スヴャトポルク1世

スヴャトポルク：呪われた大公の生涯

スヴャトポルク（980年頃 - 1019年）は、キエフ大公国の大公として知られています。しかし、その生涯は兄弟間の権力争いと暗殺、そして敗北と逃亡に彩られた、波乱に満ちたものでした。

出自

スヴャトポルクの出自は複雑です。彼の祖父であるスヴャトスラフは、ビザンツ遠征の際に捕虜としたギリシア人修道女を、長男ヤロポルクに妻として与えました。スヴャトスラフの死後、ヤロポルクは弟オレグとの争いを経てキエフ・ルーシの公となりますが、980年に弟ウラジーミルの手によって殺害されます。ウラジーミルはヤロポルクの未亡人を自分のものとしますが、彼女はすでに妊娠しており、生まれたのがスヴャトポルクでした。

『原初年代記』には、この出自について「罪の根からは悪い果実が生じる」と記されています。ウラジーミルはスヴャトポルクを愛さず、彼は「二人の父」、ヤロポルクとウラジーミルの間で複雑な立場に置かれることになりました。

988年、スヴャトポルクはトゥーロフ公となり、ポーランド公ボレスワフ1世の娘を妻に迎えました。しかし、ウラジーミルはスヴャトポルクがボレスワフと通じていると疑い、彼を妻や司教とともに投獄しました。

キエフ大公位を巡る戦い

1015年、ウラジーミルが急死すると、キエフでは後継者争いが勃発します。スヴャトポルクは、ウラジーミルが寵愛したボリスを暗殺し、続いて弟グレブも殺害しました。『原初年代記』によれば、スヴャトポルクはキエフ大公の座を狙い、邪魔者を排除するために冷酷な手段を使ったとされています。

一方、ノヴゴロドではヤロスラフが、ウラジーミルの死と兄弟殺害の報に接します。ノヴゴロド市民とヴァリャーグ傭兵の支援を受けたヤロスラフは、1016年にスヴャトポルクと対峙し、これを破りました。敗れたスヴャトポルクはポーランドへ逃れ、義父ボレスワフの助けを求めます。

1018年、ボレスワフの軍勢を借りてスヴャトポルクはヤロスラフを破り、キエフを奪還します。しかし、ボレスワフはキエフを略奪し、ポーランド兵を駐留させたため、スヴャトポルクは彼と決別し、ポーランド人の殺害を命じます。ボレスワフは略奪品とともにポーランドへ引き上げましたが、その過程でチェルヴェンの諸都市を占領しました。

ボレスワフが去った後、スヴャトポルクは再びキエフを治めますが、すぐにヤロスラフの攻撃を受け、ペチェネグ族のもとへ逃亡します。1019年、ペチェネグの大軍を率いてヤロスラフに挑みますが、リト川付近での激戦の末に敗北。スヴャトポルクは再び逃亡し、「悪魔に襲われた」かのように衰弱し、ポーランドとチェコの間の荒野で病死しました。

異説

スヴャトポルクによるボリスとグレブの殺害については、異説も存在します。ニコライ・イリインは、ボリスを殺害したのはヤロスラフであり、『原初年代記』の記述はヤロスラフの命による捏造であるという見方を示しました。彼は『エイムンドのサガ』を根拠に、ヤロスラフが弟ボリスを殺害したという仮説を主張しました。しかし、この説に対しては、史料学的な不安定さを指摘する批判も存在します。

スヴャトポルクは、その出自、兄弟殺害、そして最終的な敗北によって、「呪われた」という異名を与えられました。彼の生涯は、キエフ・ルーシ初期の権力闘争の激しさと、その悲劇的な結末を象徴するものとして、歴史に刻まれています。

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