スルー・ザ・ルッキング・グラス (TOTOのアルバム)

スルー・ザ・ルッキング・グラス

『スルー・ザ・ルッキング・グラス』（Through the Looking Glass）は、アメリカを代表するロックバンド、TOTOが2002年に発表したスタジオ・アルバムです。彼らの作品群の中でも特筆すべき点として、バンドにとって初めて全曲をカバーで構成したアルバムであることが挙げられます。アルバムタイトルの「Through the Looking Glass」は、『不思議の国のアリス』の続編である『鏡の国のアリス』の原題であり、著名な楽曲をTOTOという鏡を通して見つめ直す、あるいは新たな側面を映し出すという意図が込められているのかもしれません。

本作の制作は、キーボーディストであり主要なソングライターの一人であるデヴィッド・ペイチの発案によって実現しました。彼らのキャリアにおいて、オリジナル楽曲の制作が中心であったTOTOが、他アーティストの楽曲に光を当て、独自のサウンドで再構築するという新たな試みに挑んだことは、当時のファンにとっても驚きをもって迎えられました。また、本作は長年在籍し数々のヒット作を生み出してきたコロムビア・レコードを離れ、キャピトル・レコード傘下のCMCレコードからリリースされたことも、新たな環境での出発を示す作品となりました。

収録曲は、ロック、ソウル、レゲエ、ジャズ・フュージョンなど、多岐にわたるジャンルから選ばれています。ボブ・マーリー＆ザ・ウェイラーズのレゲエ・クラシック「クッド・ユー・ビー・ラヴド」に始まり、スティーリー・ダンのジャジーなロック「菩薩」、ビートルズの叙情的名曲「ホワイル・マイ・ギター・ジェントリー・ウィープス」といった、それぞれの時代を彩った名曲たちが並びます。アル・グリーンのソウル・ヒット「アイ・キャント・ゲット・ネクスト・トゥ・ユー」や、スティーヴィー・ワンダーの社会的メッセージを込めた「汚れた街」など、R&Bやソウルからの選曲も含まれています。

さらに、ジャズ・フュージョンの巨匠ハービー・ハンコックの代表曲である「処女航海」と「バタフライ」をメドレー形式で披露したり、エルトン・ジョンの初期の力作「バーン・ダウン・ザ・ミッション」、クリームのサイケデリック・ロック・アンセム「サンシャイン・オブ・ユア・ラヴ」など、バラエティに富んだ選曲が続いていきます。トラディショナル・ソングでありながらアニマルズのバージョンで世界的なヒットとなった「朝日のあたる家」や、エルヴィス・コステロの初期のニュー・ウェイヴ・チューン「ウォッチング・ザ・ディテクティヴス」、そしてボブ・ディランのフォーク・ロック期の名曲「悲しみは果てしなく」に至るまで、その網羅する範囲は非常に広いです。

これらの楽曲をTOTOがカバーするにあたり、彼らの卓越した演奏能力とアレンジ力が遺憾なく発揮されています。原曲への敬意を払いながらも、TOTOならではの技巧的な演奏や厚みのあるサウンドで再構築されており、単なるコピーではなく、新たな息吹が吹き込まれたバージョンとして提示されています。

本作には、当時のレギュラー・メンバーであるボビー・キンボール（ボーカル）、スティーヴ・ルカサー（ギター、ボーカル）、マイク・ポーカロ（ベース）、デヴィッド・ペイチ（キーボード、ボーカル）、サイモン・フィリップス（ドラム、パーカッション）に加え、レニー・カストロ（パーカッション）、スティーヴ・ポーカロ（シンセサイザー）、ブランダン・フィールズ（テナー・サックス）、ウォルト・ファウラー（トランペット）といったゲストミュージシャンが参加し、サウンドに彩りを加えています。また、ジェームス・イングラム、エリス・ホール、デイヴィ・ジョンストン、ナイジェル・オルソン、モネットといった錚々たる面々がボーカルやバッキング・ボーカルで参加しており、各楽曲の魅力を引き出す重要な役割を担っています。

様々な時代の、そして多様なジャンルの名曲たちにTOTOが向き合った『スルー・ザ・ルッキング・グラス』は、彼らの音楽的探求心と高度な演奏技術を示す作品として、キャリアに新たなページを加えました。

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