スリュム

スリュム：ミョルニルを盗んだ霜の巨人の王

スリュム（古ノルド語: Þrymr）は、北欧神話に登場する霜の巨人の王です。彼は、雷神トールの象徴であるハンマー「ミョルニル」を盗み出すという大胆な行動に出ます。そして、その返還の条件として、美の女神フレイヤとの結婚を要求します。

『スリュムの歌』に描かれる物語

『古エッダ』に収録されている『スリュムの歌』は、この事件の顛末を鮮やかに物語っています。ミョルニルを失ったトールは、ロキの助けを借りてその行方を突き止めます。スリュムは、フレイヤを妻として迎えることを条件にミョルニルを返すつもりでした。しかし、フレイヤ自身は当然この結婚を拒否します。そこで、神々は知恵を絞り、ヘイムダルの提案によって、トール自身がフレイヤに成りすますという奇策を立てます。

女装したトールは、ロキを侍女として引き連れ、スリュムの元へ向かいます。スリュムは、その異様な姿に多少の疑念を抱きつつも、豪華な食事や激しい眼光など、女装したトールの不自然な様子をロキの巧みな弁解によって信じ込みます。そして、結婚の儀式の際、スリュムは花嫁（トール）の膝にミョルニルを置きます。その瞬間、トールは正体を現し、ミョルニルを手にしてスリュムとその一族を打ち倒します。

スリュムの財産

スリュムは、山のような宝石、うず高く積まれた金と銀といった莫大な財産を持っていました。牛小屋には黄金の角を持つ牛や、真っ黒な牝牛も飼っていました。彼は、フレイヤを手に入れることができれば、全てを手に入れたも同然だと考えていたようです。

資料としての『スリュムの歌』

スリュムに関する神話を伝える資料は、主に『スリュムの歌』のみです。この歌は『古エッダ』の王の写本に収録されていますが、スノッリ・ストゥルルソンは自身の著作『散文のエッダ』には採用しませんでした。その理由として、スノッリ自身が『スリュムの歌』の作者であるという説も存在します。

参考文献

V.G.ネッケル他編『エッダ 古代北欧歌謡集』谷口幸男訳、新潮社、1973年、ISBN 978-4-10-313701-6。
K・クロスリイ=ホランド『北欧神話物語』山室静/米原まり子訳、青土社、1983年、ISBN 4-7917-5149-3。

関連項目

* スリュムル (衛星)

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