高濃度のメラニンを宇宙での放射線シールドとして利用する可能性のテストです。この研究はアメリカのサウスカロライナ大学とも連携して行われています。三つ目は、地球観測カメラを搭載し、故郷であるサスカチュワン州の画像を宇宙から撮影して共有することを目指します。

打ち上げからドッキングまで

CRS-28補給ミッションの打ち上げは、当初2023年6月4日16時12分41秒（協定世界時UTC）に予定されていました。しかし、ロケットの第1段ブースター回収エリアにおける強風のため、打ち上げカウントダウンは中止され、ミッションは翌日へ延期されました。スペースXはその後、新たな打ち上げ時刻を6月5日15時47分（UTC）と発表しました。この新しい時刻通りに、ファルコン9ロケットとカーゴドラゴン宇宙船は、フロリダ州のケネディ宇宙センター第39A射点から無事打ち上げられました。打ち上げから約2分38秒後に第1段が分離され、約9分5秒後に無人船「A Shortfall of Gravitas」へ着艦し、回収に成功しました。カーゴドラゴン宇宙船は、打ち上げから約12分11秒後に第2段から分離されました。

カーゴドラゴンは軌道投入後、ISSへのランデブー軌道に乗りました。そして、打ち上げ翌日の6月6日火曜日09時54分（UTC）に、ISSのハーモニーモジュールへ自動ドッキングを果たしました。

特筆すべき成果

スペースXはCRS-28ミッションの実施を通じて、宇宙輸送における新たな記録を達成しました。6月7日に同社がSNS上で発表したところによると、本ミッションで使用されたカーゴドラゴン2号機は、この飛行を含めて軌道上での総滞在時間が1,324日となり、NASAのスペースシャトル計画全体の軌道上滞在時間（シャトル各機合計の約1,322日）を超過しました。また、今回のミッションは、初期型であるドラゴン1と改良型ドラゴン2を合わせたスペースXのISSへの補給・有人ミッションの回数が累計38回となり、スペースシャトル計画のISSミッション回数である37回を上回ったことも特筆されます。これらの記録は、スペースXがISSへのアクセス手段としていかに重要な役割を担うようになっているかを示しています。

CRS-28ミッションは、ISSへの重要な物資供給と、将来の宇宙開発に繋がる多様な科学技術研究の機会を提供しました。

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