スライド・ハンプトン

スライド・ハンプトン：ジャズ・トロンボーンの巨匠

スライド・ハンプトン（Slide Hampton、1932年4月21日 - 2021年11月18日）は、アメリカが生んだ傑出したジャズ・トロンボーン奏者であり、作曲家、編曲家としてもその才能を発揮しました。彼のニックネーム「スライド」は、彼の主たる楽器であるスライド・トロンボーンに由来しますが、チューバやフリューゲルホルンも巧みに演奏しました。

生い立ちと音楽への目覚め

ロックスリー・ウェリントン・ハンプトンは、ペンシルベニア州ジャネットで、音楽一家に生まれ育ちました。両親であるローラとクラーク・"ディーコン"・ハンプトンは、12人の子供たちに楽器演奏を教え、家族バンドとして活動していました。1938年にインディアナポリスへ移住してからも、ハンプトン一家の音楽への情熱は衰えることなく、家族全員が楽器を演奏しました。姉妹には、ドーン・ハンプトンとヴァーチュー・ハンプトン・ウィテッドがいます。スライド・ハンプトンは、数少ない左利きのトロンボーン奏者の一人であり、幼少期から左利き用に調整されたトロンボーンを与えられ、そのスタイルを確立しました。

プロとしてのキャリア

12歳の時、スライドは家族のジャズ・バンド、デューク・ハンプトン・バンドで演奏を始め、その才能を開花させました。20歳でライオネル・ハンプトン・バンドと共にカーネギー・ホールで演奏し、注目を集めました。1955年から1956年までバディ・ジョンソンのR&Bバンドで活動した後、1957年から1959年までメイナード・ファーガソンのバンドに加入し、「The Fugue」「Three Little Foxes」「Slides Derangement」などの人気曲でその名を広めました。1958年には、メルバ・リストンのアルバム『Melba Liston and Her 'Bones』に参加し、トロンボーン奏者としての地位を確立しました。その後、アート・ブレイキー、タッド・ダメロン、バリー・ハリス、サド・ジョーンズ、メル・ルイス、マックス・ローチといった著名なミュージシャンたちと共演し、作曲と編曲の両面で貢献しました。1962年には、フレディ・ハバード、ジョージ・コールマンと共にスライド・ハンプトン・オクテットを結成し、アメリカとヨーロッパをツアーし、数々の録音を行いました。

ヨーロッパでの活動と教育

1968年、ウディ・ハーマンのオーケストラとツアーを行った後、ヨーロッパに拠点を移し、1977年まで滞在しました。1981年には、ハーバード大学のアーティスト・イン・レジデンス、マサチューセッツ大学、デ・ポール大学、インディアナ州立大学で教鞭を執り、後進の育成にも力を注ぎました。この時期には、自身の9トロンボーン、3リズムによるバンド「World of Trombones」を率い、タッド・ダメロンの音楽を演奏するジミー・ヒースとのクインテット「Continuum」も共同で率いました。また、フリーランスのライター、プレイヤーとしても活動しました。1986年には、テレビ番組『コスビー・ショー』に出演し、1992年にはダイアナ・ロスのDVDでトロンボーンを演奏しました。

晩年と音楽への貢献

2006年、ハンプトンは自身のビッグ・バンド、スライド・ハンプトン・ウルトラ・ビッグ・バンドをデビューさせ、アントニオ・カルロス・ジョビンへのトリビュート・コンサートを開催しました。2009年には、「A Tribute to African-American Greatness」と題された4つの新しい作品を完成させ、ネルソン・マンデラ、オプラ・ウィンフリー、タイガー・ウッズ、ビーナス・ウィリアムズ、セリーナ・ウィリアムズ、バラク・オバマを称えました。これらの楽曲には、マネージャー兼作曲パートナーであるアンソニー＝チャールズ・ベイによって書かれた歌詞が付けられています。また、「In Case of Emergency」「The Drum Song」という2曲の新しいビッグ・バンド・アレンジを完成させました。

ハンプトンは、ニュージャージー州オレンジに居住し、2021年11月18日に89歳で亡くなりました。

受賞と栄誉

1998年、ディー・ディー・ブリッジウォーターが演奏した「コットン・テール」の編曲で、グラミー賞の「最優秀インストゥルメンタル・アンド・ボーカル・アレンジメント」を受賞しました。2005年には、ヴァンガード・ジャズ・オーケストラのアルバム『The Way: Music of Slide Hampton』でグラミー賞の「最優秀ラージ・ジャズ・アンサンブル・アルバム」を受賞し、2006年にはディジー・ガレスピー・オールスター・ビッグ・バンドの「Stardust」のアレンジでノミネートされました。2005年には、インディアナポリス・ジャズ・ファウンデーションによって殿堂入りを果たし、国立芸術基金からはジャズにおける最高の栄誉であるNEAジャズ・マスターズ賞を授与されました。

スライド・ハンプトンの音楽は、世代を超えて多くの人々に感動を与え続けています。

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